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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第五章 雷の国イスズ

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しばしの休息、からの

「ごめん、グラファイト」


 トウマは、火の国ムスタングにあるグラファイトの工房で、グラファイトに頭を下げた。

 光の国チーフテンから戻るなり、トウマは速攻でグラファイトの元へ。グラファイトは『淵月』について聞こうと思ったが、いきなりの謝罪に驚きしかない。

 グラファイトは言う。


「ど、どうしたんだい? 頭を上げてくれトウマくん……何か、あったのかい?」

「ああ。『瀞月・脇差』を、盗られちまった。でも……俺、怒ってないし、盗られたっていうか、あげてもいいと思ってる」

「……え?」


 グラファイトは、トウマから事情を聞くべく椅子を出す。

 娘のマヤノがトウマにお茶を出すと、トウマはカバンから「ほれ、お土産」とチーフテンのお菓子を大量に渡した。マヤノは大喜びで部屋に戻った。


「それで……何があったんだい?」

「…………」


 トウマは説明した。

 自分そっくりの男、マサムネが現れたこと。マサムネはトウマの『瀞月・脇差』を奪ったこと、そしてその脇差を改良し、自分なりの刀に変えたこと。


「俺は、コンゴウザンの最高傑作を歪められても、怒りよりもマサムネがもっと強くなったことを喜んだ。コンゴウザンは、俺のために最高の刀を残してくれたのに……」

「トウマくん、それは間違っていないよ」


 グラファイトは、断言した。

 トウマは思わずグラファイトを見る。


「ご先祖様はきっと、『瀞月』をトウマくんが後生大事に使うなんて思ってないと思うよ。それに、刀の製法を残した時点で、きっと子孫に『瀞月』を超える刀を作らせるつもりだった。きみが『瀞月』を折ったりするかもしれないから、『瀞月』よりも強い刀を作れるようにって、自分の技術を残したんだよ。だから、トウマくんが何をしようと、ご先祖様はわかってると思う」

「…………」


 グラファイトの笑みを見た時、傍でコンゴウザンが「ったく、バカヤローめ」と笑ったような気がした。

 トウマは「……ああ」と小さく呟き、頷いた。


「悪かった!! よし、終わり。グラファイト、お前の『淵月』だけど、いい刀だったぞ!! でも、まだコンゴウザンの『瀞月』が上だけどな」

「やっぱりね。でも、まだまだこれからさ。さあ、トウマくん。刀を研ごう」

「おう!!」


 トウマは、スッキリした顔で『瀞月』と『淵月』を渡すのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 アシェは、『斬月』の本拠地であるトウマの家で、シロガネと向かい合っていた。

 テーブルには、和紙と呼ばれる雷の国イスズで使われる特別な紙が折りたたんで置いてあり、そこには『トウマ・ハバキリ殿へ』と書かれていた。


「……雷の国イスズの女皇、ミドリ様から送られてきた手紙だ。見ての通り、トウマ。いや……トウマ様を指名している」

「あ~……帰って来るなり、もう次の国に行くのかしら」


 手紙には、難しい言葉がいくつも並んでいた……要約すると『トウマに会いたい』と書かれていた。

 現在、本拠地にいるのはアシェ、シロガネの二人だけ。

 マールとカトライアは休暇で町に買い物。ヴラド、ハスターの二人は学園。リヒトは本調子ではないので部屋で休んでいる……そして、リヒトの看病はなんとセリアンだ。

 正式にセリアンはリヒトの婚約者となり、今はもうリヒトにベタぼれ状態。火の国ムスタングに帰る時になり、一緒に行くと言って周囲を驚かせた。

 そしてビャクレンは「修行する」と庭で瞑想中、トウマは「グラファイトんとこ行くわ」と出て行った。

 そして、シロガネが「話がある」と言い、アシェに手紙をみせたのである。


「……なんでアタシに見せたの?」

「アシェ。お前は、トウマ様に言うことを聞かせられることができる。私だけの言葉では、トウマ様は雷の国イスズに来てくれるかわからない。どうか、一緒に説得してほしい」

「ハスターのヤツ、次はトウマを自分の国に連れて行くって言ってたけど、抜け駆けするの?」


 そう言い、意地の悪い質問だったとアシェは思ったが、シロガネは首を振った。


「そんなつもりはない。私はただ、手紙を見て、トウマ様に……そしてお前に伝えるべきだと思った。だから学園を休んで伝えただけだ」

「まあ……そっか、うん。まあいいわ。でも、アタシが言ったからって、トウマが動くとは限らないわよ」

「そうか。では……身体を使おう」

「は?」

「トウマ様は、女性を欲していると聞いた。私の身体でよければ……」

「ばば、馬鹿!! そういうのはダメ!!」

「む、なぜだ? あのビャクレン嬢とはすでにそういう関係なのだろう?」

「ちっがうし!! ああもう、とにかくダメ。いいわね」

「むう」


 意外に天然なのか……と、アシェは思った。


 ◇◇◇◇◇◇


 トウマ、ビャクレンが戻り、さっそくアシェは二人を呼んだ。

 そして、シロガネと、シロガネの持って来た手紙を見せる。


「ってわけで、雷の国イスズの女皇がアンタを呼んでるみたいなのよ。次の支配地域解放は、雷の国イスズでどう?」

「いいぞ。雷の国イスズかぁ……どんな美味いモンがあるのかなあ」

「ったく、そんなことより……シロガネから聞いたわ。雷の国イスズって、アンタの子孫……っていうか、親族? それが女皇って」

「らしいな。兄貴か、妹二人の子孫らしいけど、俺にはわからん。というか……」


 もう、すでに家族の顔は覚えていないトウマ。

 兄がいた、妹二人がいた、それしかわからない。

 シロガネは言う。


「私は、ハバキリ皇家に仕える守護貴族、シロガネ家の者です。トウマ様……どうか一度、雷の国イスズにお越しください」

「いいぞ。それに、そこの七曜月下を潰そうとすれば、月からさらに強いやつも来るし、今度はマサムネとも全力で戦えるしな。ワクワクする」

「師匠、お供します」


 と、ビャクレンが言ったところでトウマは首を振った。


「待て。今回、お前は留守番だ」

「なっ……な、何故です!?」

「リヒト。あいつを徹底的に鍛えろ。お前もわかるだろ? あいつの格闘術の才能は並みじゃない。お前が鍛え上げれば、お前を超える可能性もある。それじゃダメだ……リヒトを鍛えつつ、お前も強くなれ。それが今回、お前への修行だ」

「師匠……」


 その話を聞き、アシェは言う。


「確かに、リヒト……すっごく強かったわ。じゃあトウマ、今回は誰と行くの?」

「俺、シロガネは決定だろ。あとアシェも一緒だ」

「あ、アタシは今回、最初から?」

「おう。お前、俺と一緒がいいだろ?」

「はぁ? ばば、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!!」


 アシェは、顔を赤くして吠えた。

 そして咳払い。


「こほん!! あとは、カトライアとマール? リヒト、ビャクレンは留守番だけど……」

「待て。今回は、私たち三人だけだ」

「え? ど、どういうことよ」


 アシェが驚くと、シロガネは懐から三枚の『割符』を出す。


「雷の国イスズは現在、鎖国状態にある。入国許可証は二枚しかない」

「はあ? こっちには火の国ムスタングの国王陛下からの……」

「例外はない。他国の王がなんと言おうと、雷の国イスズに入るにはこの割符を使うしかない」

「じゃ、じゃあ……七曜月下と戦うの、アタシとアンタだけ?」

「イスズにも、私以上の戦士はいる。問題はない」

「……うーん」

「ははは。まあいいじゃん。俺とアシェとシロガネか。俺、女の子に囲まれて嬉しいけどな」

「……お気楽馬鹿」


 アシェは大きなため息を吐き、今からすでに嫌な予感を感じるのだった。

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