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第7話 順番が逆になった太陽系の惑星、三人家族のような私たち

 どれだけ歩いたか分からないが、少し休むために休憩所としての木の家にやってきた。


 楓さんは冷蔵庫と戸棚から使えそうな食材を見つけ、この時間を利用して昼食の準備をしようとしている。


「あの、お兄さん、何かお手伝いできることありますか?」

「私も手伝いたいんだけど、いいですか?楓兄さん」

「そう呼ばないでくれ」


 昨日は手伝い不要と言っていた楓さんが、今度は残りの二つのエプロンを取って私たちに投げ渡した。

 エリカちゃんに子供用エプロンを結んであげる。


「野菜を洗って、ニンジンとジャガイモの皮をむくだけ。終わったら、休んでいい」

「じゃあ、エリカちゃんに野菜を洗う任務を任せていいかな?」

「はい、頑張ります!」


 昼食の準備をしている間、子犬ちゃんはソファでのんびりと寝ている。

 楓さんはコロッケとキノコのリゾットを作るつもりだって言っていた。

 彼は私たちに簡単な仕事しか与えず、野菜を切ったり料理したりといった危険な仕事はさせてくれなかった。まるで私たちが怪我するのを心配しているかのようだった。もし本当にそうだったら、楓さんは本当にツンデレだね。

 そう思うと、こっそりと安堵して微笑んだ。

 一緒にいる間、何だか楓さんが無表情で冷たく振る舞うのを無理にしているような気がした。理由は分からないし、この感じが正しいかどうかも分からないけど、他の感情を持つことと他の人を気にかけることができるのは良いことだと思う。自分の感情を殺するってきっと辛いから。


 皮をむいたじゃがいもが入ったボウルを手に取ると、楓さんの方へ歩いていく。


 ほんの数歩のところで突然足が滑って思わず前のめりになってしまった。


「えっ……?」


 地面に倒れそうな予感がした瞬間、誰かが私をしっかりと受け止めてくれた。


「君、大丈夫?」


 その眼差し、電車の時と同じように優しそうだった。


「……アッ……ハイ……ありがとう」


 私がしっかりと立ち直った後、ふと顔を上げると、彼とこんな近い距離で目が合ってしまい、思わず少し恥ずかしくなってすぐに顔を逸らした。


「ごめんなさい、篠原姉さん!地面にある水は、多分さっき私がうっかりこぼしてしまったんです……気を付けていなくて、本当にすみませんでした……!」


 エリカちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。

 すると、私はしゃがんで、優しく彼女の頭を撫でて慰めている。


「大丈夫だよ、エリカちゃん。これはあなたのせいじゃないし、私も気づかなかったんだから。しかも、怪我してないから、気にしないでね」

「で、でも、もしさっきお兄さんがいなかったら、私の不注意で篠原姉さんが怪我してたかもしれません……」

「過去のことを気にしたり後悔してばかりいると、自分が不機嫌になるだけだよ。だから、元気を出して?」

「うん……ありがとう、篠原姉さん、お兄さん」

「君たちは休んでろ」

「はい、了解」


 それからしばらくすると、昼食の用意ができた。

 一緒に美味しい昼食を取った後で私たちは再び終点へ向かって出発した。


 木の家を出て少し歩いたところでエリカちゃんの両親に出会った。しばらくぶりに娘と再会した両親はすぐに駆け寄ってエリカちゃんを抱きしめた。しかも、母は泣いていた。

 この光景を見ていると、私は思わず昔のことを思い出した。 取り戻した記憶の中、幼稚園の頃、家族と四国に旅行した時に迷子になったことがある。警察署で両親が駆けつけた時は、今のような光景があった。


「家族が恋しいな」

「ならば全ての記憶を取り戻せば、また再会できる」

「分かったわよ。私……いや、これからも一緒に頑張りましょう!」


 エリカちゃんの両親は、この間エリカちゃんの世話をしてくれたことに感謝してくれた。しかし実際には、エリカちゃんのおかげで雰囲気が少し賑やかになったので、むしろ感謝されるべきなのは私の方だ。

 エリカちゃんの家族がまだ崖の景色を見に行っていなかったため、目的地が同じだと知ると一緒に行くことを提案してきた。私と小犬ちゃんは特に異論もなく、楓さんも拒否しなかったので、こうして決まった。

 エリカちゃんがまだ私の手を繋いでいたいから、私たちはそのまま小犬ちゃんの後ろをついて歩いている。

 振り返ると、楓さんとエリカちゃんの両親が少し後ろで私たちと距離を保ちながら、何かひそひそ話している様子。


「あの三人、何を話してるの……?」


 ちょっと気になるな。後で楓さんに聞いてみよう。


* * *


 森を抜けた。


「着いたぞ。ここがお前らが探していた場所」


 足元には白いタンポポの花畑が広がっている。風が吹いた瞬間、綿毛が宙に舞いながら、次第にほぼ透明な蝶々に変わって飛び回っている。

 視線は蝶々を追いながら上へと向かっていった。鏡は崖の先端にある。夕焼けに染まった空には数え切れないほどの星が散りばめられ、太陽と月が同時に現れている。雲の端には順序が逆転して一列に並んだ太陽系の惑星がはっきりと見え、その中で地球だけが不思議にもバラバラになっていた。


「ありがとう、ここに連れてきてくれて。さて、早くその鏡に触れてみて、篠原さん」


 楓さんの声で我に返った。


「うん」


 田舎道を通り抜け、鏡の前にたどり着いた。すると、手を伸ばす。

 前回と同じように、面に触れた瞬間、鏡の回廊に来た。

 今回の回廊では、浮かんでいる鏡の破片が前よりも多くなっているようだった。


「ふふ、これだけ短い間会っていなかったのに、楓さんとは仲が良くなってるみたいだね」


 下を見ると、足元に映っているのは中学生の頃の私ではなく、よく見る高校生の制服を着た私だった。


「前回と違う?」

「あなたがこれから見る記憶の断片に合わせて、私の姿も年齢に応じて自動的に変わるのよ。それより、あなたがさっき経験したことのおかげで面白い記憶を手に入れたわ」 

「面白い記憶?どういう意味?」


 話しながら、前へと進んでいる。


 鏡の破片を通り過ぎると、中学卒業前の記憶が大量に頭に流れ込んできた。


「過去の記憶では、『篠原心優』は異性と一緒にいても照れることは一度もなかったんだけど、少し前に楓さんの前で照れるなんて」


 鏡像の言葉で、ふとさっき楓さんの腕の中に倒れ込んだ時のことが思い出された。


「それは不可抗力だ!」

「へえー?」

「本当だよ!」

「まぁまぁ、別に信じないって言ってないし」

「ずるいな。『過去の自分』は私をからかうことができるけど、私がからかい返すなら、まるでバカが自分をからかってるみたいだもん」


 私は不満げにそう言った。

 割れたガラス玉に触れると、意識がその中に吸い込まれた。

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