第6話 砂漠森、夫婦と勘違いされた私たち
車内放送が響き渡り、その音で目を覚ました。
……私、どのくらい寝てた?
さっきうっかり寝てしまった。
ていうか、なんか体が少し傾いてる気がする?
私は姿勢を正して、伸びをした。すると、楓さんが俯いていて、頬を赤らめているのに気づいた。
それに、肩には茶色い長い髪の毛が一本あった。楓さんは白いTシャツを着ているので、すごく目立っていた。
楓さんは白い髪で、私の髪色は茶色だから……つまり、それは私の髪?え?なんで私の髪が楓さんの肩に付いているの?
……そういえば、さっき体が傾いていたような……まさか、楓さんの肩にもたれて寝てしまった!?もしそうなら、なんか恥ずかしい……
「ね、さっき……」
「着いた、行こう」
さっき何があったのか聞く前に、楓さんはさっと立ち上がった。
「アッハイ」
電車を降りて周りを見渡すと、ここが雲の上に浮かんでいる駅だと気づいてびっくりしまった。我に返った私は急いで楓さんに追いつき、自動販売機の横にある鳥居を通り抜けた。
瞬きする間に、景色が全く別のものに変わった。
目の前には大きな木々と草が生い茂る砂地と、澄んだ湖が広がっている。湖のほとりに数匹のホッキョクグマとペンギンが水を飲んでいる。さらに、たくさんの木には木の家があり、煙突からは煙が立ち上っていて、誰かが住んでいるようだ。
どこからか現れた小さなホッキョクギツネが私の肩に飛び乗ってきて、頭で甘えるように私の首をすりすりしてきた。その可愛さに耐えられずその頭を撫でた。
「この場所は広いらしい。 終点がどこか分かる?」
「いいえ。まず誰かに聞いて」
「俺、知ってるよ、あの場所」
後ろに突然、超可愛くて毛がふわふわで、しかも人間の言葉を話せるボーダーコリーが現れた。
私の肩に乗っていたホッキョクギツネが、子犬ちゃんを見るやいなやすぐに飛び降りて逃げちゃった。
この時、心の奥底から『早く子犬ちゃんを抱きしめて!』という声が聞こえたような気がした。
すると、体が無意識に動いて、子犬ちゃんを抱きしめている。
「可愛いいいい!しかも、ふわふわって……」
子犬ちゃんの毛に顔を埋めている。
「おい、離してくれ!って、お前、聞いてんのか!?」
子犬ちゃんはもがいている。でも、まだ満足してないから、離したくない。
「そういえば、君は犬派だっけ……」
楓さんは仕方なさそうにため息をついた。
「楓さん、この子はさっき終点の場所を知ってるって言ってたから、この子を一緒に連れて行こう?」
「そうは言っても、離さなければ、これじゃあどうやって彼に道案内してもらうんだ?」
「……そうですね。ごめんね、嬉しすぎて、つい皆に迷惑をかけちゃった」
少し名残惜しく抱きしめるのをやめると、子犬ちゃんはすぐに楓さんの後ろに逃げて、私と距離を取った。
「もう一度抱きついたら、あの場所には連れて行かないからな!」
「本当に申し訳ない……」
もう触らせてくれないなら、大人しく後ろについていくしかないな。
* * *
この場所、至る所に北極と南極の生物がいて、地面には砂の上に氷山と火山もある。今まで見た景色と同じくらいに不思議だ。
「楓さん、昼食は何?」
「……朝食もまだ消化してないのに昼食のこと言うなんて」
「仕方ないでしょう。だってあなたの料理はすごく美味しいから、楽しみにしてるわ」
これは冗談じゃない。もし毎日楓さんが作る料理を食べられるなら、それだけで幸せだ。
「この少年が料理できるの?」
「昔、母さんから教わった」
「なるほどね。一部の木の家は公共の休憩所で、いつも食材が用意されているんだ。もし昼ご飯を作りたいなら、案内してあげるよ」
話していた時、なんか泣き声が聞こえたような気がした。
周りを見渡しても、私たち以外には誰もいなくて、急にゾッとした。
「どうした?」
「ね……誰かの泣き声を聞こえた?」
「……確かにある」
「ここから遠くないし、ついでに見に行こうか」
怖いけど、誰が泣いている声なのかを確かめたくてたまらなかった。
だから私は楓さんの後ろに隠れて、彼の服の裾を掴んだ。
「……何してる?」
「このままついて行っていいの?ちょっと怖いっす……」
楓さんは軽くため息をついて、何も言わなかった。すると、このまま歩き続けたが、歩く速度を落とした。
これが怪奇現象ではないなと、心の中で祈っている。
その泣き声の主を見つけたら、自分がただ考えすぎていたことに気づいた。
まるで人形のように美しい顔立ちの幼女が砂の地面に座って泣いていた。私たちに気づくと、慌てて手で涙を拭った。
私は彼女の前に歩み寄り、しゃがみ込んだ。
「お嬢ちゃん、どうして一人でここにいるの?」
「わ……私、パパとママとはぐれちゃった……」
また泣き出しそうで、私はどうしていいか分からず楓さんを振り返った。
「助けて……」
すると、彼は顔を背けて私を無視した。
仕方がない、自分でやるしかない。
「よしよし、泣かないで」
以前母さんが妹をなだめる方法を引用して、しゃがんで優しく彼女の頭を撫でている。
だんだんと、そんなに怖がらなくなり、気持ちが落ち着いてきた。
「今どうすればいい?」
こんなところで一人にするのは危険すぎる。 この子が両親を探す手助けをしたいとは思ったけど、楓さんの意見も聞かなければならない。
「……本来の目的を妨げなければ、何をしても勝手にしろ」
「それじゃあ、お嬢ちゃん、私たちと一緒に来ない? ご両親を探すのを手伝いするよ」
「本当に……?」
「うん、本当だよ。嘘をつくと鼻が伸びるよ」
彼女は少しの間ためらった後、この提案を受け入れ、まるで私を傷つけるのを恐れているかのようにそっと私の手を握った。
「あなたの名前は?」
「エリカ。今年4歳。姉さんは?」
「篠原心優、16歳だよ」
「じゃ、篠原姉さんと呼んでいいですか?」
「もちろん! よろしくな、エリカちゃん」
「うん、よろしくお願いします、篠原姉さん」
その天使のように無邪気で可愛らしい笑顔を見て、魂は浄化されたようだった。
可愛いいいいいいいいい!私の妹と同じぐらい!
でも、エリカちゃんは急に私の後ろに隠れてしまった。
「ん?」
視線を辿ると、エリカちゃんと楓さんが互いに見つめ合っているのを発見した。
これはもしかして、楓さんを怖がっているのか?
「大丈夫だよ、彼はいい人だから」
頭を安心させるために撫でていたが、何の効果もなさそう。
「……案内を続けてください」
「おう」
その冷たい態度がまた私に彼をからかいたくなる。
「エリカちゃん、彼は今冷たく見えるかもしれないけど、実はちょっとツンデレなんだよ」
「ツンデレ?」
「んー、なんて言うか……いつも冷たいふりをしてるけど、実は優しいんだ。要するに、素直じゃない」
「僕、ツンデレじゃない」
「ツンデレな人は大抵そう言うんだよ」
「だから、違うって……!」
私は興味津々にその少し赤くなったの横顔をじっと見ている。
「顔が赤いよ。可愛いね、照れる時の反応」
「うるせえ……」
うまくからかえたことで、思わず心が浮き立ち、笑顔がこぼれた。
「あの、篠原姉さん。あなたたちは夫婦ですか?」
「えっ?違うよ」
「違うだ」
楓さんと私はほぼ同時に言った。
「でもママがこの世界の大人はほとんど皆伴侶がいるって言っていました」
確かに、この2日間見かけた人たちは皆伴侶がいて、しかもとても仲が良さそうだった。でも私と楓さんはそういう関係じゃないんだ……
私たちは恋人じゃないし、友達よりは現実の世界に戻るために一緒に行動しているパートナーみたいな感じ……でもパートナーのような関係というのもなんか正確じゃないかな。実際私はずっと世話してもらってる側だし……だから私たちってどんな関係なんだろう?
どう説明すればいいのか考えている最中、楓さんが深いため息をついた。
「……とにかく、僕たちは夫婦じゃない。カップルにも夫婦にもなることもありえない」
楓さんは俯いている。相変わらず無表情を保っているけれど、何か普段と違う感じがする。
「じゃあ、将来は結婚するのですか?」
「エリカちゃん、お願いだからもう聞かないでくれ……」
「え?なんで?」
「だって、何だか恥ずかしい……」
子供は思ったことをすぐ口に出す性格だと分かる。だって私の妹も昔はそんな感じだったから。でも、上手く答えられないと、これから楓さんの前で気まずくなるかもしれないから、やっぱり答えない方がいいかな。
この話題を早く終わらせようと、他の話題を必死に探している。
「そ、そういえば……! エリカちゃん、パパとママがどこにいるのか知ってる?」
「もし知ってたら迷子になってなかっただろう」
「あ、そうだよね。アハハ……」
やっと思いついた話題なのに、結局楓さんにツッコまれた。
「ママが崖に景色を見に行くって言ってたけど、崖がどこにあるか分かりません……」
「奇遇だね。そこはちょうどこの二人が行こうとしている場所と同じだ」
その一言で、エリカちゃんは忽ち元気を取り戻した。
「よかったね、エリカちゃん。もうすぐパパとママに会えるよ」
「うん!」
エリカちゃんは嬉しそうに笑った。
再び、魂が浄化された。