第33話 楓
22歳、秋のある日。
皆それぞれの大学を卒業した。
ハルちゃんと佐藤くんが、来年の春に結婚式を挙げることになった。それで、帰国したばかりの沙織ちゃんと私も誘われ、一緒にウェディングドレスを選びに行くことに。佐藤くんは急な打ち合わせが入ってしまったらしく、少し遅れて来る予定だ。
「どれが一番可愛いかな……」
専門店の中で、高校時代のショートヘアから腰までほぼ届くほどに伸びた黒髪、そしてより一層成熟した女性らしさを感じさせるハルちゃんが、どのウェディングドレスを選ぶべきか悩んでいる。
「やっぱりリボンで体を巻いて、ウェディングドレス風にした方がいいかな」
「まさか、エロ漫画家に転職したいから、私のその姿を参考にしようとしてるんじゃないでしょうね?」
「そうすれば、佐藤ももっと君を愛してくれるかもしれないよ」
留学から帰ってきた沙織ちゃんは、見た目がもっと美しくなって、スタイルもかっこよくて魅力的になった。それでも今でも恋愛には全然興味がないみたい。
「あのバカはもともと私のことをすごく愛してくれてたのよ。それよりも、あんたたちがいつウェディングドレスを着るのか、楽しみにしてるんだけど」
「それは残念ね。でも、私は恋愛には全く興味がないの。仕事の方が大事だから」
「私なら、もう着たことがあるのよ。この人生では二度と着ることはないわ」
左手の薬指にはめたペアリングを見せつけた。
かつて、不思議な世界で、私が初めて、そして最後にウェディングドレスの姿でこの人生で一番好きな男のもとへ歩いていった。だから、もう他の人を好きになることも、二度とウェディングドレスを着ることもない。
「あの夢、まだ忘れてないの?」
「あれは夢じゃない」
「もし祐樹ちゃんがあんたがまだ彼を好きだって知ったら、きっと喜ぶと思うよ」
祐樹の話題が出ると、雰囲気が一瞬にして少し悲しくなった。
こんな雰囲気の中、佐藤君がようやく仕事を終えて、この店にやって来た。
今の佐藤君、もう高校の頃よりずっと大人っぽくて落ち着いてる。
「遅いよ」
「俺たちこれからの未来のために頑張ってるってことで、仕事終わりに急いで来たんだから許してくれよ」
「後でケーキをご馳走してね!」
「はいはい」
「眩しい……」
「今度はあなたが私が普段受けている苦しみを味わう番だね」
今でも、沙織はいつもラブラブなバカップルに慣れないままだった。
心優が通っていた大学とそのバカップルが通う大学は同じ県にあるため、よく顔を合わせることが多く、そのたびにこのバカップルのイチャイチャを強制的に見せられるのだ。
この店を見終わったけれど、決められずにいたので、別の店を見に行くことにした。
温かな日差しを浴びながら、リラックスしていくのを感じた。
風が吹き抜け、街道沿いのモミジの葉が次々と舞い落ちていく。私は手を広げ、一枚のカエデがゆっくりと私の掌に舞い降りてきた。
祐樹、今皆幸せに暮らしてるよ。でも、もしあなたがまだ生きていたら、どんなに良かっただろうね。
すると、目の前に祐樹の幻影が現れた。彼の左手の薬指には私と同じペアリングがはめられていて、日常的にイチャイチャをしているあのバカップルの前を歩いている。
そして、ぼーっとしている私に気づいたかのように、笑顔で振り返った。
「どうしたの?」
沙織ちゃんが問いかけると同時に、舞い上がる落ち葉の中で、祐樹の姿は消えてしまった。
手の中のカエデも、秋風に乗って遠くへと舞い上がっていった。
「いや、なんでも」
私はいつも通り微笑みを浮かべながら、皆の後について歩き出した。




