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第29話 誕生日

 16歳、10月11日。

 今日は心優の誕生日。


 心優が教室に着くと、早くから待っていたクラスメートたちが集まってお祝いをしてくれ、たくさんのプレゼントを受け取った。自分の机の上には、誰が贈ったのか分からないぬいぐるみがいくつか置かれていた。

 毎年、心優の誕生日には今のようにたくさんのプレゼントが届く。クラスメートに自分の誕生日を教えてはいないのに、皆は様々な方法で知ってしまうのだ。

 幼稚園の頃からもらった誕生日プレゼントは、心優の部屋にあるダンボール箱に大切に保管している。しかし、その数が多すぎて、今ではすでに十五箱も積み重なってしまった。


 だらしない沙織がカバンから五枚の食事券を取り出した。


「これ、父の会社の新しくオープンしたレストランの食事券なんだけど、今夜あのバカップルと宮野も誘って一緒にお祝いしない?」

「ありがとう、沙織ちゃん。大好きだよ」

「うん、やっぱいいや」


 沙織は思わず嫌な顔をして、食事券を引っ込めたくなった。


「ごめんごめん、悪かったよ」

「沙織ちゃん、心優ちゃん、おはよう。あっ、そうだ。心優ちゃん、誕生日おめでとう」


 教室はまるで人生勝ち組の輝きに満ちていて、特にあのバカップルに一番近い心優と沙織の二人は、その光に飲み込まれそうだ。


「うわーっ、眩しすぎ!沙織、サングラス持ってる?」

「私はもう塵になった」

「二人とも、ちょっと大げさだよ」


 佐藤はそう言いながら、心優にプレゼントを差し出した。


「これ、ハルと俺が選んだプレゼントだ。気に入ってくれるといいな」

「私が選んだんでしょう?」

「でも、俺が一緒に付き合ったから、一緒に選んだってことでいいだろ?」

「私が選んだの!」


 バカップルは周りの人々を無視して、またイチャイチャし始めた。

 人生勝ち組の光に消されそうになったその時、バカップルの『お父さん』がタイミングよく現れた。


「ストップー」


 宮野の顔は相変わらず、乱雑な黒い線に覆われている。


「宮野、本当に助かった。もう少しで死ぬところだった」

「おはよう、宮野くん」

「あっ、おはよう。それと誕生日おめでとう」

「えへへ、ありがとう!」

「ところで、今晩の7時、時間ある?時間があったら心優ちゃんの誕生日を祝うために来てくれる?」


 沙織は手に持った食事券を振り回した。

 バカップルと宮野が「いいよ」と言ったので、こうして決まった。



 10月の夜は普段より早く訪れる。

 街灯が闇の中で点滅し、本来なら夜色に包まれるはずの道を照らしている。冬まではまだ数ヶ月先だが、気温は少しずつ下がり始めている。ひんやりとした風が吹き抜け、髪先がそのリズムに合わせて静かに揺れている。


 公園を通り過ぎると、宮野がベンチに座っているのが目に入った。彼も同時に心優に気づいた。彼の横には、ケーキ箱が置いてあった。


「宮野くん?何でここに?レストランに行くんじゃなかったの?」

「あの、久保さんが君が迷子になるかもしれないから、付き添ってくれって頼まれた」


 宮野は横に置いてあったケーキ箱を手に取り、心優の方へと歩み寄ってきた。


「沙織ちゃん本当に私のこと信じてないんだね」

「えーと、来ない方がよかったかな?」

「いやいや、そんなことないよ?さっきの不満もただの演技だったんだから、まさか本気にするなんて」

「……そうなの?」

「あなたは本当に騙されやすいね。悪い女に騙されないように気をつけてね?」


 宮野のあどけない反応を見て、思わず彼をからかってしまった。

 視線がふと宮野君の手に提げられたケーキ箱に留まった。


「ねぇ、それってもしかして誕生日ケーキ?」

「うん。これは君のために用意した誕生日プレゼント」

「へえー、ありがとう!でも、それはどんなケーキなの?」

「秘密だよ。後で分かるから」

「ワクワク!宮野くんの実家のカフェのケーキ、絶対美味しいに決まってる!」


 前回カフェで食べたケーキの味をまだはっきり覚えている。それは、15年間で食べた中で間違いなく一番美味しいケーキだった。夏休み以降、心優は時々友達と一緒にカフェに行き、ケーキを楽しんでいる。


「あの、あまり期待しない方がいいかも。普段は料理しか作らないし、ケーキはこれが初めてだから、美味しいかどうかは保証できない」

「美味しいかどうかは重要じゃないよ。これはあなたが特別に私のために用意してくれた誕生日プレゼントだから、私は絶対にあなたの『初めて』を全部食べるよ!」

「その言い方、ちょっと変じゃない?」

「ん?どこ?」


 心優は悪戯っぽい笑みを浮かべて、乱雑な黒い線に覆われた宮野の顔を傾けてじっと見つめている。


「えっ……」

「冗談だよ。恥ずかしくなっちゃった?」


 宮野は顔をそむけた。


「心優さん、今後は男の子にそんな冗談は言わない方がいいぞ……」

「てへっ、分かったわよ。行こう、遅れちゃうから」


 宮野をからかい尽くした後、心優は約束した七時までの時間があまり残っていないことに気づいた。



 道すがら、二人は最近の学校の話題について話していた。授業がちょっと忙しくなったことや、頼りない国語の先生がついに結婚すること、そしてクラスメートの一人がよく欠席しているらしいことなど。


「そういえば、君の手、もう良くなった?」


 宮野は心優の腕に貼られた絆創膏を指差した。


 それは家庭科の授業で料理中にうっかり飛び散った油でやけどしたんだ。もう数日経ったけど、まだちょっと痛む。

 それは家庭科の授業で料理中にうっかり油が飛び散ってやけどしちゃったんだ。もう数日経つけど、まだちょっと痛む。


「うん。まぁ、子供の頃からずっと火と相性が悪くて、火を使うと怪我することがよくあるんだ」

「なるほど、だから普段の家庭科の授業で久保さんは君に火に近づかせないんだな」

「へえー、まさか宮野くんが私のことそんなに注意してくれてるなんて」


 街灯がまるで壊れそうで、時折薄暗い光を点滅させている。

 道路には車がほとんど通らず、静かな雰囲気が街をなんだか不気味に感じさせる。

 信号待ちの合間を利用して、心優はチャンスを逃さず、悪戯っぽい笑顔を浮かべながら宮野に冗談を仕掛けた。


「僕……」


 宮野が何か言おうとしたその瞬間、遠くで突然ヘッドライトが光った。

 振り返ると、視界に入ってきたのは車で、フラフラと不規則に揺れながら猛スピードで迫っている。タイヤが道路に擦れ、夜の静寂を引き裂くような耳をつんざくブレーキ音が鳴り響いた。


 瞬きする間に、その車は目の前を横切りそうだったが、突然異常が起こった。まるでコントロールを失ったかのように、車線を急に外れ、猛然と二人に向かって突っ込んでくる。

 いち早く危機に気付いた宮野が真っ先に反応し、心優の腕を掴んで反対方向へ走り出した。


 しかし、どんなに速く動いても、人間の速度がコントロールを失った車に勝てるはずもない。ぶつかる瞬間が迫る中、宮野は全身の力を振り絞って心優を一気に突き飛ばした――すると、巨大な衝撃が襲いかかってきた。

 押しのけられたにもかかわらず、心優はなおも衝突に巻き込まれ、草むらへと叩きつけられた。

 地面に倒れた心優は、わずかな意識を保ちながら血を咳き込んだ。頭から流れ落ちる血が片目の視界を遮ってしまったが、まだ宮野の姿を探そうとしている。


 街灯に振り向いたその瞬間、目に映ったのは――顔の黒い線は消えていたが、血だらけで、流れ続ける血が大半の顔を覆い隠し、口にも血が付いている宮野だった。鮮やかな赤い血液は垂れ下がる腕から指先に流れ落ち、地面に滴り落ちた。先ほどまで手に持っていたケーキ箱は、今や車に潰されてしまっていた。

 彼はまるで糸が切れた操り人形のように、上半身を自分を押しつぶしている煙を上げる車のボンネットに倒れ込んだ。


「み……や……の……」


 心優は全身の痛みを気にせず、必死に立ち上がろうとしたが、足はもう動かなかった。


「誰か……助けて……」


 心優は再び血を吐き出した。痛みを感じる暇もなく全身の力を振り絞り、宮野のもとへ這い寄っていった。彼を助けたいという強い思いが、彼女を駆り立てた。


 目の前の視界が徐々に霞んでいく。


 草むらを這い出した途端、体の力が一気に抜け、視界が暗転して、意識が遠のいていった。

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