第3話 花火
12歳の夏。
簪を髪に差し込んでまとめた後、心優は鏡に映る自分を見つめた――紺地に朝顔柄の浴衣を着て、いつも通りすっぴんで、普段のポニーテールが簪でまとめられている。
たまにはおしゃれするのも悪くないね――自分を手間暇かけて整えた髪と美しい浴衣姿を見つめながら、思わずにやりとした。
しばらくしてから、部屋を後にした。
「お姉ちゃん、遅いよ!」
同じく浴衣を着ていて、心優に似ているな顔だけど髪型はボブ、身長は10センチほど低く、腕を組んで不満そうに頬を膨らませているのは心優の唯一の妹――篠原葵、現在7歳。
「ごめんごめん」
「出発しましょう。父さんもう外で待っていますよ」
母さんはそう言った。
* * *
家からそう遠くないので、目的地にはすぐに到着した。
着いた途端、葵は目を輝かせて興奮しながら、お姉ちゃんの手を引っ張ってゲーム屋台に向かって駆け出した。両親はお互いに顔を見合わせて微笑むと、ゆっくりとその姉妹の後を追いかけた。
葵と一緒に色んなゲームの屋台を回って遊んでいた心優は、少し疲れていたけど、とても楽しんでいた。
花火大会が始まる前に、芝生広場にやってきた。ここは視界が広い場所なので、たくさんの人が花火大会の始まりに向けて場所取りをしていた。
周りを見渡すと、心優は少し離れたところに空いている席があるのを見つけた。
空席の隣には3人家族がいる。しかもその中の一人には乱雑な黒い線が顔を覆って顔が見えない。 その人の手にはリンゴ飴を持っている。
少し座って休んでいると、ついに花火大会が始まった。
シュッ――
――ドーン!
打ち上げられた花火が夜空に咲き誇り、まるで巨大な花が瞬く間に開いたかのように、無数の火花となってゆっくりと落ちて消えていく。続いて、さらに多くの花火が次々と空に打ち上げられ、連続して夜空に咲き乱れ、色とりどりの光が夜空一面を鮮やかに照らし出した。