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第26話 ガラスの世界、そばにいるはずの彼

 5日目。


 楓は灯台にあったキャンプ用の調理器具とまだ食べられる食材を使って、簡単な朝ごはんを作ってくれた。

 朝ごはんを味わいながら、昨日のことを思い返していると、私はつい何度も楓の方をチラチラと見てしまった。

 いつものように無表情だったが、私の目と合うとすぐ目を逸らしてしまう。


 昨日、自分の気持ちを伝えたものの結局曖昧な状態になってしまってから、その話を一切口にしなくなった。一晩寝て頭を冷やした後、今になって昨日のことを思い返すと、なんだか少し気まずく気がする。

 その時は本気だったし、彼に告白したことを後悔してはいない。でも、自分がそんな日が来るなんて思いもしなかった。まるで少女漫画のように、ストレートに誰かに気持ちを伝えるなんて。

 でも、告白を聞いた後の彼が何を考えているのかは全く分からない。

 もし嫌いなら、すぐに断るはずなのに、彼はそうしなかった。それに、彼は嘘をつくような人ではない。事実を言いたくない時は黙っているし、私が『私のことが好き?』と聞いた時も沈黙した。だから、彼は私を好き……なのかもしれない。

 まぁ、もう言ってしまったんだから、これ以上悩んでも仕方がない。これからは流れに身を任せることにしよう。


* * *


 電車に乗って、終着駅に到着した。

 窓の外には普通の地下ホームが広がっている。しかし、一歩足を車両から踏み出した瞬間、目の前の景色が一変した。


 見渡す限り、目に映るのは全て鏡とガラスで構成された建物や植物たち。まるで世界的な芸術作品で作られた幻想的な国に迷い込んだような光景が広がっている。周りのガラスの木々は、太陽の光を浴びて色とりどりの輝きを放ち、その葉を透かして降り注ぐ斑斑とした光が地面を彩っている。

 道端に咲く草花は、一見普通に見えるものの、実は透明や半透明のガラスで精巧に彫られており、その繊細な模様はまるで生きているかのように細部までリアルで、柔らかな光を反射している。さらに驚くべきことに、動物の形をしたガラスの彫刻たちは静止しているわけではなく、優雅に動き回り、まるで命を宿しているかのように軽やかにこのガラスの世界を駆け巡っていた。

 遠くに壮大な巨大な城が聳えている。その城の外観はホーエンツォレルン城に似ているが、様々な色と種類のガラスが巧みに組み合わされて作られている。淡い緑、透明な青、そして穏やかな乳白色のガラスが互いに調和し、柔らかな輝きを放っている。その輝きは眩しすぎず、むしろ心地よい調和の美を感じさせる。この城は現代アートと古典建築の完璧な融合のようで、重厚な歴史を感じさせながらも、夢の中の宮殿のような美しさと優雅さを湛えているのだ。


「楓、見て!この場所、すごいよ!」


 何の反応も返ってこなかった。


 振り返ると、なんと電車のドアが鳥居だったことに気づいた。ドアが閉まると同時に、電車と鳥居が一緒に消えてしまった。本来なら私の後に降りるはずの楓は、私の後ろにはいなかった。

 周りを見渡すと、ここには私一人しかおらず、楓の姿はどこにも見当たらなかった。


 どうしてこんなことに?楓は降りなかったの?でも楓が私を一人にしていなくなるはずがないよね?それとも降りる前に間に合わなかったの?もしそうだとしたら、どうやって彼と合流すればいいの?電車も鳥居ももう消えちゃって、戻る道なんてどこにもない……

 どうしよう……ここには他に誰もいないし、誰かに助けを求めることもできない……むやみに歩き回ったら迷子になるかもしれないし、もし楓が私を探しに来て、見つからなかったら心配させちゃうかもしれないし……


 どうすればいいのか分からずにいると、城の方角からピアノの音色が聞こえてきた。


 あのメロディー……


 ピアノが奏でるメロディーは、まるで楓が私に命令されて鼻歌を歌った『もし明日の朝に目覚めたら』とまったく同じみたい。

 間違いない。直感が私に告げている、楓はあの城の中にいるって。

 しかし、なぜ楓が城にいるの?


 ……いずれにせよ、あそこに行って確かめないと。



 ピアノの音色は途切れることなく、何度も何度も繰り返し響いている。

 城がどんどん近づいてくる。さっきまでいくつかの分岐路があったが、目の前には一本だけが残されていた。周りは色とりどりのガラスの木に囲まれ、その道が城へと続いているのかまったく見えなかった。

 入ってみるしかない。


 アーチをくぐって。


 この先に広がる光景は、まるで鏡の回廊のようだが、温かな光に包まれている。道の両側には、枯れたガラスの木々が聳え立ち、その枝が静かに揺れている。周りには鏡の破片のようなものが宙に浮かび、かすかな光を柔らかく反射している。

 足元の地面は穏やかな水面のようで、歩みを進めるたびに波紋が広がるが、水面に映るはずの自分の姿はどこにも見当たらなかった。

 鏡の破片に浮かび上がった映像は、私の記憶ではない――それは、『彼』の記憶。

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