第23話 溶岩スケート、カップルのようなデート
昨日通った商店街に再びやって来た。まだ時間が早いせいか、昨日より人が大分少ない。
昨日は時間がなかったから、カップルが多いこの場所をちゃんと見て回る余裕はなかった。でも、今日はゆっくりできるし、初めて好きな男の子とデートするってどんな感じかをしっかり味わいたいな。ついでに、現実世界に戻る前に、この不思議な世界の色んな景色をしっかり覚えておきたい。
商店街には現実世界では見たことのない商品や、現実ではありえないものがたくさんあった。ここで見たもの全てが次々と私の常識を覆していく。
例えば、ラジオが鳴っているのに音が出ないように、ただその漂ってくる音符に触れるだけで、頭の中にメロディーが響き渡る。また、想像力を駆使して、様々なものを創り出せる店もある。さらに花屋の外では、見た目は奇妙だけれども異常に美しい鉢植えが、まるで隣の叔父さんと叔母さんのように気楽にお喋りをしている。
洋服店を見かけた時、ここ数日楓がTシャツと長ズボンしか着ていないことを思い出し、彼を引っ張って店の中へ入った。せっかくだから、違うスタイルの服を試着させようと思ったのだ。
嫌そうな顔をしていたけれど、私が選んだ服を手渡すと、結局はおとなしく試着室に向かっていった。
色々なコーディネートを見てみたけど、楓はどんな服を着てもすごく似合ってると思う。多分、楓の体型と顔立ちがどんな服にも自然に合うんだろうね。
「これにする」
たくさん試着した楓はやがてその中から私が一番似合うと思っていた服を選んで着替えた。
この世界では買い物にお金が必要ないため、私たちは店員さんの見送りを受けながら店を後にした。
それから、私たちは色んな店を回り、美味しいものをたくさん食べ、現実世界では見たことないものを色々と見て回った。さらにゲームセンターでは、楓が見事な腕前で一発でクマのぬいぐるみをゲットし、私にプレゼントしてくれた。
まさか自分が少女漫画みたいなデートを経験する日が来るなんて全然思わなかった。好きな人とのデートって、こんなに幸せなんだ。
「次はどこに行く? この辺りには鳥居があるのかなー?」
ほとんど商店街を見て回ったけど、まだ帰りたくない。もっと楓と一緒に、これまで行ったことのない場所へデートして、私たちの距離をさらに縮めたいんだ。
「鳥居だけ、ちょっと嫌だ」
「でも鳥居の向こうの世界には、こことは違った不思議な景色がたくさんあるんじゃない?」
「そこの時間の流れは二倍速だから、別の場所に行った方がいい」
「へえー、私ともっと長く付き合いたいから行きたくないって理解してもいいのかな?」
「嫌なの?」
期待していた反応とは少し違って、楓は珍しくためらったりツンとしなかった。むしろ、素直に認めてくれたので、思わず驚いてしまった。
「いや、逆にそう思ってくれて嬉しいよ」
私はニコニコしながら、彼の腕にさりげなく寄り添った。実はさっきからこうしたいと思っていたけれど、なかなかタイミングが掴めなかったのだ。
すると、楓は明らかに一瞬驚いた。しかし、すぐに我に返り、何事もなかったかのように歩き続けた。でも、彼も私と同じように照れくささで顔が赤くなっている。
* * *
通りすがりの人に近くに遊園地があると教えてもらった。それが少女漫画によく登場するデートスポットだと思い、そこに行くことを提案すると、楓も特に異論はなかった。
目的地に到着すると、思わず「うぉー」と声を上げてしまった。
外から見ると壮大な城のように見えたが、吊り橋を渡って内部に入ると、目の前に広がる空間はまるで一つの王国のようだった。
摩天輪やジェットコースターなど、現実世界に存在するさまざまな大型アトラクションが並ぶ中、空にはいくつかの島が浮かび、虹のような橋がこれらの島々をしっかりと繋いでいる。
しかも、ほとんど透明なクジラが虹色の光を放ちながら、空の島の真上に悠然と浮かんでいる。
ここの装飾はすべて可愛らしい童話風で統一されている。まるで絵本の中から飛び出してきたような可愛いタッチの恐竜が、街中を歩き回りながらマスコットとして観光客と写真を撮っている。そこで私と楓も、その恐竜と一緒に記念写真を撮った。
地上の施設は、ほとんどが現実世界でよく見かけるものだった。
私たちは一緒にバンパーカーに乗ったり、宝探しの迷路を楽しんだり、幻想生物のショーを観たり、自動で演奏されるオーケストラを堪能したりと、様々な場所を満喫した。
その後、私たちは島の下にある街灯のボタンを押すことで、上の島にテレポートできることを知り、その方法に従っていずれかの島に辿り着いた。
この島は火山に囲まれた島。溶岩が川のように至る所に流れているけど、この環境で育った木には雪が積もっている。しかし、ここは全然暑くなくて、むしろ涼しい。
見渡す限り、たくさんの人々が巨大な溶岩の上で『スケート』をしたり、山肌に沿って流れる溶岩で『スキー』をしたり、火口のそばで『釣り』をしたりと、常識を覆すような楽しみ方をしている。しかし、この世界はそういうもので、現実世界とは逆の法則が存在しているから、危険に見えて実は安全なのかもしれない。
私たちはカウンターでスケートの用品を受け取り、準備が整うとすぐにアイススケート場へ向かった。
人生初めてのスケートだったので、私は転んでしまうのが怖くて、楓の手をしっかりと繋いでいる。
「君、初心者なの?」
「一度もやったことがない」
「このままじゃ、二人揃って転ぶだけだ。だから教えてやるよ」
「たとえ滑れるようになっても、私はあなたの手を離さないからね?」
「……」
すると、楓がいきなり私を自分の腕の中に引き寄せた。
「えっ?」
「いつもこんな風に男の子に接していたら、こういう扱いをされるかもしれないぞ。だから……お願い、誰にもこんな風にしないでくれる?」
「急にどうしたの……?」
「……ごめん、自分のわがままな願いを君に押し付けるのはよくないと思うけど……」
楓はそう言って手を離した。
「私が他の男の子に近づくことを心配してるの?」
「……」
「黙ってたら、認めたってことにしちゃうよ?」
「どう思おうが勝手だ」
楓は相変わらずツンデレだね。他の男の子にも自分と同じように接するんじゃないかって心配してるくせに、認めようとしないんだから。でも、楓がそんな反応をしてくれるなんて嬉しいな。
「安心して。私は楓以外の男の子に、今みたいに親しく接したりしないから」
私は彼が離した手を再び握りしめ、今ここで誓うんだ。楓以外の男の子には一生親しくしないって。
「……これで何回目だ、こんな複雑な気持ちになるのは」
「まあまあ、スケートを教えてくれるって言ったじゃん?準備はできてるよ」
「たまに君が何を考えているのか分からないな」
楓はそっとため息をついた。
楽しい時間があっという間に過ぎて、気づけばもうお昼になっていた。
私たちは地面に戻り、最も人が多いテラス席のレストランに来て、昼食を楽しむつもりだった。
注文を終えたところで、思いがけない人を見かけた。
「え、あれってエリカちゃんなの?」
楓は振り返って、私が指差した方向を見つめる。
ちょうどエリカちゃんも私たちに気づき、手を振りながら駆け寄ってきた。そして彼女の後ろには、両親が続いている。
「篠原姉さん、お兄さん、お久しぶりです!」
「やっぱりエリカちゃんだった。 久しぶりね。と言っても2日ぶりだけど」
「前回お別れしてから、この子はずっと皆さんのことを恋しく思っていましたよ」
「えー、本当? 嬉しいなぁ」
「篠原姉さんとお兄さんもデートですか?」
「そうだよ。エリカちゃんは?」
「遊園地に遊びに来ました!」
「エリカが遊園地に行きたいって言ったから、妻を連れてついでにデートに来たんだ」
「そういえば、この子はさっきトイレに行きたいと言っていました。綺麗なお嬢さん、一緒に連れて行っていただけますか?私たち、この坊やと少しお話ししたいので、少しの間お借りできればと思います」
エリカちゃんの両親は、どうやら私には聞かれたくない話を楓にしたいようだった。
「いいよ。行こう、エリカちゃん」
エリカちゃんのお母さんがそう言うなら、楓も私を引き留めるつもりはなさそうだから、断る理由もなく了承した。




