第22話 夜明け前の虹色のクジラ、彼の部屋に入る
4日目。
昨夜は楓とのデートが楽しみすぎて、漫画のような展開の妄想で頭がいっぱいになって、結局ちょっと寝ただけで目が覚めちゃった。
カーテンを少し開けて外を見ると、まだ明るいけど少しぼんやりしていて、空に浮かぶクジラには淡い虹のような光がかすかに浮かんでいる。
この世界の多くの現象は逆転していて、昼夜も例外ではない。今は夜明け前だと思う。
どうせもう眠れなかったので、洗面所に行くつもりで部屋を出た。
楓の部屋を通り過ぎると、部屋のドアが閉まっておらず、隙間からキラキラとした光が差し込んでいる。
興味本位で、ドアの隙間に近づいて、そっと中を覗き込んだ――楓は机に顔を伏せて寝ているように見えたけど、手にはまだペンを持っていて、机の上には何枚か紙くずがあった。
「このままでは風邪をひいてしまうでしょう……」
彼を起こさないように、私はそっとドアを開けて中に入った。ベッドの上に畳まれていた布団を手に取り、彼に掛けてあげた。
それから、しゃがんで頬杖をつきながら、その寝顔を眺めている。
近くで楓の顔を見ることは何度かあったけど、今のように恥ずかしさで目を逸らさずにじっくり眺めるのは初めてだ。
「可愛い……」
つい指で彼の頬を軽く突いてしまった。
しばらく眺めてから、私は立ち上がって部屋を出ようとした。だが、一歩踏み出すと、ふと視線が楓の伏せているノートに止まった。
覆われていない部分には『星』、『平然と受け入れられると思ってたけど』、『約束』、『ごめんなさい』の文字しか見えなかった。すると、昨日の楓が星空を見た時に涙を溢したことを思い出した。
あの時の楓が泣いていたのは、何の約束と誰の関係があるのかな……?そして『ごめんなさい』は、約束を破ったからなのか、それとも他に理由があるからなのかな?でも、これって誰に宛てて書いたものなの?
テーブルの上にある紙くずは多分楓が何かを書いた後に捨てたものだよね。つまり、もしこのゴミをこっそり見れば、何か分かるかもしれない……
『この少年の秘密を見ちゃったら、ルール違反だよ』
紙くずに手を伸ばそうとした瞬間、頭の中に突然声が響いた。その声は男の子のようでもあり、女の子のようでもあり、性別を判別することができなかった。
周りを見回したけれど、私と寝ている楓以外には誰も部屋にはいなかった。
気のせい?それとも……幽霊!?
『今の汝には儂を見ることはできず、声しか聞こえない』
「だ、誰だ!?」
『……』
その声はまるで脳裏から消え去ったかのように、再び現れることはなかった。
恐怖に駆られつつ楓に近づき、心を落ち着けようと努める。
「んー……心……えっと……篠原さん?」
「ゆ、幽霊がいる……!」
「幽霊?」
自分に掛けられた布団をちらりと見てから、机の上の紙くずを眺め、最後に私の顔に視線を戻した。
「……まあいいや。今から朝ごはん作るから、ついて来て」
私が怖がっているのを知って、それ以上は聞かなかった。
楓にピタリと寄り添って部屋を出た。
一人では洗面所に行くのが怖かったので、楓についてキッチンに行った。すると、楓は冷蔵庫から温かい牛乳を取り出して、カップに注いで私に渡してくれた。
「ありがとう……」
「怖くなくなったら、さっきのことを話したいなら言ってもいい。ちゃんと聞くから」
「……さっきあなたの部屋に誰かがいた。見えなかったけど、声が頭の中に直接響いた」
「何を聞いた?」
「机にあるあの紙くずを見たらルール違反だって。あと、今の私には彼が見えないけど、声だけは聞こえるって」
「あいつか……」
「その幽霊が誰か知ってるの?」
「一応知ってる。でも、あいつは幽霊じゃないと思う」
なんだ、幽霊じゃなかったんだ。
でも、あの時の話を思い出したら、なんかちょっと変だな。
「ねえ、何で他の人がルールのことを知ってるの?」
「あいつのことには深入りしないで。そうしないとルール違反になるぞ」
楓は冷蔵庫を開けて、牛乳を戻した。
私はテーブルにうつ伏せになりながら、少し不満げに頬を膨らませた。
「なんで私が知りたいことは全部ルールに反するんだろう……?」
「……ごめん」
* * *
朝食を食べたら気分も良くなった。
自分の部屋に戻った。
昨晩から準備していた、可愛くて清純な水色の半袖リボンシャツと白いスカートに着替えた。これが昨晩ずっと悩んで決めた一番可愛い組み合わせだから、これから楓に褒めてもらえるといいな。でも、ちょっと自信がなくて。
「うーん……よし」
楓に見せに行こうかな。もし気に入らなかったら、次の候補に着替えよう。
「準備はいい?」
「この服、どう?」
玄関で靴を履いている楓が振り向いた。
「……」
私のこの姿を見た時、まるで一時停止ボタンを押されたかのようにぼーっとしている。言葉も発さず、他の反応もなく、ただ私を眺めている。
「ねぇ、何か評価してくれないの……?」
「……いいじゃん」
顔を赤らめた楓はすぐに私に背を向けた。
その褒め言葉が聞けて、昨日一晩悩んだ甲斐があったわ。
「照れた?」
「くっ……」
悪戯っぽく笑いながら、楓に近づいて、腰を曲げて彼の反応をじっくり観察しようとした。
「やめてくれ」
私に今の表情を見せる隙も与えず、すぐに立ち上がりドアに向かって歩き出した。
「てへっ」
前から知ってたけど、やっぱり楓って照れる時は可愛いよね。




