第21話 好きな人からのデートの誘い、彼と過ごす幸せな夕食の時間
過去の記憶から我に返った。
「気分はどう?」
そばにいる楓はまるで私の顔色を伺うかのように、じっと見つめている。
「……前よりもフラフラする感じはするけど……あなたが心配してくれてるのを見て、正直嬉しいよ」
「冗談が言えるなら、大丈夫ってことだな」
楓がまだ私の手を握っていることに気づいた。こっそりと微笑んでしまい、少し幸せを感じた。このままずっと、こうしていられたらいいのにな。
「次は全部の記憶を取り戻せる。今のところ期限はあと2日……それで、明日一緒に遊びに行きたい?」
「これはあなたの命令なの?」
楓がゲームセンターで私に勝って、一度だけ命令権を得たことがあった。その命令権をこんな使い方をするなら、正直嬉しいな。でも、命令権を使わなくても、私は答えるつもりだから。
「いや。これは僕のわがままなお願いだ。行きたくないなら無理しなくていい。僕が言わなかったことにして」
「別に行かないなんて言ってないよ。あなたがどこに行くかは、私はついていきたい」
私の返事に対して、楓は何も言わずに苦笑いした。
その後、帰り道で私は楓に過去の記憶について簡潔に説明した。宮野くんのことや彼の変なところを強調したにもかかわらず、楓は無関心な様子で、何も反応を示さなかった。まるで宮野くんのことが彼には関係ないかのようだった。
その反応を見て、もうこの件について聞き出すのはやめようと思った。誰にでも言いたくないことや言えない秘密があるから、彼が自分の正体を明かしたくないなら、彼が心を開いてくれるその日まで待つことにしよう。
彼が誰であろうと、私のこの好きな気持ちは変わらないわ。
* * *
魚を焼くジュージューという音と漂ってくる香りが、夕飯が早くできるのをますます待ち遠しくさせた。
楓が夕食の準備をしている間、今日取り戻した記憶をまとめ終えた私は、手持ち無沙汰だったので、エプロン姿で晩ご飯を作る楓のイラストを描き始めた。
取り戻した記憶の中で、私は小さい頃から絵を描くのが好きで、中学と高校では美術部に所属していた。しばらく描いていなかったせいか、少し手が鈍っている気がするけど、もうすぐ完成しそうなシンプルなイラストを見て、自分としてはなかなかうまく描けたと思う。
楓がこれを見たらどんな反応をするかな?びっくりしつつも喜んでくれる顔が見られるの、楽しみだな。
「明日、どこか行きたいところある?」
「んー、特にないかな。あなたが決めていいよ」
「うん」
私はどこに行っても、別に構わない。好きな人と一緒にいるだけで、毎日家でお喋りしてるだけでも幸せなんだ。
「テーブルの片付けをしろ、晩ご飯はできた」
「はーい」
ちょうど私もイラストが完成したところだった。
楓は準備していた量が多くて豪華な料理を運び出す。テーブルの上にあるイラストを見たけど、無表情で何も言わずに振り返り、再びキッチンに戻って料理を運び続けた。
「ねえ、私のイラストを見たら無視しないで。傷つくからね?」
「……上手い」
「サンキュー!」
楓は宮野くんみたいに嘘をつかないから、彼の褒め言葉は本心からのものなの。でも、その反応を見ると、最初は言いたくなかったみたいで、恥ずかしかったのかもしれない。
「今後、こういう仕事に就きたいのか?」
「多分な。私は漫画が好きだから、将来はそれに関係する仕事をするかもしれない」
「好きならやってみればいい。 自分の才能を無駄にせず、未来の自分に悔いを残さないように」
「うん。楓君はどうなの?将来、もしかして料理人になりたいとか?料理めちゃくちゃ上手だし」
「僕はもう、君以外の誰にも料理なんて作らない」
楓は突然、『これからの人生、君のためだけに料理を作る』と言わんばかりの告白めいた言葉を口にした。
「えっ……え?そ、そ、それ、ど、どういう意味?」
「そのままの意味だ」
「そう言われても、私には分からないよ……」
悩んでいる私はフォークでブロッコリーを突いている。
私の顔が赤くなっているのを見た楓は、何かを察したようだった。
「まさか、君―」
顔が赤くなった理由を察されるのが怖くて、私は慌ててブロッコリーを彼の口に押し込んで、これ以上話を続けるのをやめさせた。
いきなり強制的に食べさせてもらった楓は、ぼーっと口の中のブロッコリーを噛みしめている。
「急にどうしたんだ?」
「ごめん、つい反射的にやっちゃった」
「……君さ、他の人にもこんなことをするなよ」
「あなただけにこうするからね。はい、あーん」
「勘弁してくれ……」
顔が赤くなった理由を追求してこなくなったので、私は普段通りの調子に戻った。




