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第20話 夏祭り④

 最後の一輪の花火が夜空に咲き誇った。その瞬間、皆は美しい光景に見入ったまま、ゆっくりと現実に引き戻されていった。


「それでは、気付かれないうちにこっそり抜けよう」


 しかし、こちらに向かってくる沙織は、ちょうど振り返った早乙女に見つかってしまった。


「沙織ちゃん?」

「え?久保?」

「ヤバッ……」


 もう隠しようがないと思ったから、心優は立ち上がって姿を見せた。


「ごめん、白状します。さっきまであなたたちを尾行してた」

「ちょっと君たちのことが心配だったから、ついこんなことしちゃって。悪い」

「心優ちゃんと祐樹ちゃんも……?」

「じゃあ、つまりお前ら、さっき全部見た?」


 心優は佐藤が言っているのは、まさかさっきの告白やキスのことじゃないかと考えた。もし言い出せば、面白い反応が見られるかもしれない。でも、もしかしたら怒らせるかもしれないと思い、心優は言うべきかどうか迷っている。


「済まなかった」


 嘘が嫌いな宮野が先に認めた。

 さっきの出来事を他人に見られていたことを知った早乙女は、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。佐藤も顔を赤らめながら、頭を下げてため息をついた。


「お前さー、たまには嘘をつけよ。こんなに冷静に認められると逆にもっと恥ずかしくなるだろ」

「私がいない間に何が起こったの?」


 何が起こったのかまだよく分からない沙織が、心優のそばに近づいてそっと尋ねた。


「まとめると、さっき佐藤くんが告白して、ハルちゃんがキスで返事をした」

「へえー、ハルがそんなに大胆だなんて」


 心優はあの場面がこうなることを予想していたことはあったが、実際に目の当たりにすると、ますます興奮を覚えた。


「それで?それってやっと関係を確認したってこと?」


 宮野にそう言われて、佐藤は早乙女に視線を向けた。

 早乙女はまだ顔を両手で覆ったままだったが、その視線に気づくと、こくんと頷いた。


「おめでとう!」


 心優は心から喜んでいる。


「あの、プレゼントまだ渡してないの?」


 沙織は早乙女がまだ袋を持っていることに気づいた。

 すると、早乙女は少し躊躇しながら、この前にデパートの文房具店で買ったノートを袋から取り出し、手に持って佐藤に渡すかどうか迷っているようだった。しかしその直後、それを佐藤にひょいっと奪われてしまった。


「これ、俺の誕生日プレゼントか?サンキュー」

「おい、家に帰るまで絶対に開けないでよ。さもないと殺すぞ」

「もしかしてラブレター?」


 佐藤は悪戯っぽく笑いながら開ける仕草を見せると、早乙女は恥ずかしそうに彼の肩を軽く叩きながら、今は見ないでと懇願した。

 やっと付き合えたからか、早乙女は自分の気持ちがバレて拒絶される心配がなくなり、少しずつ佐藤に対して感情を表現する勇気を持てるようになった。しかし、まだまだ先が長いね。

 肩を叩かれている佐藤が、ふと何かを思い出したようだった。


「ところで祐樹、お前の方は?」


 宮野は首を横に振った。


「まぁ、この先は長いから、ゆっくりやればいいさ」


 佐藤はそう言いながら、心優をちらりと見た。


「何を話してるの?」


 佐藤と宮野の今の振る舞いがなんだか変で、心優を困惑させた。

 今日の佐藤の様子がおかしい原因は、さっきの告白の仕方を考えているからかもしれないが、宮野もなんだかおかしい。何かを言いたいのに、言葉を飲み込んでいるような感じだ。


「いや、別に」

「僕のことはさて置き、君はもう決めた?前にハルに告白したら、そのことを伝えるって言ってたよな」

「あ、そうだ」

「何のこと?」

「実は、さっき言ったことは本当だ。最近、俺の家族が北海道に引っ越す予定なんだ。さっきまでは悩んでいたけど、今は残ることに決めた」

「え?あれって冗談かと思ってた……」

「よかったね、ハルちゃん。 これで毎日佐藤くんとイチャイチャできるわ」

「なんだか全然驚いてないみたいね。もしかして、前から知ってたの?」


 沙織は心優からこのようなことを聞いたことがなかった。

 心優は早乙女に言わないって約束しただけだけど、誰にもこのことを言ってない。


「えへへ、内緒にするって約束してたから」



 沙織の家では夜の十時までに帰宅するよう決まりがあるため、一同はそろそろ帰ろうという雰囲気になった。

 執事がすでに近くで待機している。皆を乗せて帰ろうと提案したが、皆は彼女が帰宅時間を過ぎてしまい、叱られるのではないかと心配したから断った。


 少し歩いたところで、早乙女は家が別方向だと言って別れを告げた。佐藤も彼女を見送るために一緒にその場を離れることにした。しかし去り際、早乙女はなぜか宮野に向かって「あんたも頑張ってね」と声をかけ、佐藤も宮野の肩を軽く叩いてその場を後にした。


「なんで今日は皆ちょっと変なの?」

「あいつらを気にしないで」

「いや、あなたもちょっと変だよ」

「なぜそう思う?」

「うーん、今日はずっと何か悩んでるみたいだね。もし悩みがあるなら、話してみて?私があなたの心理カウンセラーになってあげるから」

「……僕、何年も前から、好きな人がいるけど、その人は僕のことを友達だと思ってるみたいだ」

「もしかして同じ学校の子なの?誰々?」


 宮野がこんなことを話すのを聞いたことがなかったので、好奇心から近づいて聞いてみた。


「……今、言いにくいな」

「いいんだよ。じゃあ、あなたが悩んでる理由って、その人があなたのことを友達としか思ってないから?」

「まぁ、それも理由の一つ」

「その人はあなたが好きってこと知ってるの?」

「多分知らない」

「それなら、片思いだね」


 学校で宮野を見かけるたび、他の女子とあまり関わっている様子はなかった。いつも一人でいるか、今日一緒に祭りに参加した友達と一緒にいるかのどちらかで、誰を好きなのかは全く見当もつかなかった。もし相手が分かれば、もっと的確なアドバイスができるのに。


「もし、振られるのも、友達みたいに自然に接することができなくなることが怖くない勇気があったら、今みたいに悩んでないだろうな」


 そう言って、宮野はため息をついた。


「何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね!」

「……うん」

「ところで、さっきの花火大会で何か言った?ごめん、聞き取れなかった」

「あーそれか。でも、今はもう言いたくないな」

「ねぇぇぇ、逆に気になっちゃうじゃん」

「こうしよう。もし君が勝ったら、教えてあげる」


 街灯の微かな光の下で、宮野は足を止め、財布から五百円玉を取り出した。

 この賭けを受け入れるかどうか答える前に、宮野はすでに五百円玉を投げ上げた。視線はその五百円玉が急速に落ちてくるのを追い、彼の手の甲に落ちると、その上に覆いかぶさるように隠された。


「どっち?」

「えーと、表?」


 よく見えなかったので、心優は当ててみた。

 しかし、手を離すと、上に出ていたのは裏だった。


「残念、運命が僕に言わせないみたいだ」

「どうして運命に従わなきゃいけないの?さっきは言いたかったのに」

「ただ運命の言葉を借りて、自分に勇気を与えようとしただけ。でも、どうやら今日の星座占いはあまり当たっていなかった」

「まさか、あなたもそんなものを信じるんだ」


 宮野は手の中でその五百円玉を弄びながら、夜空に向かって頭を上げた。


「特に信じてるわけじゃないけど。ただ、母さんがそういうの好きだから、よく耳にする」

「そうか。で、今日の星座占いはなんて言ってたの?」

「やりたいことがうまくいくってさ」

「それってさっきのことと何か関係あるの?」

「言ったら君に距離を置かれるかもしれない」

「そんな風にはならないよ……まあいいか、言いたくないなら無理に聞かないよ」

「ありがとう。でもいつか心の準備ができたら、必ず知らせる」

「それ、告白する前に言うセリフみたいじゃない?」


 心優は彼の照れ隠しの反応が見たくて、ふと冗談を口にした。

 宮野は自分を好きな人たちのように積極的でもなく、意図がはっきりしているわけでもない。だから、心優は宮野が自分を恋愛感情を抱くはずがないと思う。

 時々少し変に感じることもあるけれど、それは宮野が異性と話すのが苦手だったり、うまく接することができないだけかもしれない。


「……もしそうなら、僕を断るの?」

「うーん、どうだろうね。どんなことになるのか想像するのはちょっと難しいな……あれ?まさか、本気で言ってるの?」

「たかが友達の僕が、君に恋愛感情を抱く可能性があると思うの?」


 問いかけに答えず、宮野は逆に質問してきた。

 でもちょっと考えてみたら、確かに不可能ではないが、宮野は自分に対して恋愛感情を抱いているような明らかな振る舞いを示していないため、その可能性はかなり低いように思えた。


「そうだね、これは漫画じゃない。誤解してた、ごめん」

「まぁ、話題を変えよう?恋愛の話をしてるとなんだか恥ずかしいし。それより、何かおすすめの漫画作品ある?ちょっと興味があるんだけど」

「どのジャンルのが好きなの?」

「じゃあ、好きなものを紹介してもらえる?あまりマンガを読まないから、どのジャンルが面白いのかよく分からなくて」

「ちょうど他の人に紹介したい神作がいくつかあるわ」


 最も得意な分野について話すと、心優は自分のおすすめ漫画とネタバレのない客観的な評価を惜しみなく披露してくれる。



 まだ五分ほどしか話していないのに、もうすぐ心優の家の前に着いてしまう。


「次は妹に聞いてみるね。もしいいって言ったら、さっき話した漫画を貸してあげるよ」

「うん」

「家に着いたよ」

「じゃあ、また。おやすみ」

「うん、またね。送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」


 以前何度か皆で帰る時、宮野が店に行かなかったら別の方向に行っていたから、心優は途中で宮野がわざわざ送ってくれたことに気づいた。誰もいないところでまた声を掛けられることを心配して、こんなことをしてくれているのかもしれないと思った。

 宮野が振り返って元の道を戻るのを見て、心優も鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。

 しかし、ドアを開けた途端、なぜか宮野が戻ってきた。


「あの……」

「ん?どうしたの、宮野くん?」

「君、今日、綺麗!」


 宮野は突然、なぜかこの言葉を口にした。そのまるでロボットのようにカクカクとした話し方は、思わず変で面白く感じさせた。


「ありがとう」


 心優は笑顔で返した。

 すると、宮野は恥ずかしそうに立ち去ろうとした。


「じ、じゃな!」

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