第18話 夏祭り②
公園から10分ほど歩いた先で、ようやく会場が見えてきた。
祭りは神社の近くの広場で開催されている。まだ少し早いけれど、今の時点でも人がかなり多いように見えた。
佐藤と早乙女以外の三人は、わざと足を遅くして後ろを歩きながら、隠れるタイミングを探している。
佐藤と早乙女が飲み物を買いに行った隙に、心優たちはそのまま離れようとした。
しかし、あまり遠くに行かないうちに、高校生らしき二人組の男子がわざと前に立ちふさがってきた。
「篠原さんですか?そして、横にいるのは久保さんですよね?」
「……面倒くさい」
沙織は彼らが声を掛けてきたことに気づき、心優を引き離そうとしたが、もう一人の仲間がすぐに前に手を伸ばして止めた。
「そんなに冷たくしないでよ。俺たちは同じ学校の三年生の先輩だし、偶然有名な後輩に会ったから知りたくてさ。もしよければ、一緒にお祭りを楽しむのもいいじゃん」
「すみません、今日は関係ない人と合流するつもりはなかったので。邪魔しないでくれる?」
宮野は助け舟を出そうと前に出た。しかし、二人は宮野を全く意に介していない様子だった。
「えっと、お前って誰……?」
「知らない、無視すればいい」
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。失礼します」
心優は礼儀正しく断ったものの、彼らは簡単には引き下がるつもりはなさそうだった。
「ちょっと待ってよ、一緒に少しだけでもいいから付き合ってよ。ほんのちょっとでいいからさ」
「君たち、本当に鬱陶しいだわ」
「そんなこと言わないで、久保さん。学校ではあまり会える機会がないし、今日はせっかく会ったから先輩と後輩の仲を深めるのも悪くないじゃん」
「あの、言いたいことはもうはっきりさせたんだから、どいてください」
「お前には関係ねぇだろ、邪魔すんなよ。つーか、俺たちが何しようが俺たちの自由だろ?」
「……そうなんだ、なるほどね。確かに君たちは年上かもしれないけど、精神年齢が全然追いついていない……あ、つい君たちの秘密をばらしちゃったかな?赤ちゃんみたいに未熟だなんて、他の人には知られたくなかったよね?うーん……でもこんな言い方だと赤ちゃんに失礼だな。君たちは赤ちゃん以下だから、僕、赤ちゃんに謝らないと」
「お前、どういう意味だ⁉」
心優の前に立ちはだかっていた男は、宮野の皮肉に激怒し、勢いよく彼の服を掴んだ。
「おい、何してるんだ⁉早く私の友達を放しなさい!」
心優は即座に、宮野に拳を振り下ろそうとした腕を両手で掴んだ。
沙織が助けを呼ぼうと電話をかけたその時、ちょうど佐藤と早乙女が戻ってきた。
早乙女は歩み寄りながら、わざと沙織の前に立ちはだかる先輩のズボンに飲み物をこぼした。
「あっ、ごめんね、うっかりこぼしちゃった」
「何やってんだよ⁉このズボンめっちゃ高いんだぞ!取れなかったら絶対に許さない!」
その先輩は早乙女に詰め寄ろうと一歩踏み出したが、肩を佐藤に押さえられて動きを止めた。
「誰を、許せないって?」
佐藤は笑みを浮かべながら、残像が残るほどの速さで手刀を先輩の首筋に叩き込んだ。先輩はそれ以上反応する間もなく、気を失った。
心優の注意がそちらの騒ぎに引かれ、無意識に手を離してしまった。すると、隣で突然風が吹き抜け、続いて鈍い音と低い唸り声が響いた。
振り返ると、先ほどまで宮野の服を掴んでいた先輩が、今や地面に倒れて横たわっている。
「くっそ……!」
さっきまで威張っていた先輩が、今や目を手で覆って、痛みで泣きそうになっているのを他人に見られたくないように隠している様子だった。
「え?」
「自己防衛ために背負い投げを使った。普段は人を傷つけたりしないんだけど……」
心優に誤解されることを心配したのか、宮野は不安そうに説明した。
だが、これで危機はどうにか解決した。あとは後始末だけ。
沙織は、まだ意識のある唯一の先輩の前にしゃがみ込んで、いつの間にか撮っていた動画を見せた。その動画は、先輩が宮野の服を掴んだところで途切れていた。おそらく、助けを求めようとしたところで止まった。
「これが公開されたらどうなるか分かってるよね?だから、これからは目の前に現れないでくれる?さもないと、どんなひどい目に遭うか保証できない」
「くっ……!」
今後もう彼らに迷惑をかけられないようにするため、沙織は仕方なくそうした。直接コネを使って退学させたり、立場を失わせることもできたが、それでは面倒だと感じたため、脅しという手段を選んだ。
我に返った心優は、周りに騒ぎを見守る人が増えていることに気づき、友達に目配せして早くここを離れようと示した。
その場を離れてから、ようやく一同は安堵の息をつき、歩調を緩めた。
「いやー、びっくりしたよ。戻ってきたら、まさかお前らがトラブルに巻き込まれてるなんてね」
「沙織ちゃんがあんなカッコよく脅すの、初めて見たよ。私までちょっとドキッとしちゃったわ」
「もう、からかうのはやめてくれない?今日はエネルギーが尽きかけてるから、これ以上君にツッコむ気力がないの」
「問題は完璧に解決したけど、飲み物を無駄にしちゃったなぁ……」
さっき、沙織を助けるために早乙女はわざと先輩のズボンに飲み物をこぼした。後悔はしていないが、やっぱり少しもったいなかった気がする。
「じゃあ、皆にたこ焼きをご馳走するね」
「やった!」
「そういえば、宮野くんってすごいわね、あんなしつこいな先輩を倒しちゃうなんて。それに佐藤くんも。さっきは本当にありがとう」
早乙女から聞いたところによれば、佐藤は柔道部のエースらしい。だから、彼の強さにはあまり驚かなかったけど、宮野の方がよっぽど驚かされた。だって、宮野は見た目からして喧嘩なんて苦手そうな、素直でいい子って感じだったから、自分よりも体格の大きな先輩をあんなにあっさり倒すなんて思ってもみなかった。
「俺、子供の頃から武術を習ってたんだ。まあ、さっきの背負い投げは昔祐樹に自分を守るために教えた技だけどな」
「あの時ずっとしつこくしてきたから、仕方なくノリで教えてもらったんだ」
「だってお前、嘘つくのが嫌いだからすぐに人を怒らせちゃうし、さらにもしお前は怒ったら毒舌になるだろ?だから自衛の技を覚えないとまずいんだよ。もし殴られでもしたら、伯父さんと伯母さんが悲しむだろうし、そんな雰囲気の中で飯食いたくないしさ」
「今思えば、さっきの宮野くん、怒るとちょっと怖いんだなぁ」
心優は笑ってからかった。
「いや、僕はあんまり怒らないから、そんな簡単に怒るタイプだって誤解しないで」
「祐樹ちゃんと知り合ってこの4年間で怒ったの、一回しかなかったよね?さっきので二回目だね」
「宮野って本当に人間なの?ちょっと精神状態が心配だな」
「僕の精神状態は全然問題ない」
「まさか私たちがちょっと声をかけられただけで、宮野くんがあんなに怒るなんて」
「それは……無意識的に?」
「なんで疑問形なの?」
そう聞かれた宮野は、困ったように頭を掻いた。
「えーと……」
「きっと、大事な友達が迷惑かけられたから、腹が立ったんだろうな」
どう答えるべきか躊躇っていると、佐藤が笑顔で宮野の肩に手を置きながら話しかけた。
「ところで、たこ焼き食べない人いる?」
注文しようとした沙織は、他の人に確認する。
皆がたこ焼きなら食べられると言うので、沙織はたこ焼きを5人前注文した。




