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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

救済

作者: きらほし

死は救済なんでしょうか。

 

「あれ、今日は意外と多いな。いつもはもう休憩に入っているのに」


 一人の天使は、懐中時計を見ながら言った。


「多分、今日は地上でなんかあったんじゃない?」


「あっ、リーダー。そうなのかな。みんな顔も髪も違うから、これからもっと増えるかも。ああ、考えたくない」


 静かにもがいた天使を見て、リーダーは少々困り顔をしたものの……。


「じゃあ、代わろうか?君は休憩に入ってていいよ」


 天使なりの優しさがあるのだろうか。役割を代わることにしたようだ。


「ありがとございます~。後で飲み物奢るね~」


 一人の天使は、ゆっくり立ち去って行った。


「はあ、僕も悪い癖だな。慈悲なんて地獄(ここ)に来てから捨てたはずなんだけど。まあ、いい事をしたんだ。悪い気分じゃない」


 リーダーは地獄の中の天使の長。本来、天使は天国で神に仕えているのだが、限られた天使が、地獄でも働いている。


「もう地獄(ここ)に来て、何千年経つんだろう。もうさすがに上の景色も忘れてしまったな」


 天使は死なない。神の勅命によって死ぬか、神が死んだ時に共に死ぬかの二択しかない。


 しかし、リーダーはもう自分が仕えているはずの神の顔も忘れかけている。


「神様も元気にしてるかな~。会いたいけど、そう簡単に会える訳じゃないし、そもそも地獄(ここ)から出ようにも、休みなんて無いし」


 リーダーは肩から生えてある翼を広げて飛び、地獄の門の上に座った。門の上から地獄の光景が一望できる。魂の行列は三途の川から裁判場まで数十キロは離れている。道もまともに整備されていなく、周りには針山や溶岩が渓谷のように出来上がっており、まさに絵に描くような「地獄」だった。


「もはや僕の故郷は地獄(ここ)だ。今上に行ったら、浄化されてしまいそうだ。これじゃあ僕も悪魔じゃないか」


「貴方は紛れもない天使ですよ」


 リーダーが振り向くと、みすぼらしい姿の悪魔が汚れている十字架を持ちながら立っていた。


「……どうして悪魔が十字架なんて持ってるんだい?」


「正直、貴方の姿を見ているだけでこっちも消えてしまいそうですが……これは少し前に道に落ちていて、拾ったものです。貴方が欲しいならあげますが」


「いや、いらないよ。悪魔が目の前にいるところで悪いけど、僕は君よりも悪魔であることに自信を持って言える。力も強いし、見た目も怖いだろう?竜の血も流れているからね」


「竜なんですか。てっきり鬼の血が流れているかと思いました」


 リーダーは天使と竜の血が流れているハーフであり、一本の角にきらやかな尾、尾の先の人魂、翼など竜の特徴と天使の特徴が混ざっている体をしている。地獄へ行くことが決められてから、地獄に適応している竜の血を入れて、楽ができるようにしたそうだ。


「でも怖くない。貴方は天使です。いつも迷っている魂を導いているではないですか」


「あれはただの仕事だよ。やろうと思えば君だってできる簡単な仕事だ」


「できませんよ……身共は」


「……あえて触れなかったが、君、見た目が痛々しすぎじゃないかい?」


 悪魔の体には槍が腹、ナイフが二本、(もも)(すね)に刺さっており、ネジが数本頭にねじ込んである。他の天使が見れば全員失神しそうだ。


「身共は、仕事で失敗してばかりで、仲間にも虐げられて、つい最近住居から追放されたばかりなんです」


「随分と不適合だね。こんな辺境にいるのも少し可笑しいと思っていたが」


「お願いです。私を死なせてください。もう地獄(ここ)には私の居場所は無い。何度も死のうとしましたが、この体のとおりです」


 「命はみな平等」。この言葉をリーダーは咄嗟に思い出した。もう忘れかけていた神からの言葉。どれだけ徳を積んでも、どれだけ生物を殺しても、死ねばただの魂になる。命に優れているも、劣っているもないのだ。


「難しいお願いだね。急に死なせてくださいなんて中々聞いたことがない望みだ。いや、望みを同僚以外から言われるのは初めてかもしれない」


「分かっています。でも仲間たちからは殺す価値すらもないって言われて、もう心も地の底まで落ちてしまいました。なら、せめて貴方が私を死なせてくれれば、それは身共の本望です」


 悪魔は十字架を握りしめながら、必死に願った。人間が神頼みをするように本当に必死だった。


「……これを飲みなさい」


 リーダーは天使の輪に付いていた桃色の液体が入っている瓶を取り、悪魔に渡した。


「これは?」


「薬だよ。これを飲めば死ぬ。いや、死ぬというより、光となってうっすらと消えていくような感じだね。悪魔は死んだらどうなってしまうんだい?」


「噂だと、裁判もなしにどこかへ転生してしまうらしいです。また悪魔に生まれるかもしれないし、天使に生まれるかもしれないし、人間かもしれない……」


「そうか。次生まれ変わるなら、天使がおすすめだよ。仕事も少ないし、他の天使たちも優しい子が多いかもしれないよ」


 リーダーは冗談交じりで言った。実際、職場環境はどんな所よりもマシかもしれない。


「そうなんですか。でも私は人間に生まれ変わってみたいなって思ってるんです。地獄(ここ)のはるか上の世界……どうなってるんでしょうね」


「僕は確か、数万年前は地上に少しだけいた気がするんだけど、もうさすがに文明も発達したと思うからさすがに地獄(ここ)よりかははるかに住みやすいと思うね。そうだ」


 リーダーは尾の先にある人魂を取り、悪魔に見せた。


「滅多に使わないから、正直さっきまで存在を忘れていたけど……。君が死んだら、光はこの人魂に吸収されて、またその薬を作るのに必要な材料の貯蓄となる。それでもいいよね」


「もちろんです。また身共と同じような者が現れた時にお使いください」


「(……君は悪魔にしては優しすぎる。もしかしたら周りとの価値観が違いすぎて、追放されたかもしれないな)」


「最期に一つ、何故このような薬を持っているんですか」


「僕はもう地獄(ここ)に来てから、天使としての慈悲は捨てたつもりだった。でもたまに君のような死にたがりが這いつくばってやってくるんだよ。そのために作ったんだ。死なせてやるための薬をね……。やはり僕は天使ではなく、悪魔だろう?本当の天使だったら、救ってやるのがベストだっていうのに」


 リーダーは悪魔に問いかけた。しかし悪魔はこの世のものではないほど微笑み、泣きながら……。


「私は今、幸せですよ。救ってくれてありがとう」


 と言った。そして目を閉じながら薬を飲み、徐々に光となって悪魔は消えていき、光は人魂に吸収されていく。リーダーは消えていく姿を瞬きせずにただただ見つめていた。


「それは、遠回しに『死なせてくれてありがとう』って言っているようなものだよ」


 リーダーは人魂を手で持ちながら苦笑いで言った。人魂から光が出てきて、瓶に入っていく。あっという間に桃色の薬に変化した。

 

 魂の行列はまだまだ続いている。きっと、何百年たっても絶えることはないだろう。リーダーは桃色の瓶を見つめながら、地獄の門に足を揺らして座っていた。



 なお、数十年後、地上でとある少女が宙に浮いていたのはまた別のお話。



 

 短編です。私は神や天使が存在しているとは思っていませんが、こんな上級階級の存在がいたら、面白いですね。序盤の後輩天使の「意外と多いな」という発言は考察しがいがありますね。地上で戦争があったのか、疫病が流行ったのか、本当にたまたま亡くなった生物が多かったのか……。どの解釈でも辻褄が合いますね。

 実は、キャラや小説の内容が決まったのが数日前なんです。私は衝動書きしてしまう癖があるんですが、今回はかなりいいパターンだったと思います。

 「とある国の惨めな大樹」は本当にすみません。夏(できれば7月中)には絶対に投稿しますので気楽にお待ちいただけると嬉しいです。

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