三日月に祈った。「どうかあの方と一夜のダンスを踊らせてください」
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
後夜祭1ヶ月前、『月』が配られました。
正確に言うと月の形をしたペンダントで、全27種類。
王立ボヌール学園では後夜祭にダンスをします。お相手を決めるのに使われるのが『月』です。
女子には二日月から子望月まで。男子には十六夜から二十九夜までバラバラに配られます。
両方の『月』を合わせてピッタリ満月になれば──それが運命のお相手──ということです。
後夜祭まで熾烈な情報合戦が繰り広げられました。ダンスをきっかけに結婚される方々も多数。必死です。
クラスメイトと交換して思い通りの『月』がくれば身につけ、『私の月は決まりましたよ』とみなに知らせるのです。
私は初日に三日月のペンダントを着けました。
お相手が決まっている? いいえ。私の望みはグレイグ・アンリ伯爵令息。みんなの憧れです。
私のようなモブ中のモブでは相手にしていただけますまい。女子はみなグレイグ様の『月』を知りたがりましたが、ご本人は涼しい顔。けして教えてくれませんでした。
『三日月』は願いを叶えてくれる月。
なかなか見つけることのできない三日月は、その珍しさから人の願いを叶えてくれるといいます。
私はペンダントを握りしめて『お月様。どうかグレイグ様と一夜のダンスを踊らせてください』と祈るのみでした。
後夜祭当日。
闇に篝火が炊かれて、女子と男子がそれぞれ一列に並び顔を合わせました。
グレイグ様はおもむろにポケットからペンダントを取り出し、留め具を首の後ろではめました。どよめき。
グレイグ様の『月』は『二十七夜』でした!
グレイグ様は微笑むと真っ直ぐ私の方へ進み出ました。
「エミリア嬢。月を合わせていただけますか?」
私は震えながら手持ちの三日月を差し出しました。カチリと音がしてそれは満月になりました。
「どうやらあなたが運命の相手のようですね?」
差し出された指に自分の指を重ねて、私は言いました。
「夢のようです。お月様に毎日、奇跡を祈っておりました」
「月に祈った?」グレイグ様がゆっくり笑う。
「僕は月に祈ったりはしなかった。運はね。祈るものじゃない。つかみ取るものですよ」
そのまま私の耳元で囁きました。
「僕がこの『月』を手に入れるために、どれほどのことをしたか……あなたにわかってもらう必要がありますね?」
熱を帯びた琥珀色の瞳が今まで見たどの満月よりも美しく輝いて見えました。
ファーストダンスに向けて私たちは揃って足を踏み出す。夜空には星が一面瞬いていました。
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