一
セレスタミア王国の東一番街、通称貴族街に住む宮廷音楽家のフォン・アルフレッドの一日の始まり方はいつも同じだ。起床して一杯の水を飲み、顔を洗い、朝食の前に防音の効いた音楽室にあるチェンバロの前に座る。そして深呼吸した後いつも同じ一曲を演奏するのだ。テレテッテッテッテッテン! 終始小気味よいテンポで進む、程よい明るさのその曲がアルフレッドは好きだった。その二小節目、三回目の『テッ』にちょうど女王アナスタシアが目を覚ましていることをアルフレッドは知らない。
まるで曲に呼応するかのようにアナスタシアは寝起きに伸びをし、コックは食材を切り、メイドが回りながら花に水をやり、犬はあくびをし、アナスタシアが服を着せられ、コックはフライパンで食材を炒め、メイドが回りながら朝食を並べ、街の子供達は走り出し、犬は寝る。アナスタシアがティアラを被り、鏡で確認すると部屋を出て、メイド達が左右に並んで女王に頭を下げている廊下を突き進み、世話係のジイが挨拶し、朝食をガンガン食べ、謁見の間に出てきたアナスタシアが玉座に座る時、ちょうど曲が終わることをアルフレッドは知らない。




