第62話 二人っきりのお祝い会
「全く嵐のような二人だった」
「確かに」
熟年夫婦ことトモと遠藤さんが帰った後、俺と愛莉は細々とした片付けを行っていた。
といってもあの二人も片付けて行ったのでそんなに残っていない。
あるのは食器を洗うことくらいだ。
ということでコップを洗っていたのだが愛莉が手伝うと言ってきた。
善意で手伝うと言ってきてくれているので断るのもどうかと思い彼女に頼んだ。
「本当に仲が良いね。あの二人」
「もう結婚していると聞いても納得する」
「分かる気がする。でもあれだけいちゃついてて、何で学校で噂にならないのかな? 」
言いつつ愛莉が半歩俺の方に寄って来た。
俺の前を彼女の腕が通り過ぎ蛇口を開ける。濡れないように捲りあげられた袖からは健康そうな肌が見え、俺の前から消えていった。
彼女が近付いた影響か花の良い香りが漂ってくる。
それに思い起こされる形で写真を撮っていた時の柔らかい感触を思い出した。
「だ、大丈夫?! 」
「……大丈夫だ」
俺が落としかけたコップを愛莉がギリギリキャッチ。
愛莉が「これボクがやるよ」と言うと同時に洗いだす。
残ったコップも洗って一息ついた。
★
「ありがとうな」
「いいよ、このくらい」
リビングのソファーに座る愛莉にお礼を言う。
座るために愛莉の前まで行き腰を降ろそうとする。
けど目に時計が映った。
――もうこんな時間か。
いくら家が近いと言っても九時が近い。
もう帰らした方が良いだろう。
彼女がこの部屋にくるようになって一人の時間が寂しく思うようになった。
愛莉に対する恋心がそうさせているのかはわからない。
彼女に少しでもこの部屋にいて欲しいというのは単なる俺のエゴ。愛莉に強制すべき事ではない。
ソファーに座る愛莉が俺の顔を覗き込んでくる。
「どうしたの? 」
「あ、うん。……ちょっと待っててくれ」
了解と言う彼女の声を背に俺は自分の部屋へ向かう。
早足で廊下を歩き扉を開ける。
リビングとは異なり冷たい空気が俺を刺す中目的のものを見つけ手に持った。
紙袋を手にして愛莉のいるリビングへ。
ずっとこっちを見ていたのか廊下側に固定された愛莉の瞳とパチリと合う。
若干緊張しながらソファーの前まで行くと愛莉は俺が手に持つ紙袋に目線を移す。
「これは? 」
「お祝いのプレゼント」
「え? 本当?! 」
驚く愛莉の方へ紙袋を差し出す。
愛莉はソファーから滑るように降り机の前に座るとそれを受け取った。
「でもなんで。ボクが三十位に入れるかわからないのに」
「あのペースなら入れるだろうと思って」
愛莉は「そっか」と零しながら、一度紙袋に下げた目線を上げて俺に聞いた。
「み、見ても良いかな」
「……どうぞ」
許可を得た愛莉が紙袋を慎重に開ける。
プレゼントを目の前で開けられるというのは中々に緊張するものだな。今日初めて知った。
ごそごそと紙袋から音が聞こえる。
そしてそこから一体のぬいぐるみが姿を現した。
「くまのぬいぐるみ! 」
「正直子供っぽいかなと思ったけどこれにした。因みに選択肢は幾つかあった」
「選択肢? 」
「形容しがたいぬいぐるみシリーズか、正気を疑うぬいぐるみシリーズか、夜に動き出すぬいぐるみシリーズか……」
「どれも不穏なものしか感じないよ?! 」
ツッコミを入れながらも笑みを浮かべる愛莉。
くまのぬいぐるみをぎゅっとしている姿がまた可愛らしい。
これが「尊い」というものだろうか。
……写真に収めたい。
「あ……」
「どうした? まさかこのぬいぐるみに何かあったのか? 」
「ううん。ボクばっかりしてもらってレンにお礼できないなって」
そう言いしゅんとして更にぬいぐるみを抱きしめる力を強める愛莉。
今回のお祝い会にしてもプレゼントにしても突然だったからな。仕方ないと思う。
それを口にしようかと思うと愛莉が顔を上げる。
キリッとした瞳でこちらを見ると席を立ち自分の荷物を片付け始めた。
「き、今日の所はこのくらいで許してね」
座る俺に近寄りながら言う愛莉。
言葉に不自然さを感じながらも愛莉が帰ることに気が付いて見送るために席を立とうとする。
瞬間、俺の頬に柔らかいものを感じた。
「………………え? 」
「じ、じゃぁまた月曜! 」
愛莉は言葉と共に去る。バタンと玄関が閉じる音が聞こえてくる。
唖然とする中遅れて柔らかい感触が再度俺の頬を襲う。
それを手で確かめ何が起こったか認識する。
「~~~~~~!!! 」
愛莉が残した花の香りと共に俺は数日悶えた。
ここでお読みいただきありがとうございました。
本作はこれにて終了となります。
もし少しでも楽しんでいただけたのならば書いたものとして幸いでございます。
最後になりましたが、面白かったなど少しでも思って頂けたら、是非広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。
ではでは~。




