第42話 宇治原くんの初デート 4 アミューズメント施設 1
「おおおーーー。ここが噂に聞くバッフル! 」
「噂に聞くって……。来たことないのか? 」
「ボクは殆ど練習漬けだったからね。他の人達が言っているのは聞いたことがるけど実際に来るのは初めてかな」
「意外だな。てっきり行ったことがあるのかと思ってたよ」
俺は苦笑しながら大きく黒い建物をみて興奮している愛莉を見た。
バスを降り俺達が向かったのはこの街にあるアミューズメント施設バッフル。
手頃な所で尚且つ楽しめる場所で真っ先に思いついたのがここだ。
時々息抜きにトモと一緒に来ているし安心だ。
変に気を張って不慣れなところへいって手間取るよりかはマシだ。
しかし愛莉が来たことがないというのはちょっと予想外。
数週間前なら彼女なら遊び尽くすほど来たことがあると言われても納得がいったが、陸上一筋だったことを知る今となっては納得できる。
存分に楽しんでもらいたい。
「じゃ、行こう! 」
「ち、ちょ?! 」
興奮冷めない愛莉は俺の手を握る。
そしてそのまま手を引かれ俺達は施設の中へ入った。
★
この施設は多くの娯楽を営む店の集合体のようなものだ。
基本的に一階にはゲームセンターのようなものが広げられ、二階には卓球やボーリングにダーツ、と様々な見せた立ち並んでいる。通り過ぎた店には麻雀の店もあったが俺達はまだ入れない。
「なにして遊びたい? 」
「んんんんん~~~」
音楽鳴り響く店内に設置された案内用の看板の前で愛莉に聞くと、彼女は大きく首を傾げて悩んでいる。
そこまで悩むものか?
難しそうな顔をして悩む愛莉を見てそう思いつつも「初めてだしどれがいいのかわからないのかもしれない」とも思った。
今回はどれにするかを愛莉に任せた。
本来ならば俺が決めた方が良いのかもしれないが彼女の怪我の事がある。
もしかしたら出来ないものがあるかもしれない。
出来ないものを無理にすることはないし、無理をして彼女に痛みが走ってもいけない。
悩む愛莉を見ていると決めたのか首を元の位置に戻す。
俺の方を見て、案内用の看板を指さした。
「よし。決めた! 」
「どれにする? 」
「ボーリング!!! 」
じゃぁ行こうか、と声をかける。
うん、と頷き今度は俺が手を差し伸べる。
一瞬顔がきょとんとなった。しかし意図に気が付いたのか俺の手に小さな温もりが伝わってくる。
やられっぱなしは御免だから、な。
と思いつつも愛莉を引き連れ俺達はボーリング場へと向かった。
受付で生徒証を出し名前を書いて後にする。
靴を買う所まで行き自分のサイズの靴を借りる。
「レンって意外と足のサイズ、大きいんだね」
「確かに大きいが……、身長ほどだと思うけど」
それもそっか、と言いながら俺の手を覗いていた愛莉が二三歩下がる。
クルリと体を回して小さな顔を上げ自分の靴のサイズを探す。
幾つか見た後レディースシューズを見つけた彼女は俺のやり方を真似て愛莉も靴を借りる。
ガタン、と音が鳴る中白い靴を手に取り自分達のレーンに向かった。
レーンへ行き、靴を履く。
紐を解き靴に足を入れて紐を結び顔を上げる。
「うおっ! 」
「ごめんごめん」
愛莉が俺を覗いていてビックリした。
俺なんかを覗いても楽しくないぞ、と言いかけるも言葉を飲み込む。
今回は、どんな方法であれ彼女が楽しむのならばいいだろう。
「ボールでも見に行くか」
「うん! 」
声をかけて立ち上がる。
ボールが並ぶ所まで行きいつも使っている重さのボールを手に取った。
悩んでいるだろうと思い愛莉を探す。
すると俺のボールと同じ重さのボールを手に取っていた。
「……重くないかそれ? 」
「全然」
「そ、そっか」
愛莉の言葉に顔を引き攣らせる。
俺が使っているボールはそれなりに重いはずなのだが……、彼女を見ている限り無理をしている様子はない。
悠々と運びレーンに向かっている。
俺も愛莉を追う形でついて行きボールを置く。
前を向くと愛莉は椅子に座り機械を興味深そうに弄っている。
このままボーリングを初めても良いのだが途中喉が渇くかもしれないと思い、立ったまま愛莉に声かけた。
「飲み物、何が良い? 」
「買いに行ってくれるの? 」
「ああ。このくらいは」
「じゃぁボクも行くよ! 」
機械を机に置いてサッと立ち上がる。
拒絶する理由もないな、と思いボールに背を向け一緒に自販機の方へ足を向ける。
俺が温かい飲み物を頼んだ後愛莉も同じボタンをポチッと押した。
悪戯っぽくこちらを見る愛莉に戸惑いながらも、俺達はココアを一つずつ手に持ちレーンに戻った。
ここまで如何だったでしょうか?
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