第41話 宇治原くんの初デート 3 バス移動
バス停に着くと丁度バスが来た。
待たなくても良いように時間を考えて集合したけど実際丁度くると安堵する。
愛莉とバスを待つのがつらいわけでは無いが、もしバス停で無言の時間が続いて重たい雰囲気になったら困るからだ。
「さ、乗ろう」
プシュ―、と空気が抜けるような音がしてバスの扉が開く。
先陣切って段を登り中に入る。
外に待っている人はいなかったが、中にもあまり乗客はいないようだ。
「あそこへ行こう」
「うん」
少し緊張しながら真ん中くらいの席に足を向ける。
途中、窓際と通路側どちらがいいか愛莉に聞いたら通路側が良いとの事。
よって俺が窓際へいき、そして愛莉が通路側の席に座った。
★
少し時間が経つがまだバスは出発していない。
しかしこの状況。
非常に、ドキドキする。そして気まずい。
何か気のきいたことでも話せればいいんだが、話題がないっ!
俺の持ちネタはアニメ関連と勉強のみとかなり極端だ。
クラスメイトが聞くような音楽や話題の映画とやらはわからない。
トモと一緒にいる時はそれで大丈夫だったので安心しきっていたが、ここに来て自分の周りへの興味の無さが今の状況を作り出していた。
このバスは対面ではない。
全ての席が前向きで二つずつ設置されている。
よって窓際と通路側の席に座る事が出来るのだが……、いざ隣合わせで座ると何を話したらいいのかわからなくなった。
いや話す必要はないのかもしれない。
俺が今日という日を気にしすぎているせいで、何かしないといけいないと勝手に緊張しているのかもしれない。
緊張しすぎて隣の愛莉を見ることができない。
愛莉も緊張しているのだろうか?
隣から話しかけて来る雰囲気はない。
……どうしたものか。
自然と視線が下がる。
勉強をするにあたって無言の時間が続くことはよくあった。
状況自体はそれと同じはずなのに何で今日は「無言の時間」というものがこんなにも気になるのか。
今日は愛莉の息抜きを行うために街へ行く。
決して俺の為ではない。
しかしこうも気になるということは、今日という日を俺自身が何か求めているのだろうか?
――浅ましい。
自分が嫌になる。
愛莉の為と言いつつ対価に何かを求めてしまう自分が小さく見える。
プシュー、と音が鳴り出発の放送が流れて動き出す。
少し体が揺られて落ち着いた時に隣から声が聞こえてきた。
「レン? 」
「お、おう」
いきなりかけられた声に驚き隣を向くとくるっとした丸い瞳が俺を見上げていた。
「どうしたの? 緊張でもしてる? 」
「そ、そんなことはない」
「嘘だぁー」
「本当だって」
「別に緊張していても良いんだよ? 」
「そうは言うがな……」
「あ、今認めた」
「あ」
してやられた。これが誘導尋問と言うやつかっ!
愛莉、恐ろしい子っ!
「ねぇ。今日どこに行くのか聞いていい? 」
「今日はな――」
今日の日程を愛莉に話す。
話している間に緊張がほぐれた。
バスが街の中心部に着いた頃には発射する前の雰囲気は霧散していた。
★
「……気付きませんでしたね」
「まさかだよね。僕は正直どうなるか冷や冷やものだったけど」
「こういう時、堂々としていると案外見つからないものです」
友和が「なるほど」と頷き冴香は得意げな顔をした。
今はバスが街の中心部に移動中で、彼らは簾達よりも更に後ろの席に座っていた。
二人を見守る恋のキューピット達だが本当のキューピットのように姿を消すことは出来ない。
友和が「どうしたものか」と考えている時、冴香が堂々と中に足を踏み入れた。
簾達が緊張して周りが見えていないおかげで二人はターゲットに気付かれず、簾達の後方を陣取る事が出来たのであった。
「さて。二人はどんなデートを見せてくれるのか」
「正直野次馬根性は気が引けるけど、親友として初デートの成功を見届ける義務はあるよね」
その通りです、と冴香が言い友和は前の様子を見る。
「中々に良い雰囲気じゃない? 」
「最初どうなるか心配でしたが会話が弾んで何よりです」
「そのおかげか僕達はまだ見つかっていないみたいだね」
「緊張して周りが見えないことは減点ですが、会話に集中して私達の存在に気付かないのもこれもまた如何なものかと」
「まぁ仲が良いということにしておこうよ」
そういうことにしておきましょう、と冴香が頷くと友和の方に体を寄せた。
友和も冴香の方に体を寄せて少し触れる。
遠くから見たら百合カップルに見える二人だが、その実は健全な男女のカップル。
こうして無自覚ダブルデートが始まる。
ここまで如何だったでしょうか?
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