第32話 勉強会という名のおうちデート。だが二人はガチである! 1
「大丈夫? 」
「……ああ」
「片方持とうか? 」
「いや大丈夫だ」
陽が傾く帰宅時間。俺達は図書館を出て帰路についていた。
俺が持つ鞄の中には三冊ほどの専門書が入っている。
軽くキロを超えている本を持っていると愛莉から心配する固い声が聞こえてきた。
「試験勉強のために借りることはよくあったから心配しなくても大丈夫だ」
見つめてくる彼女に笑顔で言う。
嘘は言っていない。
何度も試験勉強のために専門書を借りたことは本当にあった。
ただ今回の様に一回に数冊持つようなことが無かっただけだ。
「でも腕がプルプルしてるよ? 」
「……気のせいだ」
本当は重たい。
だがこの程度で助けてもらうのは一人の男子として受け入れ難いものがある。
彼女の言う通り少し腕が震えているかもしれない。
だがこれは重さではなく冷えてきた気候のせいだろう。
最近急激に気温が変化するからな。
「にしても凄い集中力だったな」
腕の震えを誤魔化すように愛莉に聞く。
愛莉は一瞬大きく瞳を開けて微妙な顔をした。
何か変なことを言ったか?
「まだまだだよ」
「そうか? 周りの状況が見えないほど集中してたが」
「ん~、勉強に慣れてないせいか、まだ粗があるように感じる」
納得していないのか愛莉は微妙な顔を崩さない。
あれよりもまだ先があるのか。
愛莉のストイックさに驚きながらも鞄を持ち直す。
やっぱり重い。
重さを誤魔化すために何度も鞄を持ち直しつつマンションに向かう。
高校から離れ道の賑やかさの種類が変わった所で愛莉が言った。
「あ、そうだ。レンは今日、スーパーに寄らなくても良いの? 」
「あ……」
今日の戦いはまだ終わっていなかった。
★
スーパーから帰り晩御飯を食べてシャワーを浴びる。
だるい腕を無理やり動かしながら洗濯物を取り込むと準備を始める。
――愛莉が来るのだ。
愛莉がこの部屋に来ることは初めてではない。
むしろ頻繁に来ている気がする。
しかし今日は勉強会。
必然的に長く俺の部屋にいることとなるだろう。
慣れない事に顔を赤らめながらも道具を運ぶ。
勉強する部屋はリビングだ。
少し大きめの机に広げて愛莉が対面にいる状況を想像した。
気持ち悪っ!!!
何を考えているんだ俺……。自分に飽きれてものが言えない。
愛莉は俺の部屋で勉強することが一番効率的ではないかと考えて俺の部屋を選んだのだろう。
実際問題最近まで陸上一筋だった愛莉の家よりも俺の部屋の方が資料は揃っていると思う。
変な気を起こして危険な男子としてマークされるようなことはあってはならない。
――甘い気持ちは捨てるべきだ。
確かに夜、女子が自分の部屋に来ることに思わない事はない。
現に俺の心臓がドキドキしている。
だがしかし彼女の信頼を損ねるようなことは慎むべきだ。
今の、女子と一緒にいるという奇跡的な関係は信頼の上で成り立っている訳だから。
そう思うと気が抜けた。
それぞれ教材を並べているとインターホンの音が鳴った。
――愛莉が来た。
そう思うとまた心臓の鼓動が早まるのを感じた。
コントロールしきれない心臓に苛立ちを覚えながらも「はい」と玄関に向かって返事をする。
ド、ド、ドと床を踏みながら玄関まで行きスリッパを履く。
例の如く覗き穴を覗き、その先に黒い瞳がある事を確認。
「重原愛莉参りました! 」
扉越しに愛莉の言葉が聞こえてくる。
……やけにテンション高いな。
頬を緩めながらノブを回して扉を開けた。
「こんばんは」
「こんばんは」
扉の先にはレディースの黒いタンクトップを着てデニムのショートパンツを履いた、私服姿の愛莉がそこにいた。
……今日はニーハイじゃないんだ。
ここまで如何だったでしょうか?
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