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第31話 図書館勉強

 この図書館には自習室が幾つか存在する。

 その中に談話(だんわ)が可能な部屋もあって、俺達はその部屋に入った。


「こんな部屋があったんだね」

「集団で勉強する時用に、とさ」


 俺が科学系統の本を幾つかおいて席に座る。

 本の量をみて愛莉(あいり)の表情が強張ったのを感じたが、ここで手を抜くわけにはいかない。

 借りてきた本を並べつつ昨日借りたテストも広げる。

 赤い文字が並ぶそれをみて愛莉は更に顔を強張らせた。


 この部屋は、勉強目的に限られるが会話が許可されている珍しい部屋である。

 定期的に職員が回ってくるが自由度は高い。

 俺達生徒はわりと自由に使っており、多くの生徒が座っている。


 どうしてこんな部屋があるのかというと、ある卒業生が「高校にお互い高め合うための部屋があってもいいのでは? 」と提案したのが始まりらしい。

 それを受けこの部屋を増築(ぞうちく)したのだが、その卒業生の影響力というのが垣間(かいま)見える。


「まずは、これだね」


 愛莉が生物の教材に小麦色の健康そうな手を伸ばす。

 ブレザー下の白い長シャツが体に引っ張られ手首がこちらを(のぞ)いた。


「ほら」

「ありがと」


 取りにくそうだったので本を渡すと若干(ほほ)を緩めながらはらっと本を開ける。

 愛莉は少し目線を落とすと(まゆ)が寄った。


「……これ。専門書じゃない? 」

(まぎ)れもない専門書だ」

「高校のテストで専門書なんて」

「辞書代わりだよ」


 我が校のテストは難しい。

 教科書に書かれている問題はもちろんの事、時々赤本にすら()っていないニッチな問題も出る。

 それをクリアしなければ上位三十位は難しいだろう。

 これを説明すると愛莉は「なるほど」と呟いて重たいそれを再度眺めた。


「そんなに読もうとしなくても大丈夫だぞ? 」

「え? 」

「これを全部覚えないといけないなんてことは無いから」


 安堵(あんど)する愛莉。


「最初は教科書を解けるようにする」

「うん」

「で教科書を元にしてテストに出そうな所を専門書からピックアップする」

「それって大変じゃない? 」

「もう慣れた」


 驚く愛莉に俺は苦笑いする。


「運動部の練習でもパターンはあるだろ? 」

「うん」

「それと同じ」

「同じかなぁ? 」


 首を傾げて疑わしそうな目線で見る彼女に俺は本を広げながら探す。


 何事にもパターンというものはある。

 過去どのような問題が出たとか、次どのような問題が出そうとか。

 難易度の高いこの高校のテストで唯一(ゆいいつ)救いがあるのならば、教科書外の問題は比較的予想がつきやすい所だろう。


 実の所範囲外問題の過去問は出ている。

 知らない人は多いがこの図書館にひっそりと陳列(ちんれつ)されている。

 俺がそれに気づいたのはほんの偶然。それが過去問だと気付いたのは後でトモに見せた時。

 この学校の伝統かは知らないが、どうやらそれを手に取った人は後輩に向けて過去問を置いて行かないといけないらしい。


 だからと言って過去問がそのまま出ることは無い。

 実際途切れない過去問で(かぶ)っている所が奇跡的にない。

 しかしながらそこから次の問題を類推(るいすい)することはできる。


 よって過去問はどの先生が、どのような傾向で出しているのかを調べるためのものである。

 後で見ると今年の一学期期末テストの上位三十位の人達の過去問が全て(そろ)っていた。

 これを使うのは上位に入るための必須なのだろう。


「ま、一先ず始めよう」


 俺は自分の参考書を手に取り愛莉に自習を(うなが)した。

 

 ★


 (すごい集中力だな)


 勉強に区切りつけてふと顔を上げると、今まで見てきた愛莉とは全く異なる愛莉がいた。

 彼女の後ろにいた生徒はもう見えない。

 軽く周りを見渡すと他の生徒も帰ったようだった。


 自慢ではないが俺の集中力もそれなりに高い。

 しかし愛莉のそれは(はる)かに上回っていた。


 いつもと同じ健康そうな顔は真面目そのもの。

 教科書を見つめる黒い瞳は左右に揺れている。


 若干焼けている手が動く。

 ページに触れゆっくりと動かす。長い睫毛(まつげ)を動かし次のページを凝視した。

 

 今の愛莉は誰も寄せ付けない雰囲気を(かも)し出している。

 いつも接している人達がこの様子をみると誰かわからないかもしれない。

 それほどまでに雰囲気が違う。


 教室ではクラスメイトに囲まれている愛莉。

 しかし(まと)う雰囲気が変わるほどに真剣な表情をする彼女を見ているのは俺だけだ。

 ちょっとした優越(ゆうえつ)感を感じながらも、「なに勘違いしてるんだか」と心の中で自嘲(じちょう)していると疲労を感じた。


 (そろそろ一休憩した方が良いと思うけど……)


 顔を上げチラリと時計をみると、もう閉館時間まで後一時間を切っているのがわかった。


 (このまま声をかけない方が良さそうだ)


 そう思い、俺も再度机に向かった。

ここまで如何だったでしょうか?


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