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第3話 重原愛莉と幸せを呼ぶプリン

 ――陸上で故障し再起不能になった。


 彼女『重原(えはら)愛莉(あいり)』にとってこの事実は受け入れがたい事だった。


 怪我をしたのは数か月。

 様々な検査をして最終診断が下されたのは、彼女の命を救った宇治原(うじはら)(れん)とばったり会ったその日の事。

 一時期入院していたが全くと言って良い程に簾は彼女と接点が無かったためその事実を知らない。


 最終診断を下されたその日、彼女はショックのあまり沈んでいた。

 怪我はしたが、陸上選手として選手生命を()たれるほどとは思っていなかったが故に。

 小学校に上がる前から陸上をしていた彼女にとって、走る事は愛莉にとって存在意義のようなもの。

 空気を吸うかのように毎日走っていたため、いきなり呼吸が出来なくなるような感覚に襲われていた。


 両親と言えど愛莉の心の(うち)を全て知っているわけでは無い。

 彼女の両親は陸上選手でなければ、スポーツ選手でもないからだ。

 彼女にとって幸運だったのは、そんな二人が愛莉を全面的にバックアップしたことだろう。


 頑張る姿は素敵だが、スポーツが全てでない事を知っている両親。

 ある意味普通の大人の感覚で彼女を(はげ)まし、そして彼女が浮上することを待ったがために今回のようなことが起こった。


 ――愛莉から目を放してはいけない。


 そう思いつつも会社員の父は残業で、看護師の母は病院へ行った。

 その日愛莉はぼーっとしていた。

 なにもやる気がなく、天上(てんじょう)を見上げるだけ。


 ――このままではいけない。


 元より向上心の高い愛莉。

 ぽっきりと折れた心でも「何かしないと」と思い、空気を換えるために外に出た。

 だが頭がぼーっとする。

 (もや)のかかった頭のままで外に出て、そしてあの事件が起こったというわけだ。


 (いっぱい怒られちゃったな)


 愛莉は少し広めのベッドの上に寝転がりながら思い出す。

 しかし彼女の顔はどこか()()れとしており、簾と会った時のような暗い雰囲気は霧散(むさん)していた。

 怒られたにも拘わらず少し顔がにやけ少しだらしない。


 愛莉が家に帰ると父がいた。

 仕事を切り上げて早くに帰って来たからだ。彼はスポーツに(うと)くても愛莉の精神状態が良くない事を感じ取っていた。


 彼は良くない予感がし早々に帰ったが、嫌な予感の通り愛莉は家にはいなかった。

 すぐに愛莉の母に連絡し、警察に行くところで愛莉が一人帰って来た。

 それに安堵(あんど)し、そして猛烈(もうれつ)なお説教をしたということだ。


 愛莉はしゅんとなりながらもそれを受け入れた。

 元より素直な愛莉だが、今回ばかりは命の危険があったために反抗できなかった。

 事故の事を思い出し、愛莉の胸はドキドキする。

 更に助けてくれた男子()の事も思い出し更にトキメキが増していく。


 それを隠すかのように顔を振ってベッドから降りる。

 机の上にある小さなエコバックを見つけて思い出した。


「そう言えば甘いものって言っていたよね」


 勉強机まで行き、エコバックをひらける。

 その中には一個のプリンとスプーンがあった。


「美味しそう」


 プリンを取り出し少し持ち上げ全体を見る。


 有名店のものではない。

 普通にスーパーに売っているそれである。

 しかしながら今の彼女にとってその黄金の個体は何よりも輝かしく見え、彼女の食欲をそそる。


 (うなが)されるように椅子に座りべりっと音を立て(ふた)を開ける。すると甘い香りが彼女の鼻腔(びくう)をくすぐり、スプーンを手に取らせた。


「~~~!!! 甘い!!! 」


 口の中で糖分がはじける。

 愛莉の体内を()(めぐ)り、疲れた心を(いや)す。


「明日レンにお礼を言わなきゃね」


 完食した彼女は完全に(ゆる)みきった顔をし、ぽつりと呟く。

 んん、と天井に向けて腕を伸ばしてストレッチ。


 机から離れてベッドへ向かう。

 体が、軽い。

 今まで背負っていた(おも)りが無くなったかのような感覚を得て、にやけるのが止まらない。


 枕に抱き付き「ムフフ……」と笑い、バタつく。


 愛莉は簾の呼び方が宇治原君からレンに変わっていることに後から気付いて羞恥(しゅうち)に塗れたのはそのすぐ後であった。

ここまで如何だったでしょうか?


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