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第29話 重原愛莉は惚気たい

 重原(えはら)家の愛莉(あいり)の部屋。

 この部屋の(あるじ)である愛莉は一人机に向かっている。


 女子高校生にしては(かざ)り気のない無骨(ぶこつ)な部屋にカリカリカリ、パラりと音が鳴る。


 ペンとページの音律(おんりつ)が止まると「ん~」と可愛らしい声が鳴る。

 寝間着姿の愛莉が腕を伸ばしてストレッチした。


「……ちょっと休憩」


 愛莉は独り()ちながら本を閉じようとする。

 しかし伸びた腕を一旦止めて本の(しおり)を挟むだけにした。


 (ええっと……、本を完全に閉じない、だっけ? )


 愛莉が受け取った(れん)のスケジュール表に書かれていた注意点の一つである。


 ――休憩を挟む時は本を完全に閉じないこと。


 愛莉はそれを思い出し早速実行したのであった。


 愛莉は勉強が苦手だ。

 これはクラスの共通認識で彼女自身それを自覚している。

 だから初日からこうして(はげ)んでいる。


 (レンも手伝ってくれるから頑張らないとっ、ね! )


 席を立ち軽く体をストレッチ。

 脚を伸ばし、手で(つか)む。

 ヨガのようなポーズをとって愛莉は凝った体をほぐし、疲労を取っている。


 (れん)が彼女のサポートに回った事も彼女が励んでいる理由の一つになっている。

 励む理由としては(いささ)か不純だが彼女に追い風を送っているのは間違いない。


「よし! 」


 ストレッチも終わり再度机に向かう。

 彼女の目には半分ほど()められた暗記問題と解答がそこに書かれている。

 正解率は五十パーセントを少し下回ったくらいだろうか。

 彼女にしては驚異的な点数である。


 幾ら暗記問題とはいえ数時間でここまで出せるのは驚異的だ。

 確かに簾は暗記問題を解けるようにしてから他に移るとスケジュール表に書いてあったが、この回答率を見たら頬を引き(ひきつ)らせるだろう。


 彼女の地頭(じあたま)は悪くない。

 記憶力も良く、頭の回転も速い。

 今までスポーツに全力を出していた為「テスト結果」として現れなかっただけで。


 ペンを取り問題を解こうとする。

 が、挟まれた栞を発見した。

 (かす)かに彼女の表情が緩むもすぐに引き()め直し、栞を除けて、ペンを走らせた。


 ★


「――という感じになったよ」

『そうですか。それなら紹介した甲斐(かい)がありました』


 愛莉はスマホ越しで遠藤に礼を言っている。


 勉強を終え寝る準備をしたその時、愛莉は遠藤にきちんと礼を言っていなかったことに気が付いた。

 夜が遅いためか時々遠藤の(まぶた)が下がりかけている。

 逆に愛莉の瞳はギランギランとしていた。


 いつもならば他人の状態に気が付く愛莉だが、簾の事と(あい)まって暴走しかけており遠藤の雰囲気に気が付いていない。


「――でさでさ」

『わかりましたが、一つ聞いても良いでしょうか? 』

「なに? 」

『何故私に聞いたのですか? 』


 嬉々(きき)として口を開いていた愛莉の言葉が止まる。


『貴方のお友達にも成績優秀者はいたはず。効率を考えるのならば仲の良い友人に教えてもらう方が得策(とくさく)。しかし何故私に聞き、そして簾を選んだのですか? 』


 遠藤とて愛莉の恋愛感情に気が付いていないわけでは無い。

 だが簾に近付く者として彼女に確認しないといけなかった。


 ――愛莉()が簾を害する者かどうかを。


 遠藤が簾に恋愛感情があるわけでは無い。

 簾は、彼女の恋人佐々木友和(ともかず)を支えた友人。

 彼が傷つくのを見過ごすわけにはいかない。


 遠藤と佐々木は簾に恋人が出来ればと考えている。

 社交性の塊のような愛莉が頼みに来た時はチャンスだと思った。

 そして適材(てきざい)であるが故に簾を進めた。


 だがその一方で簾が傷つくようなことは望んでいない。


 遠藤は愛莉の人柄(ひとがら)を知っている。

 時々話していたし噂でも聞く。しかしそれは表面上だけの話。

 実際頻繁に話すようになったのはつい最近の事。

 故に再確認が必要だった。


 何故、——他の友人を差し置いて、遠藤に聞き簾を選んだのかを。


冴香(さやか)に聞いた理由? それはね――」


 愛莉から話されたのは簾との出会い。そして自分がどのくらい救われたのかという惚気(のろけ)のような話。

 それを聞き遠藤はホッとする。

 愛莉の目標に向かう姿も素晴らしいが、彼女の恋も応援しようと思う遠藤であった。

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アラフォー冒険者の田舎暮らし~元魔剣使いのセカンドライフ! ~
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