第23話 勉強教えて宇治原くん! 4 どこで勉強する?
「色々話し合いたい」
「付き合うのかい? 」
「真面目な話をしているからその口を閉じろトモ」
はいはい、と正面から聞こえるのを流しつつ愛莉に言った。
今は昼食後の昼休み。
愛莉が水筒からお茶を注いでいる時に俺は隣の彼女に聞いた。
はい、と渡されるお茶に「え? 」と驚きながらもそれを受け取り口をつける。
流れるような仕草で渡されたそれを違和感なく受け取り喉を潤す。
温かく美味しいお茶が喉を通りコトンと机を鳴らすと「はっ」と気付く。
「て、ほのぼのしている場合じゃなくてな」
「話し、だったよね」
「その通りだ」
愛莉に向いてどこでやるか聞こうとする。
しかし途中で「この話トモと遠藤さんの前でしていいのか? 」と思い言葉を飲み込む。
俺が口籠ったことに「どうしたの? 」と愛莉は聞いてくる。
特にやましい事じゃないが、彼女に関わることだ。慎重にやって損はない。
遠藤さんは愛莉が勉強することを知っているだろう。
しかしその目的までは知らない可能性がある。
最終的にはわかるだろうが、愛莉には愛莉の打ち明けるタイミングがあるだろうし、なにより俺の口から言うべきことではないと思う。
隣の愛莉を軽く手招く。
すると彼女が顔だけを寄せて「なに? 」と聞いてくる。
近寄る小さく綺麗な顔と仄かに香る良い匂いに鼻腔がくすぐられ顔が熱くなるのを感じる。
どんどんと近寄る整った顔に「慌ててる場合じゃない」と思いつつ彼女の耳に俺の口を近づけた。
熟年夫婦が訝しめにこちらを見るのがわかるが、何も言わずに見守っている。
それをチラリとみて「全くできた友達だよ」と心の中で感謝しながらも小声で聞いた。
「医学部のこと、あの二人に伝えたのか? 」
「あ……、まだだ」
「このまま話しても良いんだが、愛莉はどう? 」
「ん~別にやましいことじゃないし、このまま話しても良いと思う。というよりも良い機会だから二人にボクから話すよ」
助かる、と言い彼女の顔から俺の顔を離した。
二人だけの秘密だったとは。
けど今その秘密は現在進行形で四人の秘密になっていた。
少しの寂しさを覚えながらも「「おおー」」とトモと遠藤さんが小さく驚いているのが見える。
二人の反応はよくわかるが、それはそれで愛莉に失礼じゃないか?
いや俺も人の事を言えないが。
「事情は分かりました」
「でその上でのレン君の話って? 」
「色々あるが……まずは場所だ。どこで勉強する? 」
「あ~、確かに決めてなかったね」
あちゃぁ、とアクションしながら愛莉が言う。
すると愛莉の前に座る遠藤さんが小さく手を上げた。
「ならば図書館はどうでしょうか? 」
「それは良い」
「だけど学校の図書館だと時間制限がないか? 」
トモが恋人の提案に同意する。俺はトモに質問した。
「ならその後レンの部屋でやったらいいのでは? 」
「男の部屋に女子を入れるのは……」
「ボクに見せれないやましいものでもあるの? 」
「そういう訳じゃないが……」
危機感が薄い、と言いかけてやめる。
言った結果危機感を感じられたら俺が泣きそうだからだ。
「……言いたいことはわかったよ」
「トモ」
「けどそれは今更だと思うよ」
「それはどういうことだ? 」
「だって重原さん。この前一人でレン君の部屋に行ったから」
それを言われて硬直した。
続いて頭が回り出す。
確かに今更だ。
「重原さんが良いのなら僕達から言うことは特にないかな」
「そうですね。図書館で勉強してからマンションに行くも良し、宇治原さんの部屋でずっと勉強するも良しだと思います」
「なにより人によってやりやすい環境って違うからね。こればかりは重原さんの感覚に合わせないと」
トモが締め括る。
愛莉も大きく頷きどうするか考えている。
俺の部屋でやるのは良いが、俺が拒否しないのは全員共通の認識なのか?
確かに拒否はしないがそれはそれで俺の扱いが酷いような気もする。
それに危機感無く俺の部屋で勉強するとなると、愛莉が俺の事を異性と認識していないようで少し悲しいな。
「ここで一つ良いですか? 」
愛莉が悩み、俺が心の中で悲しんでいると、またもや遠藤さんが軽く手を上げた。
「勉強をするのはいいと思います。しかしながら私達だけで解決できる問題でもないと考えます。よって一度進路指導教員の先生の所へ相談しに行くことを提案します」
彼女の言葉に「ああ確かに」と思ったのは俺だけじゃないだろう。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




