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第21話 勉強教えて宇治原くん! 2

 教室を出て家路(いえじ)()く。

 俺と愛莉(あいり)は家の方向が同じだから同じ方向に帰ることとなる。

 何度か一緒に帰ったが今日の彼女はいつもと違う雰囲気だ。


「♪ 」


 少し前を行く愛莉はとても機嫌が良さそうだ。

 自意識過剰かもしれないが俺が勉強を教えることを了解したからだろう。

 けれど同時にそんなに嬉しい事かと疑問に思う。


 俺は勉強が日常に組み込まれているから苦にはならないが彼女は違う。

 つい数日まで運動部で陸上をしていた生粋(きっすい)のスポーツ選手だった。


 俺達はこの学校へ入学するために猛勉強したからわかるが、勉強は生活に組み込まれるほどにやらなければしんどい。

 少なくともスキップをするほどに心躍るものではない。


「なにがそんなに楽しいんだ? 」

「目標に向かって努力をすることだよ! 」


 愛莉は軽い足取りでクルリと回り俺に言う。

 努力することが楽しい、か。

 流石元運動部員。俺とはまた違う楽しみ方だ。


「目標は出来たのか? 」

「うん! 」

「早いな」

「部屋でね。自分に出来ることを考えてたら、こう~ポッとね」


 可愛らしく手を開かせて表現する。

 なんだそりゃ、と言いつつも先に進む。

 遅れて彼女が隣に来た。


「で勉強を教えてくれということは勉強が必要な目標な訳か」

「そういうこと」

「どんな目標か聞いても良いか? 」


 俺の言葉に頷く愛莉。


 勉強を教えることを了解したが彼女の目的・目標を知らなければどう勉強すれば良いのかわからない。

 女の子と一緒に勉強をする。

 この事に浮かれて気付かなかったが、もし俺の(あず)かりしらない分野ならかなりまずい。

 彼女の為きっぱりと断らなければならない可能性も出て来る。

 

「ボクはね」

「……」

「スポーツドクターになりたいんだ」


 固まる。


 さっきまでとは異なり大人びた表情できっぱりと言った愛莉。

 傾く太陽を背景に少し口角を上げてこちらをみる彼女はあどけなさが消えどこか妖艶(ようえん)にも見える。


 スポーツドクター。

 医師免許をもったスポーツの専門。

 

 なるほど。

 医学部に行くため勉強が必要ということか。

 同時に愛莉が何故スポーツドクターに行きついたのかわかる。


 彼女は元々陸上選手だったが、故障で再起不能となった。

 自分と同じ人を出したくないと考えたのだろう。

 それに加えて俺達の学校は進学校で、毎年医学部合格者を多く出している。

 どこまで考えているのかわからないが医学部を目指すに(てき)した高校は他にない。


 高く、そして故障者の痛みを知っている彼女ならではの目標だ。


「もちろんその難易度は分かってる」


 一歩彼女がこちらに近付く。

 彼女の覚悟に気圧されているのか、俺は動けない。


 真剣な表情。

 黒い瞳が俺を固定する。

 努力することが楽しいと言っていたが、遊びの意味ではなく本気で挑むその姿。


 真っ直ぐなその姿は強くて輝いていた。

 これが覚悟の差。

 彼女は陸上を止めてもまだ走り続けている、ということか。


 相対的に自分が小さく思える。


 ――普通に就職し普通に暮らす。


 確かにこれは(とうと)いものだ。

 しかし彼女のように輝きがあるだろうか?

 単なる頭でっかちの仮初(かりそめ)な目標に思えてくる。


 徐々に、ゆっくりと愛莉が近づいて来るのが見える。

 輝きが強くなる一方で俺には影が落ちる。


 ――ダメだな。


 こんなにも輝いている人が俺を頼ってくれたんだ。

 ならば全力で応援するに限る。

 努力が(むく)われるとは限らないが、報われるべきだと思うし。


 幸いなことにこれでも成績優秀者。

 彼女の運命を変える重要な役割だが彼女の期待に(こた)えるべきだ。


「わかった。全力で、教えるよ」


 愛莉は手を後ろで組んだまま立ち止まり俺の言葉にはにかんだ。

ここまで如何だったでしょうか?


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