第19話 重原愛莉は悩み、進む
「できること、か」
愛莉は青いパジャマを着て勉強机に向かって一人唸っていた。
日に日に秋っぽくなっているせいか悩む彼女の服は長い。
何か装飾がされているわけでもないシンプルな青の組み合わせ。
しかしそれを他の人がみるとかえって親しみやすさを感じるだろう。
彼女の目線が机の上にあるスマホに移るが、愛莉はすぐに白いノートに戻した。
(今日聞いた所じゃん)
もう少しアドバイスを、と考えるもやめる。
簾は愛莉に頼られ不快に思うことは無いだろう。それどころか飛び上がって喜ぶかもしれない。
だが愛莉の中では「頼り過ぎるのも」という考えが頭を過った。
彼女としては自分で掴み、そして達成したい。そう考えていた。
愛莉にとって目標は自分が設定するもの。そして成果は自力で得る物である。
彼女の部活動生活には様々な人の助けがあり彼女を支えていた。彼女もそれを自覚しており、感謝している。
だが根本的に真面目な彼女は「自分で何とかしないといけない」と言う思いが強い。
今までの彼女の目標は「陸上で全国へ行くこと」だった。
それを失った彼女は、——料理を学んではいるものの、どこか虚無感を感じていた。
それで自然とでた言葉が「やりたいことがない」であった。
「レンと一緒に……」
ここ数日愛莉の頭の中は簾でいっぱいだった。
満たされ、そして彼の役に立ちたいと思った。
助けられたこともそうであるが、時々見せる隙のようなものも彼女の心を揺さぶり自然と好意を向けるようになった。
簾とは異なり愛莉はこの感情に気が付いている。
この先隣に彼がいることを想像するだけで彼女の顔は真っ赤になる。
同時にそれだけでは物足りないとも感じている訳で。
愛莉なりに目標を持ち、簾と共に歩みたいとも考えた。
簾からすれば「そんな大袈裟な」と思うだろうが愛莉は至って本気。
彼女の簾に対する恋愛感情云々を除いても、彼女にとって「達成すべき目標」というのは「生きること」と同義。
よって「達成すべき目標」を持ち「努力すること」はライフスタイルの一環である。
ん~、と腕を伸ばしながら椅子に体を預ける。
回転する椅子でくるりと回ると彼女の目に自分の部屋が映った。
(見事なまでに何もないね)
女の子にしては無骨な部屋。大きめな本棚には多くのスポーツ誌と僅かな参考資料。
とてもじゃないが華の女子高校生の本棚には見えない。
本棚からさらに目線を移すとトレーニング用の道具がちらほらある。
小さなダンベルに腹筋ローラー。
寂し気な目線でそれらを見つつも、またくるりと遊ぶように椅子を回転させる。
そして――。
「あ! 」
彼女は目標を思いつく。しかし同時にその困難さを知る。
けれどその目標は彼女にとって挑戦する価値のあるもので、簾の隣を歩くには十分な目標だと彼女は考えた。
しばらく、考える。
高い目標ほど燃え上がる彼女だが今回は躊躇するほどの難易度。
クルクルと椅子を回して考えるも決心がつかない。
今は高校一年生の秋。
(今から間に合うかな)
むむむ、と考えるも答えは出ない。
普通ならば小学校や中学校の時から目指して備えるものだからだ。
それに愛莉はスポーツ推薦で高校に入ったため学力は高くない。
最下位位ではないにしても下位に属する。
それに——。
(これ、お母さんとお父さんに負担かけちゃうな)
金銭的な問題もあった。
努力をするだけならまだいい。
しかし結果がついてきてしまった場合、両親に多大な迷惑をかけてしまうのではと愛莉は心配した。
そうでなくても故障の一件でかなりの迷惑をかけている。
もうこれ以上迷惑をかけたくないと思うのは自然なことだろう。
メリットとデメリット。
今回は慎重に考える。
奇しくもこの考え方は簾のものそのもので。
後悔しない選択をと熟考し、そして愛莉は部屋を出て一階へ行く。
「お母さん! 」
「なぁに? 」
「ボク、スポーツドクターになりたい!!! 」
重原愛莉は再度、前を向く。
ここまで如何だったでしょうか?
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