第17話 宇治原くん、初めて四人で昼ご飯を食べる
朝の授業を終えて俺達は机を寄せ合った。今日は食堂ではなく教室で食事だ。
時々トモが借りている机をくっつけても机が一つ足りない。
なので他でグループを作っているクラスメイトに一言入れて机を借りくっつけて島を作る。
いつもと同じメンバーに加えて愛莉も一緒にご飯を食べるのだ。
「同じ弁当なんだね」
「まぁ」
「私が作っていますので」
愛莉が島の上に広がるトモと遠藤さんの弁当の中身をみて指摘した。
それを聞きトモは少し恥ずかしいような仕草を、遠藤さんは「当然」と言った表情で返した。
いつもはこの二人に加えた俺の三人で食べている。
当然の如く一緒の弁当を食べていたので、愛莉が指摘するまで俺も違和感がなかった。
慣れって怖いな。
「……良いな」
愛莉がポツリと呟いたのが聞こえてきた。
チラリと彼女を見るとぼーっと羨ましそうに見ている。
そこまで羨ましいものか?
弁当が同じというだけで他のクラスメイトに茶化されたり冷ややかな目線で見られるから、良い事だけではないと思うのだが。
いやもしかしたら女子の一般的な感性なのかもしれない。
ならば俺がわからなくても当然、か。
しかし愛莉が他の人に弁当を渡している所を想像すると複雑な感情がこみ上げてくる。
話すようになって数日というのにこのありさま。
多分昨日の看病イベントをきっかけに特別感を感じるようになったせいだろう。
重くて狭量だな、と心の中で呟き溜息をつく。
「どうしたの? 」
隣の愛莉が顔を近づけくるっとした瞳で覗いてくる。
いやなんでもない、と答えると正面に座るトモが言う。
「わかった。冴香ちゃんが作った僕の弁当が羨ましいんだろう? 」
「何故そうなる」
「冴香ちゃんの料理がおいしいから」
「……ありがとうございます」
「さらっと惚気るな」
隙を見せると惚気始める二人に釘を刺す。
二人は箸を進ませ、俺は弁当箱を取り出した。
「自分で作ってきたの? 」
「一応な」
「むむむ……。ボクがまず超えるべき相手はお母さんじゃなくてレンだったか」
「期待してる」
「任せ給え」
「なにか勝負でもしているの? 」
弁当箱を取り出しつつ胸を張る愛莉にトモが聞く。
「勝負じゃないよ」
「? 」
「レンに料理を作ってあげると約束したんだ。作るなら、「今まで食べた中で一番美味しい」と言わせたいじゃない? 」
「なるほど」
「それわかります」
その言葉に顔が沸騰する。
目線を下げてサクサクと料理を口に運ぶ。
女の子二人が話しているのが聞こえてくるが、彼氏をもつ遠藤さんは愛莉の言葉を全肯定。
人に食事を作る女子としては共感するところが多いのだろう。
しかしながらその恩恵に預かれるのはなんとも幸運な事か。
もしかしたらこの弁当箱も色が変わっていくのかもしれない。
そう思うと更に意識してしまい箸のスピードを速めた。
「僕に礼をいっても良いんだよ? 」
「ぬかせドッキリ仕掛け人」
「でもいい思いが出来たじゃないか」
トモの言う通り彼のおかげで良い縁が繋がれたと思う。
本来ならば彼にお礼を言うべきだろう。
だが素直に褒めると絡みが激しくなるのがわかっているし、次に何を仕掛けて来るのかわからない。
無駄に良い頭をフル回転させておちょくりにくることがわかっているので、軽くあしらいながら箸を進める。
女子二人は話すことが終わったのか少しトーンが下がった。
いつの間にか隣に座っている愛莉を見ると彼女が弁当を広げていた。
「美味そうだな」
「ボクもそう思うよ」
「? 」
何か含みのある言い方に聞こえる。
俺が心の中で疑問に思っていると愛莉が付け加えた。
「今までは、さ。どちらかというと栄養価重視だったから味気なかったんだよね」
「例えば? 」
「ご飯にささみ。ささみとささみと野菜とか? 」
「ささみ率がすげぇ」
「ま、冗談だけど」
「冗談かよ」
俺がツッコむと愛莉はクスリと笑った。
「けど今日のお弁当が今までよりも美味しそうに見えるのは本当だよ」
箸を持ち軽く俺の方を向いてコテリと首を横に傾け笑顔で言う。
本当に幸せそうな顔をするな。
ここまで如何だったでしょうか?
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