第15話 宇治原くん、初めて一緒に登校する 1
ピピピピピ!!!!
スマホのアラームが頭に響く。
すぐに止め痛い耳を抑えながらベッドから降りた。
「んんん~! 治った」
腕を伸ばしスマホを見る。
まだ朝の五時。昨日寝過ぎたようだ。
どう時間を潰すか考えつつも、一先ず服を着替えてキッチンへ。
一体となっているリビングのカーテンを開けて陽の光を入れた。
晴れやかな気分になりながらも移動をして朝食の準備を。
スクランブルエッグを作り、温かくも硬くなったご飯をよそい食事をとる。
茶碗を水に浸し、かなり早いが――学校に行くための準備に取り掛かった。
「そう言えば今日風邪が治らなかったら愛莉が看病に来てくれるんだったな」
独り言ちて、顔が熱くなるのを感じた。
正直、もったいないと思う。
二日続けての看病イベント。思春期男子高校生なら誰もが羨ましがるシチュエーションだろう。
このイベントの発起人であるトモには感謝しているが、巻き込まれる愛莉が可哀そうだ。
幾ら家が正面とはいえ負担は大きいと思う。
確かに俺としては二日続けて来てくれるのは嬉しいが、昨日チャーハンを所望した俺が言うのは何だが――彼女に負担をかすのは本意ではない。
結局の所、今日俺の風邪が治ったのは良かったと思う。
学校に行く準備をし、何かと考えているともう時間になった。
時間がある時に限って何故こんなにも時間が過ぎるのが早いのか疑問に思いながらも俺は家の鍵を閉めた。
★
完全に昇りきった太陽の元、俺はマンションのエントランスを出る。
日を増すごとに暑さが去っていくのを感じ、少しぶるっと体を震わせる。
俺が住んでいるマンションの近くには幾つか他のマンションがある。
そこから社会人と思しき人がスーツを着て駅方面に向かっているのを見つつ、正面にある家をみた。
特に大きいわけでは無い。しかし自然と目が引き寄せられてしまった。
この家は愛莉の家、いや重原家の家だ。
何故今までクラスメイトの家に気づかなかったのだろうか、と首を傾げる。加えてこんなにも近いのに行き帰りで顔を見たことが無いのも不思議だ。
いくら練習が忙しかったとはいえこの一年、あれほどに目立つ人を見かけたことがないというのもおかしなことである。
ま、それほどまでにお互い興味が無かったのだろうと勝手に結論付けて学校へ足を向ける。
動き出そうとした瞬間、隣から声が聞こえて来た。
「おはようレン! 」
「おはよう。愛莉」
愛莉が大きな声で挨拶し手を振って来た。
俺の隣まで来ると俺は歩き出す。
愛莉の眩しい朝の笑顔を見ると急に昨日の事がフラッシュバックした。
真っすぐな黒い瞳に分かるほどの息遣い。
「顔が赤いけど大丈夫?! 」
「大丈夫、大丈夫」
「本当に? 無理してない? 今ならまだ間に合うよ? 」
「本当に大丈夫だから」
隣からグイグイくる愛莉から顔を逸らして返事をする。
また雑に返してしまったと反省しながらも足を進める。
さっきまでは僅かな涼しさを感じていたのに体中が熱くなった。
だがそれは俺だけのようで愛莉は何とも思っていないようだ。
愛莉の行動に「意識しているのは俺だけか」と心の中で溜息をつきながらも学校への道を行く。
「そういえばこんなに家が近かったんだな」
少し強引に話を切り替える。
切り替えなければ本当に休まされるかもしれないからだ。
「冴香と佐々木君に聞いた時はボクも吃驚したよ」
「よく今まで会わなかったな」
「ボクは朝練があったしね。それに夜も遅かったし」
「そんなにも運動部は忙しいのか」
「ボク達の高校はそれなりに強豪だからね。ボク達がこの道で顔を合したことが無いのは仕方ないよ」
「そうだな」
「でもこれからは一緒に歩けるね」
愛莉は向日葵のような笑顔で言う。
俺もつられて顔が緩む。
すぐに表情を戻して少し足を早める。
「どうしたの? 照れてる? 」
「う、うるさい」
その後彼女に茶化されながら、俺は学校まで歩いた。
ここまで如何だったでしょうか?
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