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第10話 重原愛莉の一日

 (れん)と別れた愛莉(あいり)は「ただいま」と声をかけて家に帰った。

 立ったまま(くつ)を脱ぎ、家に上がろうとすると奥からタタタと彼女の耳に届く。


「お帰り」

「あれ? お母さん今日病院じゃなかったの? 」

「今日は休んだわよ。お父さんも」


 愛莉は昨日の出来事が両親に負担をかけたのだろうとすぐに(かん)づき、表情を暗くした。


「そんな暗い顔をしないの」

「うん」

「でも、あれ? 目が赤いようだけど……」

「こ、これは……、その……」


 愛莉は母の指摘に目をキョロキョロさせる。

 どこか誤魔化すように「なんでもない」と言い母の隣を通り過ぎる。

 母の「ご飯が出来てるわよ」という声を背にして部屋に戻った。


 ★


「……美味しい」


 愛莉からこぼれた感想に少し微笑みながらも「あらそう? 」とだけ言う母。


「母さんのご飯だからな。美味しいに決まっている」

「全くお世辞が上手いですね」

「胃袋を(つか)まれた俺が言うんだ。お世辞じゃないさ」


 いきなり惚気(のろけ)だす二人を見てクスリと笑う愛莉。

 愛莉の声で二人っきりの世界から戻って来た両親は赤くなり、コホンと軽く咳払い。

 そんな二人を愛莉は微笑ましく見た。


 (お父さんとお母さんってこんなに仲がよかったんだ)


 彼女がそう思うのも無理はない。

 二人とも仕事で顔を合わせることが少なく、また愛莉も毎日遅くまで部活をしていたのだから。

 こうして団欒(だんらん)すること自体久しぶりである。


 愛莉は(はし)を動かし口に入れる。シャキシャキと音を立てゴクリと(のど)を通過した。


 (野菜一つがこんなに美味しいなんて)


 今まで彼女は選手用メニューを食べていた。

 無論味も考慮されているのだがどこか無機質感が(いな)めなかった。

 しかし愛莉はまるで食べたことのない美味しさを感じていた。

 いつもと同じ母の料理のはずなのに。


「ねぇお母さん」

「なにかしら? 」

「料理……、教えてくれない? 」


 母はその言葉に目を見開いて驚きを(あらわ)にする。

 逆に父は少し固まった。


「えぇえぇ、良いわよ」

「お、男……、なのか……。まさか男なのか?! 」


 硬直が解けた父が絶望に打ちひしがれながら愛莉に聞く。

 しかし興奮した母が父を黙らせ料理を教える約束をした。


 ★


 ((いや)される……)


 湯船(ゆぶね)()かった愛莉は思う。


 一人分にしては少し大きな湯舟(ゆぶね)に脚を伸ばして天井を見る。

 湯煙(ゆけむり)が立ち昇り(しずく)が反射する中、ぼーっとする。

 眠気のようなものが彼女を襲うが、「いけない」と意識を戻して脚を出す。


 水面から出た肌麦色の脚には傷跡がある。

 それを見て愛莉は少し顔を(ゆが)めるが、すぐに戻る。

 脚をちゃぷんと戻して保護したスマホを手に取った。


「レンと連絡先を交換できたし」


 スマホをスワイプし連絡先を(なが)める愛莉。


 彼女が簾と連絡先を交換したのは何か役に立てないかと思ったため。

 料理に関しても一人暮らしをしている(れん)の手助けが出来ないかと思ったため。

 にやける顔は恋する乙女(おとめ)のそれそのもの。

 実際愛莉は自身の気持ちの変化に気が付いているが、「あの時の恩を返すため」と理由をつけて誤魔化している。


 眺めている間にぼーっとしていた。

 指がすべり、——通話音が鳴る。

 瞬時に「まずい」と思うも電話が取られる。


『どうし………………たぁぁ?! 』

「ちょ、ごめん。間違えちゃった。切るね! 」


 ピロンと音が鳴りテレビ電話が切られる。

 顔を赤くしてちゃんときれているか念入りに調べる。

 大丈夫なことを確認した愛莉は風呂を出た。


 その日の晩。

 ある意味事故に巻き込まれた(れん)はもんもんとした夜を迎えることになる。

 薄くも健康そうな肌をしている愛莉の体は思春期高校生には刺激が強すぎたようだ。

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