回想 「転」
「おい!扉のロックは解除した!警備は既に無効化している!今のうちに出るんだ!」
ん?揺れがひどい。また、怪物でも脱走したのか?
「…どうして誰も出て来ないんだ……おい!今がチャンスなんだぞ!」
「いたぞ!殺してもいい!絶対逃がすな!」
いや、この小刻みな振動……逃亡者か。ここの警備がそう簡単に無効化できないのを知ってるくせに、よくそんな無謀なことができるな。
「くそ……あと、解除していない扉は…あそこか…!」
ああ、揺れが大きくなってきた。檻はしっかりしてる割に、建物がもろいのはなんなんだろう。
考察を続ける少女に一筋の光が差す。
「すまない…でも、お前だけは…!」
暗闇に座っていた少女の手を誰かが力強く掴む。
え?
あまりに突然の出来事に少女の思考は止まった。
いつもなら次に来るのは地面に体を打ち付ける衝撃。毎度のことで慣れているといっても、それは防御姿勢をとれているから。この退屈な暗闇に光が差した瞬間にその準備はしていた。
しかし、今、少女を掴んだ手はスルッと少女を持ち上げ、その勢いで少女の膝裏と背中を抱えた。つまり、お姫様抱っこをされている。
その時の少女には本当にこの状況が理解できなかった。
ただ、初めて見たその人の顔を忘れてはならないと思った。
悔しいのをごまかすような笑顔を彼は少女に見せたのだった。