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一足早い秋の味覚の生活模様

作者: タカヒロ

批評お願いします。

俺はマツタケ。漢字で書くと松茸。秋を代表する食べ物のマツタケ。香りが良いマツタケ。そして全く個性のないマツタケ。




秋になったらどのくらいの人がここに来るんだろうね。松茸ココミがしゃべりかける。


松茸ココミはとても美しく、香りも良い。きっと将来は金持ちの家に食べられるのだろう。最高級松茸として。


「お前はきっと食べてくれる人がいるからいいよな。」


俺は少しいじわるな返しをした。しかしこの意図に気づかないココミは満面の笑みでこちらを向く。ここまで能天気な松茸はいいもんだ。





俺はマツタケ


お前は食べてくれる人いないんじゃね。だって個性がないじゃん。松茸ユウトが棘を刺してくる。


松茸ユウトもココミと同じでバランスの良い松茸だ。スラリとした印象で筋肉もいい感じについているユウトはみんなの憧れだ。


「お前も食べ手が確約されているからいいよな。」


「ああ、もちろんだ。しかし、お前のような個性のない松茸は売るにも値段設定が難しく売れ残る廃棄松茸になる運命だからな。」


悔しさと自分の不甲斐なさで口の中がキノコ味から変わってしまいそうだ。個性のない俺は誰の口にも入らず生ゴミとして処分されてしまう。そんなことわかっている。でも誰かに食べてもらいたい。





俺はマツタケ


あたりの葉っぱは紅色に変わる。木から落ちる葉が頭に乗る。ずっとこのままでいたい。ずっとここで隠れていれば一人でそっと腐っていける。誰にも食べられずに捨てられる惨めな思いもしなくていい。


葉っぱを被っていると、横から突かれた。葉が風で取れると俺の前には俺と似た松茸がいた。特別美味しそうなわけではなく、不味そうなわけでもない。香りもしないわけではないが、いい香りとは言えない。俺とそっくりだ。俺はこの松茸に悩みを打ち明けた。すると彼はしばらく考えてこう言った。


「君はどんな松茸になりたいんだ。」




俺はマツタケ


彼の言ったどんな松茸になりたいんだという言葉は俺を悩ませている。今まで個性がないと言われ続けて俺には個性がないと決めつけてこれからの松茸ライフを閉ざしていた。


松茸の最終的な目標はよりいいところに食べてもらうことだ。いいところで食べてもらえば扱いは必然的によくなり、大事に食べてくれる。


逆に一般家庭だと保存の仕方や調理方法がわかっていない場合が多く、美味しく食べてもらうことができない。俺はずっと忘れていた。「美味しく食べてもらう」この松茸としての本能を。そして今思い出せた。俺は誰かに食べてもらいたい。




俺はマツタケ


突然だった。その日は雲が広がり、今にも雨が降りそうな天気だった。周りの松茸は刈り取られ今頃は胃袋に入っている頃だろうか。


俺は虚しく葉をかぶって雨をしのごうとした。その途端俺の体は地上から引き剥がされ、宙を舞った。大きな手にぎゅっと包まれて俺は育ったところから離れた。


そこを去る直前、俺の隣にはあの個性がない松茸が被っていた葉を退けておいしくなれよと言った。その言葉を聞いて俺は目からきのこ汁が出た。そしてありがとうと彼に言った。




俺はマツタケ


俺は松茸。今調理されている松茸。丁寧に下処理をされてフライパンで焼かれる松茸。


リビングには俺を待つ子供がいる。その子たちを見て笑顔になる父もいる。こんな立派な家庭に食べられるのはとても気持ちがいい。




俺はマツタケ


俺は松茸。今口に運ばれている松茸。この世界からいなくなる松茸。個性がなかった松茸。でも美味しく食べてもらう松茸


「この松茸。香りや形は普通だけど、味は天下一品ね。」


俺は個性がないようであったマツタケ

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