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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
3章 『憎炎』
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12話 『氷姫』


 怪物の何も通さない硬い外皮と女戦士の洗練された剣が衝突音を生み出す。

目の前は赤く濁り、視界はぼやけている。それでもヴェティは決して攻撃を緩めることをしない。間髪なく繰り出される攻撃はその怪物には届かない。それでも剣を振り続ける。

一撃目をはじかれ、攻撃に転じる相手の斬撃をギリギリで避ける。身体を回転させ二の手を繰り出される。彼女自身の力に遠心力が加えられたその威力は一撃目をはるかに凌ぐ。あまりに威力にたえられんと言わんばかりに刃こぼれしたその剣を氷で覆い、新たな刃を形成する。

 三手、四手と繰り出される攻撃は次第に威力を増していく。相手の攻撃を避けることで、回転を生み出しているその攻撃はまるで「カルナの技」だった。

 B級戦士から繰り出される「カルナの技」はカルナとはまた別の次元の技である。キレ、攻撃の精度、威力、何をとっても別次元の技であった。

 そこに魔法を組み合わせる。大技ともいえる『氷結』を繰り出したその直後でありながら、凄まじい数の氷を作り出していた。相手を完全に凍らせるには至らないまでも攻撃した箇所を瞬時に凍らせ、それを壊す隙にまた攻撃した。

 そうまでしてやっと、互角と言える。B級戦士が血を流し、魔法を駆使して初めて同じステージへと至れるほどの相手。


 一手でも間違えれば、命を落とすほどの戦い。


 その戦いの中で彼女は笑っていた。

 それは彼女がラルウァたちの前で見せた初めての笑み。

 それは余裕の笑みでも、嬉しさからくる笑みでもなかった。笑っていなければ、苦しそうな顔をすればきっと彼女の心は折れてしまう。目の前の底知れぬ相手に対する恐怖に対する生存本能であった。

 

 私はまだ死ねないのだ。

 私が殺した姉が救えた人々を助けなければ、それだけの命を生かさなければ、私が生きる意味などこの世にはないのだ。姉が助けるはずだった人々を助けることだけが私がここに身を置き続ける唯一の理由なのだ。

 

強くなりたいんじゃない。

 強くならなければならないのだ。

 

 これはカルナのような綺麗な夢ではない。意志ではない。

 義務だ。責任だ。

 私に課せられた十字架なのだ。


 相手の閃光のような攻撃が頬を掠める。際限なく繰り出す攻撃と魔法についていけなくなったのは心ではなく、身体であった。

 思うように動かない。意志のままに動かない。

 剣を両手で握り、あらん限りの力で思い切り殴りつける。硬い外皮はそれでも割れることはなかった。だが、彼女の身体はその反動で後ろ方向へと飛ばされ、対象との間に一定の距離が空く。

 彼女の本気と、怪物が対峙して初めてできた、彼女が作りだした間であった。魔法による爆発音と剣と外皮がぶつかる金属音が消え去り、彼女の息づかいだけが聞こえる。


 その静寂の中でそれは笑った。

 怪物が何を想い、何を考えているのかはわからない。

 だが、その捕食するためだけの口がほんの少しだけ開き、口角が上がる。まるで悪魔のような笑みであった。

 背筋が凍る。身体は硬直し、足は震える。こいつは、これは―


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 固まった身体を無理やり動かすように思い切り叫ぶ。

 

 折れるな。駄目だ。私は倒さなければならないのだ。ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 

 そう自分の言い聞かせても、その目の前に対峙する恐怖に身体の自由を奪われる。

 その恐怖が彼女を駆り立てた。


(ひょう)の花 (ひょう)の結末 』


 ヴェティは詠唱を開始する。


『炎舞を越えし永遠の(ひょう) 龍炎を越えし極地の(ひょう) 』


 それはヴェティが『氷の姫』と呼ばれる所以。


()の楔はわが身を縛り 騎士と為す』


 魔力が足りない。不完全な詠唱はその力の半身を露わにする。


氷姫(アイシーン)


 その名が彼女の口から発せられた瞬間彼女の背後から姿を現す一体の化身。氷で作られた巨兵はまさに「氷姫」を守らんとする騎士(ナイト)であった。

 



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