11話 『彼女の瞳は赤く』
彼女もまた一流。
『リング・アーグア』と唱えられた瞬間青く光りだし、傷ついたものを癒している。
リュールを安全な(と言い切れるかは分からないが)場所に運び、魔法でラルウァの治療を行っていた彼女は心の中でそう呟いた。
いままで見てきた彼女は冷酷でありながら、どこか美しかった。
その美しさを捨て、全力の彼女はこれほどまでなのだ。きっと私は彼女の力の一端しか知らない。リュールにしても、ラルウァにしてもそうであった。
切り札は取っておくものだとはよくいうものであるが、それはそれ相応の力があるときのみ。彼ら、彼女らはきっとその域に達している。
そして、その中で彼女は別格であった。
「凄まじいな…」
それを見ていたラルウァも同じことを思っていたのだろうか。そう一言呟く。
「B級と…、C級とB級の間にこれほどの差があるとは思わなかった」
きっと彼は私なんかよりもずっとその差を思い知っている。遠すぎては分からない。その近くにいるからこそ実感してしまう本当の差。
彼女の息づかいだけが聞こえる。倒したと思われるほどの攻撃を繰り出してなお彼女は剣をおさめることはことをしなかった。
それはそれがまだ「器」でしかなかったとき、彼女の氷を突き破ったように、これもまた突き破る可能性があることを彼女は予感していたからであった。
その予感が的中するようにその氷壁の奥で動くものがある。
つまりヴェティは理解っていたのだ。それがそれほどの相手であると。もちろんヴェティは次の一手を用意していた。相手が攻撃し、どう攻撃するか。そこまで見通していた。
だから、その瞬間、彼女の身体に衝撃が走ったのは完全に想定外だった。全身を巡る二度の衝撃。一度は体当たりともいえるただスピードを乗せただけの攻撃から下されるもの。もう一度はその体当たりによって引き飛ばされた身体が近くの壁にぶつかったものであった。
なんとか立ち上がる彼女をさらなる攻撃が襲う。血を流すヴェティにそれはさらなる攻撃を繰り出す。やられたものを返すようにその爪から放たれる無数の斬撃が彼女を襲う。
すんでのところで防ぐが、その次の攻撃が防ぐことができない方向から飛んでくる。
何度、切り刻まれてたか、分からない。
全身から血を流し、もはや剣を振る気力すらなく立っているのがやっとであった。
それでも止まない攻撃。
最後だと思われる、明らかに命を奪う意図で発せられた攻撃が彼女を襲う。それを防いだのはラルウァであった。その攻撃により木刀は真っ二つになる。
思わぬところから姿を現したもう一筋の刃に不意を突かれたそれは一瞬動きを止める
そのわずかな合間に作り出された「闇」が動きを封じる。ラルウァは彼女を担ぎ距離をとる。
シレーヌの回復魔法である程度動けるようになったがそれでもあいつと正面をきるには足りない。
態勢を立て直すために距離をとったものの考えはまるでなかった。
あれほどの攻撃を受けて無傷な敵をどう倒す?
速度、威力、防御のどれをとってもまさに「怪物」。
考えろ。思考を放棄するな。なにかある。突破口があるはずだ。
見つからない。わからない。
混乱と困惑でいっぱいになったラルウァの思考を止めたのは紛れもなくヴェティであった。耳を疑った。
弱々しく、かすれた声で発せられた一言。見るからに瀕死寸前の彼女から発せられた一言は諦めでも、弱音でもなく、はたまた逆転の突破口を切り開くものでもなかった。
「私が倒す…。お前は手を出すな」
自暴自棄にも感じられる一言であったが彼女が冗談でもなく、本気で言っているのだと理解するのはそう難しいことではなかった。
彼女の赤い瞳は、悔しさと憎悪で燃えていた。




