10話 『不敵な笑みのその中で』
リュールが気を失い倒れている。
ラルウァが這いつくばりながら睨みを利かしている。
その視線の先にはまさしく「怪物」が立ちはだかっていた。
「シレーヌ。リュールを連れていけ」
今まさに村人の避難、手当を終え、フラフラな状態のシレーヌが近づいてくる。
「でも―」
私も戦います、とでもいうのだろうか。そんなことはさせない。させられない。
「いいからいけ。その後はラルウァだ。お前にできることをしろ」
その一言だけできっとシレーヌは自分の役割、そしてヴェティの覚悟を理解する。彼女の視線はすでにモンスターの方を向いている。
その思考の中でどれだけ攻撃を受けたか。どれだけ攻撃を入れたか。どれだけ魔法を打ったか。どれだけ殺られたか。
一筋の汗が彼女の頬を渡り落ちる。
勝ち筋が見えない。
どう攻撃しようと、相手がどう攻撃してこようと最後に待つのは疑いようのない「死」だった。
巨大蟻のように見え、それとは一線を画す存在感。
その咆哮は衝撃を生む。鍛え上げられていなければ、神の恩恵がなければ立っていられないほどの衝撃。
先ほどのものと見た目はたいして変わってはいないがそれでも全く違う生き物であるのではないかと疑いたくなるほどの不気味で凶暴な形相。
それでもやるしかないのだ。
この場に戦えるものは私しかいない。
先に動いたのはヴェティであった。その存在に恐怖しながらも、全力の一手で攻め入る。B級戦士の全力の疾走によって一瞬でそのものとの距離がゼロになる。
そして手始めの一撃。全身全霊の一撃。その外皮は硬く、いとも簡単にはじかれる。その硬さを自覚しているのかそれは避けることもしなかった。
それに気づかないヴェティが気付かないわけがない。
(私の攻撃など避けるまでもないと…)
「あぁいいよ、お前。面白い」
自然とヴェティの口角が上がる。その場にいる誰もが戦慄するほど不敵な笑み。
彼女の周りが凍り始める。抑えきれんと言わんばかりに彼女から発せられる魔力が冷気となって周囲を覆う。
「さぁ。殺り合おうか!」
完全にハイになっているとしか思えないほどに彼女は大声を上げた。普段の冷酷で冷静な姿からは想像もできないほどの豹変ぶり。
そこから繰り出される剣筋は今までとは全く異なるものであった。
鮮麗さも、繊細さも、何もない。それでいて威力は別格だった。彼女が、彼女の戦いの中で身につけた、泥臭く、執念深く、汚らしい、それでいて勇ましい彼女の戦闘スタイルだった。
その攻撃に魔法が加わる。『氷結』と叫ばれた彼女から放たれた一閃は恐らく数キロ離れていようと視覚できうるほどの氷壁ともいえる氷を具現化する。
その中心にいたそれは言うまでもなく氷漬けとなった。




