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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
3章 『憎炎』
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6話 『混沌』



 ラルウァがそれに気が付いたのは偶然だった。

 そこに敢えて理由をつけるなら、戦いの中に常に身を置いてきたであろう彼の研ぎ澄まされた勘であった。

 何か、いる。

 はじめはそれほどの違和感。我々に対する殺意も、敵意すらも感じない。だが、確実に存在しているという、抑えきれなく漏れ出したその感情が、沸々とため込まれた怒りが彼の背中を凍らせた。

 その数秒後、同じくC級に属するリュールが何かに気が付く。

 そして、さらに数秒後、E級であるシレーヌが気が付くほど、その存在は禍々しいオーラを放つ。

 その瞬間にはラルウァの目はその存在を確実に捉えていた。

 その姿はとても生物とは言い難かった。ただ黒い核であった。手も、足も、顔も存在しない。ただ黒い物体が宙に浮いている。

 ただ、それだけであった。

 攻撃の意志もない。こちらに敵意もない。そのはずであるのに、神の恩恵を受けた彼らの身体は硬直し、その存在に震えるしかなかった。


 それは、未知に対する恐怖か。否。

 それは、そのあまりの不気味さに対する恐怖か。否。


 人間という種が絶対に越えられないであろう存在の違いに対する畏怖であった。

 村人には、神の恩恵を得ていないであろう者には認識しえないだろうそれはただ彷徨うようにして村を徘徊し始める。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 先ほどまでシレーヌと戯れていた子供が冷や汗をかき、急に震えはじめたシレーヌの様子の変化を問いただす。


「あぁ、ごめんね。何でもないよ」


 当然のように認識していた彼らがその一連のやり取りで、村人たちが、いままさに隣にいるであろうその禍々しい存在を認識していないことを感じ取る。

 そして、彼らの頭には全く同じ言葉が浮かぶ。


 気付かれてはいけない。


 知らないのなら、認識できないのなら知らない方がいい。あれは生身の人間が関わっていいものではない。

 そう感じ取った彼らは何もないように日常に戻る。


 その均衡が崩れたのは、それが村を抜け、山の方へ向かおうと動き始めた時だった。

 

 なぜかと問われたらわからないと答えるしかない。

 戦士としての勘か。場数が生んだ嗅覚か。


 瞬間、ラルウァと、リュールの身体は反射的に動いていた。鍛え上げられた脚力で出せるだけのスピードで、剣を抜き取り、切りかかる。

 だが、全力で振りかざしたであろう攻撃でさえ、傷一つ付かなかった。そして、それが悪手であることを感じ取るのは時間を要しなかった。


 条件を満たしたと言わんばかりにその場全体に広がる禍々しいオーラ。もはや一般人にも認識しうるほどの、いや、一般人には過剰と言わんばかりの禍々しさでその場が満たされる。

 神の恩恵を受けた彼らでさえ臆するほどの不気味さ。気絶するように倒れる村人が現れ、子供は泣きだした。

 いままで広がっていた、取り戻された日常はもうそこにはなく、混沌だけが広がっている。


どうする⁉何が正解だ⁉


 ラルウァはそれだけを考えていた。誰よりもはやくそれを認識した彼の勘は決してそれが山に向かうことを拒否している。

 だが、できるか?

 いや、これはただの勘だ。これが村を離れるならそれで―


 刹那、山の奥から魔法の使用を感じ取る。神の力に敏感であったラルウァであるからこそ感じ取れるほどの魔力の流れ。彼の脳裏に一つの推測が浮かぶ。


 あの山でここまで感じ取れるほどの魔法の使用があったということは十中八九彼女であることは間違いない。

 B級の彼女が魔法の形跡をたどられるほどの魔法を使うほどの相手。そしてこの異常事態(イレギュラー)。偶然の一致にしては出来すぎている。

 この禍々しさ。この核のような見た目。もし、これがその器を探しているとしたら。

 そしてその器が彼女と対峙しているのなら。彼女にあれだけの魔法を使わせるほどの器であるのなら。

 駄目だ。決してその二つを掛け合わせてはならない。

 ラルウァはその刹那の思考の中で覚悟を決める。


『条件を満たしました スキル:鬼気たる者 を発動します』




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