3話 『心の奥底に閉じ込めた感情が』
『強さを求めるか』
突如、脳内に響く声。どす黒く、重々しい声だった。
「誰だ?」
そう問う声はむなしく鳴り響く。辺りには死体が転がっているだけで生命と言えるものは何一つとしてない。
『上級として何もできないお前が強さを求めるか』
その声はただ非情に現実を突きつけ、心を冷やしていく。
一体誰だ。直接脳に語りかけてくるこの声の主を探すが見当たらない。B級戦士として培った周囲を悟る力をもってしても、そこに誰かがいるようには思えない。
では魔法か?だが、魔力が使われている形跡などそれこそない。
『力を貸してやろうか』
『弱いお前に力を貸してやろうか』
『どんなものも蹂躙できるほどの力を貸してやろうか』
脳内に鳴り響く提案。
誰とも分からないその声の主のその言葉に心が揺さぶられる自分がいる。そのことが許せなかった。
「……ざけるな。ふざけるな!お前がどこの誰だけはこの際置いといてやる。だがな、他人から得た、貸し与えられた力など偽物だ!私は私の手で得た強さしか信じない。…そう決めている」
何もない空間に確かに響く。誰にも届かない、ただ自分に言い聞かせるように吐き捨てるように出された言葉が誰もいない静けさを強調する。
『いいさ。いつかお前は絶対にこの力に頼る。絶対に』
その言葉を最後に声は聞こえなくなる。
モンスターと対峙した時のような恐怖や、死を感じることはない。だが、その声が鳴り響き終わった、そのとき、冷や汗が止まらなかった。息切れが止まらない。背筋がゾッとするようなまた別の恐怖を感じた。
心の中を、閉じ込めておいたはずの奥底を覗き込まれたような、こじ開けられたような感覚が全身を襲う。
……っ。
あらゆる記憶の中で感じたものを無理やり心の奥底に閉じ込める。
しっかりしろ。ぶれるな。これが私だ。
息を整え、作業を再開しようとする。
そのB級戦士が異変に気が付いたのはその時だった。もし、彼女が正常であったら、少しでもあたりに注意を払っていたら、いつも通りの彼女であったら、すぐに気が付いたのかもしれない。
だが、気が付けなかった。
死体が減っている。そこにあった、討伐したはずの蟻たちの死体が減っている。
いや、減っているという表現は違うのかもしれない。ある一点に吸い込まれていく。そこには黒い「穴」があった。
その「穴」は選別するように死骸だけを吸い込んでいく。次第に吸収するスピードは速くなり、周囲の空気までも吸い込まれていると錯覚するほどの吸引力で死体を吸収していく。
それが、ある瞬間で止まる。
その数秒後だった。
その生物が「穴」から姿を現したのは。




