2話 『その力の発端は』
黙々と作業をこなしていく。蟻たちによって壊された家々を直すために木を運び、それを適当な大きさに切っていく。その作業には村人たちも協力してくれ、ここ数日でかなりの作業が進んでいる。
蟻たちの討伐は村人の心を一つにし、また戦士たちとの距離も縮めた。彼らを的確な指示のもと素早く非難させ、命がけで戦った。その姿を目の当たりにしてもはや彼らを蔑むような目線は送られていなかった。
向こうではシレーヌと小さな女の子が仲良さそうに話している。そこに男の子が割り込むように入っていく。それに続くようにまた別の子が。そんな光景が広がっていた。
そこにある足音が近づいてくる。
「いい加減教えてくれてもいいんじゃない?」
その口調は人に何かを教えてもらうときのような態度では決してなく、その態度はまさしく彼女の性格を表していた。
「なんだ、まだいたのか」
もちろんその少女、リュールが今だに一人残り村の復興に努めているのをラルウァは知っていた。それでも皮肉の一つも言いたくなるものだ。この数日、何度同じ質問をされたか分からない。
「はぁ?手伝ってあげてるんでしょ?」
やれやれというようにその返答を無視し、作業に戻る。それを察したのかすぐにラルウァを追いかける。
「そんなことより、はやく教えなさい。なぜあれほどの魔法を使えるの?」
何度聞いたか分からない質問。
「なぜE級である彼女が天候を操作できるほどの大魔法、詠唱魔法を使えるの?」
その問いにそれを教えたであろう張本人は口を閉じている。
「お得意の黙秘権かしら?これ教えてもらうまで聞き続けるからね?幸い復興にはまだまだかかりそうだし」
この調子では本当に毎日、何度でも聞きに来る気だろう。それを想像しただけでもため息をつきたくなるほどにはうんざりできる。
「君の目的はカルナだろう?」
「えぇそうね」
「じゃあ、もういいんじゃないか?君たちの目的は達成しただろう?」
そう述べるラルウァの目線は楽しそうに遊んでいる子供たちに向く。
「この日常は彼が、彼らが守ったんだ。カルナが何者かを見極めるんじゃなかったのか?これが答えだろ?」
そう。この村人の笑顔こそカルナが守ったものだ。それ以上に何があるというのだ。
「確かにそれはそう。でもギルドとしては把握しておかなければならない。彼がどれほどの能力を秘めているのか。そして、それは彼女にもいえる」
「だから、教えてもらうわ」
その表情からは決して譲ることはないという強い決意が読み取れた。
そしてその決意に完敗というように先に折れたのはラルウァだった。
「カルナに関しては正直何も知らない。これは本当だ。何度か戦っているところを見たが、それが火属性の付与魔法のようにしか見えなかった。魔力を使っているのは確かなんだろうけど、なにか違う気がする」
「そう、それに関しては自分の目で見て判断する。だから本人がまだ目を覚まさない状態の今はそれは後回し」
「で、彼女の方は?」
「‥‥‥」
そこから先はどうしても口が重くなる。
「ここまで来て黙るの?焦らすのが好きなわけ?」
全くこいつは。どうも合わないな。
「……正直なところ、分からない」
「…は?」
正直どう表現すればいいのか分からなかった。だから言えなかった。だが、それをあえて言語化するとすれば。
「…シレーヌに特別な力があったわけでもない。人よりも、それこそA級ほどの魔力量があるわけではない…と思う。だが、彼女は、持っていた」
何を言っているのか分からないというように、顔をしかめている。その口が開かれ、しっかりと教えろと、いわんばかりの表情だ、だが、それを許さなかったのはラルウァの語りだった。
「俺自身、あれほどの詠唱が必要な魔法を使えるわけじゃないから分からないが、彼女はこう言っていた。『言葉が頭から離れない』と」
「そして、こうも言っていた。『炎が脳裏に焼き付いて離れない』」
「それって…」
ラルウァにはリュールが何を思ったか分からない。そしてリュールにもラルウァがシレーヌのその言葉をどう解釈しているのか見当もつかなかった。
「だから、俺が教えたのはその言葉を口に出させただけ。口に出せるように、魔力の使い方を教えただけ」
「それだけさ」
これは、聞いてもいい話なのか。これは、私の手に負える話なのか。
もし、彼女の規格外の魔法の発端となった、その詠唱が脳裏に浮かんで、彼女を支配した原因が、『炎』にあるのだとしたら。あの少年は。
「…‥‥もう一度聞くわ。‥‥カルナ・シグルドは一体何者なの?」
その問いに答えがなかった。それを問いただした彼女もまた答えを期待しているわけではなった。
そして、その予感は他でもないラルウァもしていた。もし、彼女の超越的な詠唱魔法のトリガーとなったのがカルナの『炎』であるならば、その条件は?何度か、その炎を目撃しているラルウァ自身には何の変化もなかった。つまり、ただ見るだけではないはずだ。
生死の境目か、死線の共有か、それに伴う感情の起伏か。もしくはその両方?
だとするならば、彼女は?
あのとき、ボロボロの状態のカルナを抱え、また自身も傷だらけで帰ってきた彼女は?
きっと今も完全に傷がいえていないであろう、それでも一人で今、この瞬間も山へ向かった彼女は?
ラルウァは危惧していた。そのトリガーが良い方向に働けばいい。だが、それがもし負の感情を刺激したら。そして、今、彼女は。
その危惧が当たっているかは分からない。それはヴェティのみが知りうることだった。
だが、それとは違った、また別の異変がもうすでに始まっていた。。




