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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
2章 『始動』
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30話 『良く晴れた温かい日だった』



 まだだ。もっと。足りない。こんなもんじゃない。もっと、やれる。

 僕の頭をめぐる感情はそれだけだった。もはや、痛みは感じない。足の感覚もない。それでも攻撃だけは止めない。僕にはこれしかないのだ。強く想い、それを炎に変えることしか出来ないのだ。

 戦士になって何が変わった。誰を救った。

 まだ何も変わっていない。まだ誰も救っていないのだ。


『その炎は決して絶やしてはならない』


瞬間、今までとは打って変わった感情が押し流れてくる。

 頭に白い霧がかかったように意識が薄れていく。だがそれは悪いものでもなく、次のステップに至らんとする意志のようにも思えた。怪物の大森林に踏み込み、ボロボロになった時の感覚に近い。

 身体の感覚などないはずなのに、イメージ通りに動いている。

 剣で切り裂き、炎を打ち込む。相手の攻撃をすぐさま避け、それでも躱しきれないときは炎でカバーする。それでもカバーしきれない攻撃を受ける。服は引き裂かれ、肌が露出し、その肌には擦り傷が大量についていた。

 それでも攻撃の手を緩めない。ただ機械のように攻撃を続ける。

 この炎が燃え続ける限り、振るい続ける。そう感じ始めていたとき、精神よりも先に身体が悲鳴をあげた。身体が動かない。

 まさか、魔力切れ?

 いや、気は失っていない。きっと違う。ほっと安心したが、その隙を相手が見逃すはずもなく渾身の一撃で切り裂かれる。

 炎で覆うとしても上手く出せず、その攻撃を受け流すこともできなかった。もろに受けた身体からはとめどなく血が流れる。引き裂かれたかと思うほどのダメージであったが幸い、身体はまだつながっている。

 まだ身体があるなら。

 そう思い身体を起き上がろうとするが思うように動かない。足が震えて立つことが出来なかった。

 頭にかかっていた霧が晴れる。その瞬間、いままで、覚醒状態で感じていなかった痛みが一瞬のうちに全身に広がる。

 叫ぶしかないほどの痛み。これほどの傷を負っていたのか。そうしてやっと自身が危機にあることを実感した。見上げれば空が曇り、雨が降っている。

 そんなことにも気が付かないほど無我夢中だったのか。

 今攻撃をされれば、きっと僕はやられてしまう。だが攻撃はしてこなかった。

 ギギと歯ぎしりのような声を上げる目の前の敵は「お前はよくやったよ。もう十分だろう」と言わんばかりに見下げている。その目からは敬意が感じられた。

 それでも僕は。


「……駄目なんだ。ここでやめたら駄目なんだ」


 先ほど身体を支配していた感情はもうなく、ただ純粋に想っていた。


「きっとここでお前を逃がしたら、村の人たちは恐怖に支配され続ける!ここでお前を倒さなければ、きっと安心して毎日を送れない!」


 生に抗うものを前にして理解してしまう。きっとモンスターにも人と同じように人を狩る理由があるのだと。人を狩るのは生きていくうえでしかたがないことだと、理解してしまう。

 だからと言って見過ごせるわけがない。そんなことこの生物は望んでいない。

 憎悪でも、憎しみでもなく、尊敬の念をもって、これを駆除する。

 争わなければ生きていけない世の中。ここで僕はこいつを切る。

 足に鞭を打ち、立ち上がる。立ち上がるのが精一杯であろうと関係ない。まだやれる。

 はぁーと息を吐き、剣を構える。

 これで最後だ。この一撃で決める。

 炎が燃え上がる。魔力切れを起こしてもかまわない。ここで残ってる魔力、体力、全てをぶつける。さぁこれでおわりだ。


 その剣は大剣の姿を成す。大量の同胞を一瞬で屠った一撃。きっと今のワタシでは耐えられない。そうさ、これこそが戦いなのだ。どちらかが力尽きるまで戦い合うのが生きるということなのだ。ここまでしてワタシは、ワタシたちは生きたと言える。

 心に刻め人間よ。その目に焼き付けろ神々よ。ワタシたちにこのような運命を背負わせた者どもよ。ワタシたちは生きた。生きたぞ!

 その大剣にワタシのこの爪ではどうしようもないだろう。

 身体が燃えていく。もはや熱くなどなかった。ただ優しく、ただひたすらに温かった。

 この炎の中で一生を終えることが幸せに感じる。

 曇っていた空が一転、日差しが出始め、最後には雲一つない快晴となった。

良く晴れた温かい日だった。




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