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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
2章 『始動』
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28話 『天雨雷霆』



『俺たちは信じるしかない。信じてあいつを止めるんだ』


 確かにそういった仲間の言葉が胸に残る。

 彼は信じてくれたのだ。私があの大技を決めることができるということを信じてくれていたのだ。なら私はその期待に応えるまで。

 ふと脳裏にあの光景が浮かぶ。

 まだそれほど時間がたっていないせいか鮮明に浮かぶその光景。いやきっとどれだけ時間が経とうと決して消えることのない光景。

 強大な敵を前にして助けを呼ぶことしか出来なかった自分。

 恐怖で足がすくみそうになりながらも立ち向かった少年。

 そして、手にした能力。

 あの炎が脳裏を焼き付いて離れない。

 私もああなりたいと確かに志した。

 

 ………


 そして今、その強大な敵が目の前にいる。C級二人がかりでも致命傷を負わせることができない。あの時ほどの絶望ない。あの人はこれ以上の絶望を一人で背負ったのだ。自身に能力がない状態で、生身の身体一つで立ち向かったのだ。それに比べれば。

 そう考えたとしても消えない身体の震え。

 もし、私がここで失敗したら。

 きっとあいつは倒せない。全員殺される。確かに志した目標がかすむようにぼやける。恐怖を前にして心が揺らぐ。

 いや、時間を稼げばもしかしたらカルナさんたちが助けに来てくれるかもしれない。

もしかしたら―

 

 再度、脳裏に炎が浮かぶ。

 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。

 私はいつまで「もしかしたら」を続けるのだろう。あの時も「もしかしたら」と思い走った。

ここで変わるのだ。能力を手にし、戦士になった。でもそれはただの飾りだ。本物の戦士は「もしかしたら」など思わない。そこにある希望にすがらない。自分で手にしていくのだ。

 あの女戦士はただ一人で強さを求め続ける。

 憧れた少年は自身の手で希望を掴んだ。

 それならば私は。今日、今、ここで、あいつを倒し、決別する。今までの弱い私を捨て、新しい私を始めるのだ。そして、私は私のことを真の意味で戦士と呼べるようになりたい。そうしてやっと、彼の本当の意味で隣に立てるのだ。

 手にしていた剣を鞘に納める。そして今まで剣を振るい、マメだらけになったその手を胸に当てる。


『天界の聖霊よ』


 そう口にする。


『まごうことなき天界の神 天帝(ゼウス)

 我が身に宿りしその能力(ちから)その羨望(おもい)

 全てを体現し全てを意のままとしたその力の一端を

 いまここに見せつけよ』


 身体の中に散らばっていた魔力がその手一点に集中する。その魔力の流れに帯同するように足先から力が抜けていく。力が、感覚が、なくなっていく。

 それでも、私は詠い続ける。身体に見合わぬこの能力を解放するために。あと一小節。


『数多を苦しめ死とした怒りの象徴 天帝(ゼウス)

 今ここにその雷鳴豪雨を体現し

 汝の憂いと余の叫びを洗い流せ』


 そう言い切るころには立っているのが精一杯だった。その詠唱中、どれだけの血が流れただろうか。私を守るために、ラルウァさんにどれだけの負担をかけただろう。やはり、私はまだまだだ。彼のように絶望の中を一人では立っていられない。

 でも、この仲間のために。私は立っていられる。

 あとはその名を口にするだけ。そのふらふらな身体に鞭を打ち、全力で叫ぶ。


 そのころには全員がその魔力の膨大さに目を奪われていた。

 途中参戦した少女は口を開けたまま信じられないという風に。

 私たちに絶望を見せつけたその生物は逆に絶望を見せつけられているように。 

 空は雲で覆われ、ぽつぽつと水滴が落ちてくる。冷たい風が吹き始め、それらは次第に強くなる。そして最後には空から怒りの音もなり始める。

 そして、私に可能性という生きる道を提示してくれた彼はただフッと笑うように、なにもおかしいことはない、これくらいやれて当然だと言わんばかりにそっと一言呟く。

「いけ」


天雨雷霆(レインヴィヒム)』!


 瞬間、嵐のように吹き溢れている地上に空から一閃の雷鳴が落ちる。

 その衝撃音を境に風と雨は止み、雲は消え、日光が差し込む。今までの暗闇がその日光の明るさをさらに強調しているのだろう目が眩むほど明るかった。

 辺りは静まり返っている。

 ただそこにはその生物の存在はなく、死体とも判別できない。ただいくつかの爪や足先が落ちているだけであり、黒くなったそれはただ暗い塊の様をなしていた。

 その沈黙を破ったのはある戦士の地面を蹴る音であった。彼はこの有様の元凶であり、その身を挺して村民を守り、力尽きた戦士が倒れるのを庇うようにすぐさま彼女に近寄りその身を支える。

 全身が痙攣し、今にも眠りそうなほどの彼女にただ一言声を掛けた。


「完璧な魔法だった」


 その声を聴くとただ嬉しそうに目を閉じる。その寝顔はここ最近の悩みがすべて解消されたと言わんばかりの清々しいものであった。




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