25話 『幼すぎる正義』
その一団が到着したころにはすでに戦場と化していた。大量に発生している巨大蟻は村を容赦なく蹂躙している。それを食い止めているのは二人の戦士であった。彼らの指示なのか周りには彼ら以外人の影が見られない。
その一団の先頭に立っていた少女はあたりを見渡し状況を冷静に分析する。だが、どうしても動揺が隠し切れない。その原因は、ここを訪れる目的となった少年がいないことであった。
少女の後ろをただ静かについてきていた黒いローブを羽織った者たちも辺りを見渡し、少年を探している。
だがそれ以上に彼女の心を乱しているもの。巨大蟻の大群の中で、一体だけ異様なオーラを放っているものがいる。身体の全細胞があれには敵わないと警告している。
その個体が他とは明らかに異なる速さで飛び出す。その先は二人の戦士などではなかった。ただ一点に向かって走り出す。その先にはこの村で一番大きいであろう建物があった。
それを見た二人の戦士は必死でそれを止めようとする。だが、他の巨大蟻たちに邪魔をされ足止めされている。
(まさか…!)
良くない考えが脳裏に浮かぶ。それが浮かんだ瞬間、いやそれよりも早かったのかもしれない。ただ身体が動く。剣を抜き、その刃を振るう。彼女もまごうことなきC級であった。
だが、そのC級の刃ですら届かない。それどころかそれをはじき返されたと思った瞬間、身体が吹き飛ばされていた。
全身に衝撃と痛みが走る。だが、その身体的傷害よりも心にくるのもがあった。動きが見えない。恩恵によって限界を超えた身体能力をもってしても動きを見切ることができない。
「…お、お前たち…、攻撃しろ」
少女は仲間に指示を出す。私一人では無理だ。そしてこの二人にも。そうであるならばここは我々が何とかしなければならない。彼らは私と同じ、あるいはそれ以上の実力を持っている。だからこそそこにしか勝機は見いだせない。
そう思わせるには十分すぎる一撃であった。
だが、彼らは誰一人として動かない。それどころか何かを探すかのように辺りを見渡している。その光景を見た途端少女の頭に血が上る。
「今はあの少年などどうでもいい!それよりもやることがあるだろう!」
だが、それに答えるものはいなかった。その中の一人がゆっくりと近づいてくる。
「我々の使命はあの少年が害か否かを見極めること」
「そんなことは分かっている!だが今は守るべきものがあるだろう!」
叫ぶたびに全身に痛みが走る。だがそんなことはどうでもよかった。この者たちの言動に怒鳴らざるをえなかった。怒鳴らずにはいられなかった。
「守るべきものですか。一体どこに?」
「…は?」
「我々は都市の安全と秩序を守るもの。ここは都市ではない。それ以上にやるべきことがあるはずです」
信じられなかった。本気で言っているのか。確かに我々の使命は都市を守ること。だけどそれは…!
「それは―」
瞬間後ろにそびえたつ山の頂上付近でドゴーーンという大きな爆発音がなった。
その場にいるものすべてが注視するほどの爆発音。
あそこにいる。きっと少年はあそこにいる。そう思わせるほどの衝撃音だった。
それは彼らも同じであるようで全員が目で合図を送りその山に向かいはじめる。
「きっとあの方はこれを恐れていたのだろう。あなたの正義は幼すぎる」
そう残して。




