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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
2章 『始動』
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23話 『覚悟が足りない』



 頂上に近づくにつれ、死の気配が濃くなっていった。確実にいる。この先に、この群れを仕切る主が。そう確信させるほどのオーラが奥から感じられた。

 身の危険を感じる。あの時と同じだ。僕の本能が、細胞が、ここから逃げることを選択している。死んではならないと訴えかけている。

 それでも、行かねばならない。この足を止めるわけにはいかない。

 この場を託してくれた彼女に、懇願した村長のために。僕は戦う。

 その疲れと緊張で重くなった足を一歩、また一歩と進めていく。

そして、やつはいた。

まるで、待っていたかのように、僕だけをここに連れてきたと言わんばかりに堂々と。

今まで戦ってきた蟻よりも数倍大きい身体に、凶暴な爪先。その顔と鳴き声は死を宣告するかのように不敵な笑みを浮かべているかと錯覚するほど邪悪なものだった。

『クイーン・アント』

 この群れを束ねるもの。

こいつは生かしてはならない。ここで僕が倒さなければならない。そう強く想う。

明るく、温かい炎が燃え上がる。その炎が僕を包み込む。

戦う準備はできている。

 三度、剣を握る。


「ギィィィィィーーーーー‼‼‼‼」


 その雄叫びと共に最終戦が幕を開けた。



 その強さは別格だった。いままでは個の勝負というよりも数で攻めてきていたが、今回の相手は個の能力値が他の個体よりはるかに高かった。繰り出される攻撃の威力、行動スピードその全てが今までの蟻たちの比ではなかった。それに加え、一部の蟻が使っていた毒も使えるようである。全ての個体の始祖であるわけだからそこからできた蟻の技は全て使えるようである。

 主がここまで誘導した。そう思わざるを得ないほどの環境。この蟻が動きやすいように整えられた木々。地の利を最大限利用し攻撃してくる。時には木に飛び乗り毒を、かと思うと土の中からその狂気の爪で。その戦い方はまさに戦士のそれだった。

 ギリギリのところで防いだりかわしたりするものの体力は確実に削られていく。節約していた炎も出し惜しみできず、細かいコントロールができない僕は最初から最大火力で身を纏うしかなかった。

 もはや身体は限界が近かった。その剣の動きが鈍くなる。

 鈍くなった動きではこの相手を捉えることが出来なかった。

 魔力の限界も近い。その炎では相手に致命傷を与えることが出来なかった。

 相手はボス級ではない。ボス級ほどの身体能力があるわけでもない。ボス級のような突出した能力が使えるわけでもない。

 だが、こいつは。こいつの強さはそこじゃない。群れを分断させ、確実に山を下りる通路を確立させた。山に入った敵の数、強さを正確に把握し、群を組ませ、確実に体力を削った。

 そして今、自身に対面する相手は、本来ならば自身を倒す力を持っていようと、倒すことが出来ない。つまり、自身が確実に倒せるところまで落としてから自身の前に来させた。

 これがモンスターの戦いなのか。

 いや、これが生にあらがい、身につけた知恵なのかもしれない。単体でいえば巨大蟻よりも強い相手など山ほどいるだろう。

 それでも生きるために、狩られないために、身につけた種としての習性。

 そして、この主は、それを束ねるものとして、生きようとしているのだ。

 炎が、薄くなる。消えかかる。剣を持つ手の感覚はもはや消え、ただの棒と化していた。

 足りない。

 魔力が、実力が、経験が。

覚悟が、足りない。

この群れを殲滅するという覚悟が。種の存続をかけているという覚悟が。


こいよ、炎。

こんなもんじゃないだろう。俺はまだやれるだろう。

こいつらに負けないくらいの想いを出せよ。燃やせよ。


 そう感じた瞬間、爆発的に炎が燃え上がる。

 確実にこの種との決戦は最終局面を迎えていた。




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