21話 『後ろを任せられるのは信頼の証明』
「数が増えてきたな」
ラルウァさんがそう呟いた。カルナさんとヴィティさんが逃した数体が逃れてくるだけであったが、その数は確実に増えていっていた。あの二人でもさばききれなくなっているのか。それに山から聞こえた妙な鳴き声。その後から数が増えたのは明白だった。
ラルウァさんの活躍のおかげで、こちらにはまだ一体も来ていなかったがそれも時間の問題だろう。
一通り避難を追える。避難と言ってもこの村で一番立派な建物、つまり私たちが滞在していた建物に移動させただけだ。いまからこの人数を別の安全な場所に移動させるのは不可能だった。そもそも安全なところがあるかもわからない。
なら、私がやることは一つ。
「村長、ここから誰も出さないようにお願いします」
そう告げ、返事も聞かずその場を飛び出す。
村の出口で奮闘しているラルウァさんが見えてくる。その動きはやはり別格だった。流れるような剣捌きに、無駄のない身のこなし。もはや蟻などは敵ではなかった。だがその数に対処が遅れてきている。
走りながら剣を抜く。私の剣筋では一太刀では倒すことができない。なら、何度でも切ればいい。そのモンスターが倒れるまで、切ればいい。
それが不格好だとしても、切り続ける。
「私も戦います!」
一応避難はさせたが、そこが安全かどうかはわからない。村から出すことは不可能。なら私がやること、それはこの村を安全と言える場所にすること。私が、私たちがここで、一匹残らず倒す。一歩としてこの村に踏み込ませない。その覚悟があった。
もうあの時とは違う。
ただ、涙を流し、戦う者に背を向け、助けを呼ぶことしか出来なかったあの時とは、もう違う。あの人の隣に立って、戦えるように。
私は剣を振るう。
「ふっ。もう、焦りはないようだね」
背中と背中がその人と重なり合う。
そう笑うはここ数日修行に付き合ってくれた人であった。やっぱり、相変わらずむかつく人だな。どうもこの人とは合いそうにない。それでも―
「僕たちでこの村を守ろう」
息を切らしながらも、その爽やかな笑顔は絶やさなかった。
「当たり前です!」
そういい、攻撃を続ける。そこには初対面のころからは想像もできないほどの、互いの背を預けられるほどの信頼があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁはぁ」
一人の息切れが静かな夜の中で響いている。そこには焦りと不安が混在しているようだった。その焦りと不安をかき消したいと言わんばかりに右手に持った剣を振り続ける。だが、相対する者はそれをものともしてなかった。
「君は十分やっている。E級とは思えないほどにね」
そこになだめるような、もう十分だと言いきかせる言いきかせる意味合いがあることを彼女が理解するのは容易なことだった。
「それに君は剣士じゃないだろう」
わかってる。私に剣の才はない。まだ剣を持って間もないがそれを理解するのに十分なほどここ最近の日常は濃いものだった。
自分を強いと思ったことは一度もない。むしろ弱い部類だと思っていた。それをしょうがないことだと納得させている自分がどこかにいた。私は戦士になる運命だったのだ。だから戦士になった。
だが、私はあの日、あの瞬間、確かに自分の意志で戦士になると決めた。あの人の隣に立って戦うと決めた。だから、ここで止めたら―
きっと、彼はどこか遠くへ、私では届かないところへ行ってしまう。そんな気がしてならなかった。
「分かっています…。そんなことは分かっています…!それでも、私はもう、あんな思いはしたくない…!カルナさんに背をむけて、ただ助けを呼ぶことしか出来なかった弱い自分を変えたい…!」
語尾が震える。涙が落ちそうになるのを必死にこらえる。
だが、その想いは溢れ出て止まらなかった。きっと彼に比べれば挫折とも言えない挫折だ。彼はこんな気持ちを何回も何十回も味わってきたのだろう。だがそれでも彼は戦士になった。彼は立ち上がった。
「そうか…」
ただそっと呟く。この人もまた遥か高みに存在していた。その高みから私を見定めていた。
「もし、君が、強くなることを望むなら、その可能性を提示しよう」
そこには微笑みも何もなかった。いつもは愛想よく何を考えているかよくわからない人だったが、そこには明確な見定めの視線が在った。
「お願いします」
もう無力なままでありたくない。
そこに可能性があるなら、意地でも掴みとってやる。
私も誰かを救いたい。
そう確かに想って。




