16話 『彼女はヴィティ・レグラスと名乗る』
ついていくことになった以上彼女に引き離されないようにしなければならない。
当の本人は早速、山周辺の調査を始めていた。いくらB級戦士といっても人間には変わりない。この村のすぐそばに広がる巨大な山を一人で調査するには無理がある。周回するだけでもかなりの時間を有する。一日では無理だろう。
そこでそれぞれバラバラに散り、それぞれが状況を見て回ることにした。
決まり事として見つけた際はすぐさま最大火力の魔法を放つことにした。その魔力反応をもとにすぐに助太刀に行けるようにするためだ。まぁそれはあくまで僕ら三人だけで彼女はそんなのお構いなしのようだが。
「先ほどから気になっていたのですがそちらのお方はどちら様で?」
ラルウァさんが彼女の方を見ながら問う。そうかラルウァさんはこの人と会うのは初めてだったか。
「‥‥」
あれ、黙ったままだ。
「あー、失礼しました。相手の名を尋ねるときはまず自分からでしたね。僕はラルウァと言います」
「‥‥」
あれー。この人本当に他人とコミュニケーションとる気がないんだな。無視って…。
「あ、えっとこの人は氷の姫でお馴染みの‥‥。あれ?僕も名前知らない…」
そういえばこの人の名前、名前、名前‥‥。聞いたことない!ここまでいろいろあってまさか名前を知らないとは。
はぁ、と彼女は小さくため息をついた後本当に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「ヴィティだ…」
「ヴィティ…」
「ヴィティ…」
「ヴィティ…」
全員がそう呟いた。なんだシレーヌさんも知らなかったのか。安心した。ヴィティ…、ヴィティ…どこかで…。
「もういいか?もういいな。私は行く」
そう残すとヴィティさんは一人で先に言ってしまった。自問自答ですか。聞く気ないやん。
「まぁ僕たちも行きましょう」
そういい、全員バラバラに散らばった。
結論から言えば、収穫はなかった。日が落ちると全員が調査を切り上げ、休憩所に集まった。
それよりも気になるのは村の人たちの目線だった。僕たちを見る目がどこか厳しかった。それはこの村に来た時から感じていたことだが、ここまで睨みをきかされると無視できない。
「どうやら相当嫌われているみたいだね、僕たち。というよりは戦士が、かな」
村から支給された食事をいただいていると同じ感想を抱いたのかラルウァさんがそう言った。
「それは私も思いました。何というかこんな視線を浴びるのは初めてです」
シレーヌさんもか。この村には過去になにかあったのかもしれない。戦士を恨むなにかが。
「まぁとにかく今日のところはゆっくり休みましょう。明日は朝から動き出すので」
「そうですね。ゆっくり休みましょう」
そういい食事を終えると、それぞれ休みに入った。
◇◇◇◇◇◇◇
村で用意してくれた休憩所は2階建てになっており、一階に主に応接室ともいえる部屋(村長たちと話した部屋)、と風呂場と食糧庫のような部屋がいくつか、そして二階には宿泊用の部屋が二部屋あった。
二部屋ということはつまり、二人一部屋になるわけだが‥‥。
まぁ順当に僕はラルウァさんとなりました、と。まぁなにも変わったことはない。シレーヌさんだと緊張して寝れそうにないし、ヴィティさんだと怖すぎて寝れそうにない。というか寝れない。
ヴィティさんはさっと一人でどこかに行ってしまったのでシレーヌさんとラルウァさんと二階に上がり、シレーヌさんとも別れた。
部屋に入るとそこは質素な部屋であった。布団のようなものがあるわけではなくただ日が沈みあたりが暗くなった部屋を一つの魔石が照らしているだけだった。
他に何かあるわけではないのでとても静かであった。
ラルウァさんと二人きりになる。何気にこの人と二人きりは初めてなんだよな。初めての二人きりというのは相手が異性であろうと同性であろうと緊張するものである。要は話が続くかどうか。沈黙はどこか気まずく感じてしまう。しかしそんな心配はなかった。
「それにしても、どこか手馴れているようだった。それに強さも…。カルナは本当にE級の駆け出しなのかい?」
静かな雰囲気を何とも思っていないという爽やかな笑顔で話題を振ってくれてた。
「一応戦士の前はサポーターをやってたから…。見様見真似でね」
「その話はきいたことがあるよ。というかその話を聞いたからカルナに興味を持ったんだけどね」
そうだ。ラルウァさんは僕たちに興味があると言っていた。それに僕たちが話題になっているとも…。いい機会だ。ここで聞いてみよう。
「その話なんだけど、僕が話題になってるって、どんな話題?」
「そーだった。カルナは知らないいだっけ。巷で話題のカルナ伝説を」
「な⁉どんな話それ⁉」
「冗談冗談」
なんだ冗談か…。にしてもラルウァさんもこんな冗談言うんだな。
「まぁ巷で話題っていうのはあながち間違いじゃないんだけどね」
その話題とは。
「その話題は―」
それはざっと言えば、僕がボス級を倒した件についてだった。サポーターでまぁある程度話題になっていた僕が(これに関しては百パーセント馬鹿にされてただけだけど)自力で適性を張る限させ、能力までも手にした。そうしてボス級を倒したというもので大体あっていたが、ところどころ盛られたり、覚えのないものもあったがそれに関してはしょうがないことであろう。
噂話が真実のまま語られることはめったにない。というかない。話す者のフィルターを通した状態で、相手をより驚かせるために、それは変貌していく。
「と、そんなところだが今後気を付けた方がいい」
え?
「噂とはただもられるだけじゃない。そこには人の嫉妬や懐疑感も含まれる。先日のようにね」
そうだった。先日の一件。
「これからもあらぬ疑いをかけれられるかもしれない。今日のように戦いを挑まれるかもしれない。誰かに疑われるかもしれない。そーだね、カルナの事情聴取をしてた者は上手く隠していたが、僕の事情聴取をした人は終始カルナに熱い視線を送っていたよ」
やっぱりそうだったのか。あのとき僕は疑われていたのだ。というよりも見定められていたのだ。僕という人物がいかなる人か。害となりうる人物なのか。
そうだ。思えば神フレアにもユーリさんにも、ルーネさんにも。
「だけど、僕は確信しているよ。カルナはいいやつだって」
ラルウァさんは真っすぐ見つめながら屈託のない笑顔だった。風の音が、虫の音が、感傷的な気分にさせるのだろうか。
「いやっ、そんなっ!」
照れて何も言えない。
月の光が差しこみ、魔石の輝きを消すほどに明るくなる。だがすぐに月は雲に隠れ、その明かりは魔石よりも小さくなる。
「眩しいほどにね」
だがそう呟いたラルウァさんはどこか遠くにいるようだった。あの輝く月のように。
「寝ようか」
そういい僕たちは横になった。




