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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
2章 『始動』
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15話 『ただ、懇願するしかない』



「では今後の方針を決めていきましょう」


 中に入るとそこには何部屋かあり、僕たちは石の床に木の机といすが並べられている部屋に案内された。そこに僕たちを案内してくれた老婆に加え、中年の男一人、それよりも何歳か若い男が両端に立っていた。

 その向かい側に僕たち四人は腰を掛けた。


「目撃された巨大蟻の大体の位置と数、目撃した時期などを教えてもらいたいです」

「位置はこの先の山奥で先月頃、食糧調達に行っていた者が目撃しました。それと二週間前にも。場所は山には変わりないんですがかなり下ったところで」


 なるほどつまり山奥から発生した巨大蟻が山を下りてきているということか。


「わかりました。ではその数は?」

「数はその…」


 村長は言葉に詰まっている。しかし何か意を決したように口を開いた。


「百を超えていると言われています」

「な⁉」

「ひ、百⁉」


 その数に驚きを隠せないでいた。それはシレーヌさんもラルウァさんも同じであるようだった。


「それはおかしくないか」


 誰もが唖然としている中沈黙を破ったのは冷たく、それでいて美しいソプラノだった。彼女は終始腕を組みめを閉じているだけだったがここにきて言葉を発した。

 村長たちはただ察していたかのように、そして指摘を恐れているようだった。

 ただ、ここにいる戦士全員が思っていることではあった。


「もし、それほどの数がいるのなら、この程度のパーティが派遣されるわけがない」


 そうなのだ。巨大蟻の討伐だけであるならC級であってもおかしくはない。むしろC級の中では簡単な部類だろう。だがその数が百を超えるとなると話は別だ。

 これは僕たちの手に負える話ではないのかもしれない。

 村長たちは口を閉ざしたままだった。


「しょうがねえだろ!こうでもしなきゃ戦士が派遣されることなんて…」


 そう踵を切らしたのか大声で叫んだのは若い青年だった。

 それをなだめるように村長たちが何か言ったがそれは聞き取れなかった。


「事情の説明をお願いします。ことによっては僕たちでは対処しかねます。適切な難易度で、適切なパーティを派遣します」

「適切なパーティは派遣されるのでしょうか」


 僕が事情の説明を求めると、それに答えたのは村長だった。


「こんな人里離れたちっぽけな村に、いったいどれほどの戦士が来てくれるのですか」


 乾いた声が部屋に響く。


「場合によっては俺たちも戦う。だから―」

「足手まといだ」


 そう告げたのは紛れもない彼女であった。


「な!俺たちだって!」

「『俺たちだって』なんだ?お前たちにいかほどのことが出来る?」


 その口調は僕に告げたときと同じか、それ以上の冷酷さを持っていた。だが、今ならわかる。あの死線を超えた今なら。彼女が言わんとすることが。

 その老婆は立ち上がり、僕らのもとにすり寄ってきたかと思うと、僕の服の袖を握り、そのしわだらけの顔を涙で濡らしながら懇願した。


「お願いします…!もうあなた方しかいないのです。この村を守るためには…!」


 その願いにすぐに返答することができなかった。

 どうすればいい?僕たちだけでは倒すことが出来ないかもしれない。いややられる可能性の方が高いはずだ。ここは別のパーティを呼ぶべきだ。そう頭では分かっているのに、理解しているはずなのに心がその決断を拒否していた。

 ここでやらなければ、ここでこの人たちを救えなければ、僕が戦士になった意味がどこにある?今までだってそうだったはずだ。

 だが今は僕一人の問題じゃない。シレーヌさんたちをこの負け戦に巻き込んでしまっていいのだろうか。

 その時スッと背中に温かいぬくもりを感じた。そこには僕の迷っている背中を押さんとばかりのシレーヌさんの手があった。その表情は覚悟を決めている顔であった。シレーヌさんだけではない。ラルウァさんは僕の表情を興味深そうに伺っている。彼女はきっと僕らがここで引き下がっても一人で戦いに出るだろう。

 一人じゃない。

 覚悟を決める。やってやる。


「わかりました。全力を尽くします」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

「お願いします‼」


 村長たちが部屋を後にした後、僕は村長にも負けないほどの懇願をしていた。


「断る」

「そこをなんとか!」


 相変わらず表情一つ変えず冷たい瞳のまま僕のお願いを一刀両断した。それでも諦めない。


「もう時間がありません。僕らとパーティを組みましょう。そうすれば成功する確率だって上がります」

「嫌だと言っている」

「どうしてですか」


 どうしてこの人はこれほどまでに他を拒絶するのだろう。


「どうしてお前たちと慣れ合わなければいけない?個人が個人の全力を出せば自ずと結果は出るはずだ。それを他と足取りを合わせ戦うことに何の意味がある?」


 きっとこの人はこうやって他を切り捨ててきたのだろう。明確な線がそこにはあった。


「一人で百体以上を相手にするのは無理があります。慣れ合うのではなく互いに力を合わせるんです」

「お前たちが一人一体倒せば私は九十七体で済む」

「は?」


 つい心の底から出てしまう。

 クスクスクスと後ろの方から笑い声が漏れる。ラルウァさーん。殺されますよー。


「意外と冗談がお上手なんですね…」

「あ?」


 その目はいつも以上にカっと見開かれ、まるでモンスターを見るかのような眼差しで僕たちを見つめる。もしかして本気で言ってんの?意外と天然なんだな。


「仮に九十七体になったとしても無理があります。三体なんて誤差です」

「なら倒すだけ倒す。それだけだ」


 この人は…。


「わかりました。あなたがこちらのパーティに入らなくても結構です。その代わり」

「僕たちがあなたについていきます」


 そう真っすぐ彼女を見て告げる。その視線に応えるかのように彼女もまた僕を真っすぐ見つめた。


「お前たちが?私に?ついてくるだと?」

「はい。ついていきます。何としても」


 そうでもしなければ、今回は倒せない。ボス級の時とは違う。今回は明確に守らなければならない命がある。一匹たりとも逃しはしない。

 死線が交差する。僕たちを、一人一人見定めるように、じっくりと彼女は見つめていた。


「勝手にしろ。その代わり、足だけは引っ張るな」


そう諦めたような口調で吐き捨てた。






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