14話 『ただ怯え、震える』
「もうすぐ目的地です」
そうマップを手にしたシレーヌさんが言う。今回のクエストはある村が依頼してきたものだ。内容は巨大蟻の討伐。巨大蟻とは名前の通りで通常よりも何倍もの大きさ種によっては僕たちよりも大きいありである。クイーンアントと呼ばれるいわば親玉のような蟻を筆頭に群れで行動している。
その群れが近頃ある村の近くで目撃されたらしい。現段階では目撃されただけと聞いている。だがその種は肉食である。その肉に人が含まれることは言うまでもない。被害が出る前に討伐するに越したことはない。
「あそこです」
そうシレーヌさんが指さす方向にはこじんまりとしたザ・村という感じの村が見えた。
しかしすぐその異変に気が付く。なにやら騒がしい。村人たちの焦りにも感じるような声がここまで聞こえてきた。都市であるならば普通であると思える喧噪もその村では異様と感じさせるには十分だった。
走って向かうとそこには氷漬けにされた巨大蟻が二体と首と胴が引き裂かれた巨大蟻が二体あった。そしてその先にはその巨大蟻に被害を受けたであろう血を流した村人と、その同じく血を浴びた、しかしそれは自身の血でなくモンスターの血を浴びた女戦士が立っていた。
そこには多くの人が群がり悲痛とともに、その戦士に感謝の意を述べていた。
彼女は我々に気付くとその燃えるように赤く、それでいて凍るように冷たい瞳を向けた。
「あなたは…」
氷の姫であった。
「お前たちは…何しに来た」
その冷たい眼差しを変えることなく僕たちに問う。
「もしかしてあなた方がギルドからの…」
村長と伺える老婆が今起きた恐怖に打ちのめされそうになりながらも一筋の光を見たかのような表情で助けてくれと言わんばかりに語り掛けてきた。
「そうです。僕たちがギルドから派遣された戦士です。遅れてしまい申し訳ありません。現在の状況を教えていただけますか?」
何が起こったかは見れば大体分かるが詳しく知りたい。事態の把握は何よりも重要なことだ。「はい。今まさに討伐依頼を出した巨大蟻に襲われたばかりです。幸いにも先に来ていたこの戦士様に助けていただいたのですが」
そういい彼女の方に視線を向けるが彼女は何も思っていないのか無表情のまま返り血をふいていた。
「死者はいませんが、何人かが負傷しました…」
語尾が震えている。それだけで目の当たりにした恐怖を物語っていた。もっと早く来ていれば。そう思わざるを得なかった。彼女が、氷の姫がここにいたのは偶然であろう。でなければこんな人里離れたところには来ないはずだ。
もし、彼女が来ていなかったら…?
「状況は把握しました。まずは治療を済ませましょう。それから今後の方針を決めていきたいと思います。そしたら―」
「そうですね、一応戦士様用の簡易的な休憩所を設置したのでそちらで話しましょう」
「わかりました。お願いします」
そうして治療を済ませた後、案内されるがまま僕たちは休憩所へと向かった。そこには氷の姫の姿があった。
それにしても…。懐かしさを感じさせる村だった。木造の住居が数十軒。周りには畑が広がっていた。途中、何人かの村人と鉢合わせたが全員厳しい目線を僕たちに飛ばしてきていた。しばらく歩くと村の建物の中では一番と言えるほど大きい建物にたどり着いた。
「ここ、ですか…」
「申し訳ありません。現在の状況ではこれが精一杯でして…」
老婆は怯えたようにそう謝ってきた。
「いえ、そうではなくて。村の中でもこれが一番大きい建物ですよね。そんなところに僕たちがいいんですか?」
思ったことを素直に述べてみる。
「いやいやいや、戦士様ですから。これくらいしか準備できず、申し訳ありません。四人が寝泊まりするには少し狭いかもしれませんが…」
いやいや十分すぎるでしょ。だってこの大きさで見たところ部屋も何部屋かありそうだし。僕たちのこと巨人にでも見えてるのかな。
「ではこちらにどうぞ」
そういい老婆は僕たちを中に招き入れた。




