13話 『彼はただ不敵に笑う』
次の日、シレーヌさんも何とか納得してくれ、ラルウァさんと初のクエスト。そのはずであった。忘れていた。もう一つの関門を。ずっと僕の面倒を見てくれている人。マリーさんだ。シレーヌさんの時でさえあれほど警戒していたんだ。今回もそうなるに決まっていた。
「で、彼は誰?」
その口調は僕に向けられたものであるが、その矛先は確実にラルウァさんに向いており、シレーヌさんに負けずとも劣らない敵意があった。
「僕はラルウァ・ドラコスといいます。一応戦士登録しているので調べてもらえれば基本的なデータは確認できると思うんですけど」
この人もなかなか凄いな。シレーヌさんの時もそうだったがこれほど敵意を向けられても顔色一つ変えない。むしろ爽やかまである。僕だったら今すぐに逃げ出したいんだけどな。
「ラルウァ・ドラコス…ですか‥‥。これですね」
そういうとマリーさんはファイルのようなものを取り出しラルウァさんについて調べ始めた。さすがマリーさんというべきなのか手際よく、すぐにそのデータを見つけたらしい。
「戦士名ラルウァ・ドラコス。階級 C級。適性 闇 。今までの戦歴は‥‥」
そう言ったところでマリーさんの口が止まる。
「これはどういうことですか」
そう言うマリーさんの瞳は真っすぐにラルウァさんを見つめ、その真意を測ろうとしていた。それは上級の戦士と何ら遜色のない一流の職員のめであるようだった。
「今までこなしたクエストの数は0とは。0であるのにどうしてC級に分類されているのですか」
「そもそもギルドに戦士登録した時点でC級に分類されていたとは、どういうことですか」
ギルドに戦士登録された時点でC級。つまりそれは彼はギルドで適性を確認することなく、違法に神の恩恵を受けたことを意味していた。
シレーヌさんは驚くと同時に険しい目つきになっていく。
ただマリーさんは表情一つ変えずラルウァさんを見つめていた。だがその瞳の奥には所作一つすら見逃しはしないという強い意志が感じられた。
だが、当の本人はそうなることを予見していたかのようにただ微笑を浮かべ口を開いた。そこには余裕すら感じられた。
「僕には親がいないんです。親だけじゃない。親戚も、知人すらいなかった。そんなとき神様が僕を拾ってくれたんです。八つのときでした。それ以来、まぁ神様の役に立ちたくて、モンスターを倒すことで生計を立てようとしたんですけどね。察しの通りボコボコにされるわけです。それに見かねた神様が恩恵をくださったというわけです。それ以降もクエストではなく単独でモンスターを狩っていて気づいたらC級にまでなっていた、というわけです」
その説明にシレーヌさんもあのマリーさんですら言葉を失っているようだった。それを信じる根拠がないと言わんばかりに。だが、僕は納得していた。彼が信じられると思った根拠。なぜこれほどまでに彼を疑えなかったのか。境遇が似ていた。どこか似ていると感じていたからだったのか。
「まぁそれを証明するものなんてないんですけどね」
そう苦笑しながら言う。
証拠なんていらない。彼は信じるに値する。そんな気がしてならなかった。
「分かりました。最終的な判断は本人たちに任せるとします」
そういうマリーさんの警戒は完全にとけたものではなかったが一旦保留というところまでは
来たのだろう。そしてそれはシレーヌさんも同じであるようだった。
もう僕に迷いはない。
「パーティを組みます!」
そう強く言い放った。
◇◇◇◇◇◇◇
そうして僕らは実際にクエストに来ていた。内容はまぁ察しの通りモンスターの討伐であるのだが、その難易度はC級。少し、背伸びしすぎたかな。マリーさんは少し心配そうにしていたがラルウァさんもいるし、シレーヌさんもいつも以上にやる気だったし、それ以上に、僕が、強くなりたいと望むから。少しの背伸びくらいしなければ届かないから、やると決めた。
「じゃあ確認しておきましょう。僕は炎を使います。シレーヌさんは水。ラルウァさんはさっきマリーさんが言っていたのは闇ですか?」
まずは互いの能力について話しておく。先ほどの戦いでラルウァさんがかなりの戦士であるのは分かったが、その能力について知らなければ戦略の立てようがない。自身の能力を明かすことはリスクとなるが、それと同時に覚悟にもなる。互いに命を預けるという覚悟だ。
「そうですね。僕は闇魔法を使います」
「でも、闇魔法ってイメージがわかないんですよね。炎とか水とか、それに氷とかだったらそれが実際に存在する物体だからそれを作り出すってイメージなんでしょうけど、闇って言われても」
闇魔法とは。それは六大属性に分類される原点ともなっている属性ではあるもののその能力がいかなるものかは分からなかった。
「まぁそうだね。ざっくり言えば、闇も存在する。確かに物体ではないけれど事象としてそこにある。だから僕の能力は闇を作り出すというイメージで大丈夫だと思うかな」
「闇を作り出す?」
それこそイメージがわかなかった。それはシレーヌさんも同じであるようで頭の上に?マークが浮かんでいる。
「実際に見せた方がはやいか」
そういいラルウァさんは先頭を歩き始めた。僕とシレーヌさんはそれに遅れないように早歩きでついていく。すると草葉の陰から僕たちと同じかそれよりやや大きいくらいの背丈のモンスターが現れた。その顔はハイウルフと酷似しているが決定的に違う点は2足歩行である点だった。
コボルトである。数は三体。手には木のこん棒のようなものを持っている。
そのモンスターたちは僕らを見つけた瞬間進行方向を転換し、物凄いスピードで襲ってきた。そのスピードはハイウルフにも劣らない。
僕たちはすぐさま臨戦態勢に入る。がそれ以上に速いスピードでラルウァさんが走り出した。背負っていた袋から武器を取り出す。それを右手に持ちモンスターをむかえ撃つ。
瞬間、ラルウァさんの身体から半径二メートルほどの円が出来たかと思うとそこが黒い霧のようなもので覆われた。その円の中にモンスターが入り込む。と思った瞬間、物凄いスピードで突進していたコボルトたちの動きが一気に遅くなった。それは止まって見える程に。
右手には木刀。遅くなったコボルトたちとは対照的にその剣筋の速さたるや。一瞬で三体の首を狩り取っていた。気付くころには三体の頭のない胴体だけのコボルトたちが血を流しながら横たわっていた。
「すごい…」
それしか言葉が出なかった。瞬きを忘れてしまうほどの美しい剣筋、技。シレーヌさんも目を見開いている。
「見てもらった通り僕の闇は相手を鈍らせる」
そう語るのは能力の説明。だが彼の強さは能力だけではなかった。
「まぁその効果は自分と相手の力量によるんだけどね。相手の方が強ければそれほど動きを鈍らせることはできないわけで。そんなに使い勝手がいいわけじゃないかな」
確かに相手が格上であれば使えない能力は使い勝手がいいとは決して言えない。相手に左右されず、常に自身の武器となるような能力であるのが望ましい。
だが、彼には。たとえ相手が格上であろうと、一瞬の隙さえ作ってしまえば‥‥。そう思わせる技術があった。それにしても…。
「どうして木刀なのにそれほどの切れ味が…」
シレーヌさんがそう呟く。そうそれが疑問であった。金属でもないただの木刀にそれほどの切れ味があるとは思えない。それに、ラルウァさんが背負っている袋。それにはもう一本、武器が入っているように思えた。
「まぁそれは力の纏い方かな。神の恩恵を受けた時身体の内部に何か入ってきたっていう感覚と同時に身体の周りにベールのようなものが張られた感じがするんだけどそれを持っている武器にまで広げるんだ。武器も身体の一部ってね」
そんな使い方が出来たのか。だが僕自身その感覚がどういうものなのか分からなかった。
「すぐには無理だよ。さすがにね」
そりゃそうか。鍛錬の中で、神の力を自分のものにする過程で出来うる芸当なんだとそう思った。神の力は僕が思っているよりももっと奥が深いのかもしれない。
「じゃあそれは…」
ラルウァさんが背負っている袋を指さし尋ねる。それは一体…。
「あぁこれは…」
そう言うとラルウァさんの笑顔が一瞬だけ、ほんの一瞬だけ暗く、寂しさを感じさせるものになった気がした。だがすぐに元の笑顔に戻り答える。
「これは、真剣だよ。本当に切らなければならないものを切るためのね」
そう答えたラルウァさんの笑顔はとても笑っているようには思えなかった。




