10話 『きっと少年はあの戦士の』
そこはまるで宝石箱のようだった。その店はお世辞にも広いとは言えず、店内は暗く埃っぽくあるものの一流の戦士たちが身につけているような、ただ横眼から見ることしかできなかった武器や防具が並べられていた。
「おじさーん!きたよー!」
ロゼリアさんは元気よくその店の店主と思われる貫禄のある少し小太りな中年男性に手を振った。
「なんだ、お前らか」
その店主は不愛想に返した。だがその瞳は彼女らの身につけている服装を凝視していた。
「今日は何の用だ。整備は行き届いているようだが」
なるほど、彼の視線は確実にその防具の状態を捉えているようだった。これだけでもこの店主が相当に優れていることが分かる。
「さすがね。でも今日は私たちじゃないのよね」
ルーネさんはそういい僕の方に目線を映した。
「このガキがなんか用か」
そう睨みをきかせてこちらを凝視する。背筋がゾッとする。モンスターとも、戦士とも違う視線。自身の全てを見透かされているような、言ってしまえば神様の視線に近い。
「そのガキはなにもんだ?お前らの新しい仲間か?いかにも駆け出しって感じだが」
一瞬で見透かされた。僕が駆け出しの戦士だということを。まぁまだこの人たちに比べればオーラも何もないんだけど。
「うーーん…。仲間っていうか友達?かな!とりあえずそう!この子にピッタリな武器を見繕ってよ!」
そう無邪気に説明する。ていうか友達とは…。だがロゼリアさんのこういうところもこの店主は理解しているようで「そうか」と一言いいその準備を始めているようだった。
「で、お前の能力は?」
「この子の能力はね!火を使うんだよ!それも他とは全然違う火!」
「お前には聞いてない。まぁいい。見たところお前は剣士か?その剣を見せてみろ」
そう言い僕の腰につけられた剣を差し出すように指示する。その指示にただ従う言うに差し出す。
「なるほど能力に耐え切れなくなって砕け散ったってとこか。にしてもこの剣…。おい、これをどこで手に入れた?」
思いもよらない質問にすぐには答えられなかった。この剣は確か…
「昔戦い方を教えてもらっていた師匠に頂いたものです」
そう師匠に貰ったもの。それをずっと使い続けてきた。
「ほう‥‥‥」
店主がその答えを聞くと何か考えるように右手を顎に当てて俯いた。
「珍しいこともあるものね。あんたがここまで考え込むなんて」
そうルーネさんの茶化す声も聞けていない様子で深く考え込んでいるようだった。ルーネさんも「わけわかんない」というように呆れているようだった。ロゼリアさんはそんなこと興味なさそうにシレーヌさんを連れて店内を楽しそうに見て回っていた。
そうしてしばらくした後その店主は口を開いた。
「作ってやる」
え?なんて?
「作ってやると言ったんだ。こいつらの紹介でもあるしな」
作ってくれる?おいてあるものを売ってくれるんじゃなくて作ってくれるの?
「明日は剣でも降ってくるのかしら。あんたがそんな気前がいいなんて」
「うるせぇ。こいつに少し興味がある。でお前の能力は火っつたか?」
「へぁ、は、はい!」
いきなり話を振られ変な声が出る。
「えー、そこまでするの?私の武器オーダーメイドしてくれるのC級になってからだったじゃん!ずるーいー」
そうロゼリアさんは駄々をこねる。
「うるせぇ。今は作ってやってるんだからいいだろ。」
そうだ。オーダーメイドの武器なんて最低でもC級以上、一般的にはB級以上の戦士が持つ物だ。間違っても駆け出しの戦士が使っていいものじゃない。お金だって…。
「あの…、僕そんなに手持ちないんですけど…」
「それについては心配するな。死んでも返せ」
心配するなとは?死んでも返せって言いました?
「どっちにしろここにおいてある武器は駆け出しの戦士が買えるほどのなまくらはおいてない」
そう言われ試しに近くに置いてあった防具の値段を見てみると、
‥‥え?これ間違いじゃなくて?
「まぁそんなもんよ武器なんて」
ルーネさんはさも当然であるかのように言う。さっきシレーヌさんが驚いていたのはこれだったのか。今になって理解する。
「それにすぐ払えってわけじゃない。いわゆるローンってやつかな」
そう淡々と説明してくるが、店頭においてあるのだけでこれだけの値段がするんだ。オーダーメイドってどれだけの値段がするんだろう。考えるだけでクラクラしてきた。僕に明日は来るんだろうか。
「ついでにそこの嬢ちゃんのも作ってやるよ。嬢ちゃんは術士か?」
そう言いシレーヌさんの方に話題がいく。だが僕には明日の生活のことしか考えられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
ルーネは意外に思っていた。この頑固ジジイがこれほどまでに気前よく人に武器をつくるのはめったにないことだったからだ。なにか心境の変化でもあったのか?この少年が先ほど見せた武器がそれほどのものだったのか?それとも、この少年自身が凝り固まった爺さんの意志を動かしたのか?
いずれにしても、不思議な少年だとそう思った。この少年に関して何か情報があるわけでもない。得体のしれない能力者と仲良くするなどあってはならないことだ。この時代においてはモンスターだけが脅威となりえるわけではない。パーティ同士のいがみ合い、派閥争いこそ我々が今最も警戒しなければならないことだ。
そんな時代において素性の知らないものに手の内を見せるなど前代未聞だ。
そのはずなのに、それなのに少年はどこか安心できた。その根拠はわからない。
ただの勘だ。
だがその勘は長年、戦いの中で培ってきた勘でもあった。危険なものには特有の匂いがする。それが戦士として育て上げられた私の勘だ。だからこそこの少年のことが不思議でならなかった。きっとこの少年には何かある。そう思わざるを得なかった。
「‥‥その剣は?木刀?」
ある一本の剣をルーネの目が捉えた。その代物は現代において格段珍しいものではなかった。だがそれは実践で使われることなどもはや皆無であった。それなのにこの店にあるのはどう考えても不自然だ。
「あぁ…。ちょっとな…」
そう呟いた老父の表情は今まで以上に考え込むように暗くなり、声もここにあるように思えなかった。




