6話 『永遠よりも永い一瞬』
「おーい。」
「おーーい!ボコボコにされた少年!」
どこからともなく声が聞こえる。場内はものすごい歓声であったためすぐには気が付かなかったがどうやら僕を呼んでいるらしい。てかボコボコにされた少年て…。結構気にしてるんだけどな。
「こっちこっち!」
そんなことはまったく気にしていないのか陽気な声で手招きしてくるその戦士は可愛らしい少女ともいえた。てかこんな小さい子に少年って呼ばれるんだ僕。
「一緒に試合見よ!」
この子は確かユーリさんのパーティにいた子だ。それも僕をボコボコにした戦士と一緒にいた。ということはこの子もユーリさんのパーティのレギュラーメンバーなのだろう。末恐ろしい世の中だ。
「うちはロゼリア!カルナって呼んでもいい?」
うん。この子はコミュニケーション能力が物凄く高いな。ぐいぐい来るよ。
「は、はい。それで大丈夫です…。」
と、思ったら隣にいたシレーヌさんとも仲良くなっている。まぁ確かに誰にたいしても壁なく接している。戦士には珍しい光景であった。
「それにしてもさっきの試合凄かったね!思わず見入っちゃったよ!」
そう真っすぐに目を輝かせながら言ってくる。そこにはなんの皮肉も含まれているようには思わなかった。でも今はその真っすぐさが痛い。僕は負けたのだから。そう落ち込んでいるように見えたからだろうか、それともただ本心を言っているだけなのだろうか。明るい口調でロゼリアさんは話を続ける。
「普通じゃありえないことだよ?なりたての戦士がB級戦士に能力を使わせるなんてことは!ほんとに凄いよ!」
きっとここには励まそうだとかそういう気遣いは一切ないのだろう。そこにはただ純粋に凄いと思っているだけなのだろう。そう思わせるものがこの人にはあった。
「だって見て見て!あいつなんかあそこで拗ねてるもん!」
そういい少し離れた場所で座っている一人の戦士を指さしながら笑っている。
彼は少しこっちを睨んだ後、何も言わず再び試合を見始めた。
「まぁそこまでにしときな。ルーヴの油断もあったのは事実だけど、それ以上にその少年がすごかった。」
その会話に入ってきたのはロゼリアさんの隣に座っていたロゼリアさんとは対照的に妖美な姿の美女だった。ていうかあの人の名前初めて聞いたな。なんか自己紹介って照れくさいんだよな。
「それは分かってるよー!でもあいつも一回は痛い目見た方がいいと思ってたんだよ!ユーリちゃんにも生意気になってたし!ルーネもわかるでしょ!」
あなたリーダーのことちゃん付けで呼んでいるのね。それに関してはいいのかしら。そんなことを思うが誰もツッコまないのでそっとしておく。
その後もロゼリアさんとルーネと呼ばれている女性は楽しそうに話していた。その様子はまるで年の離れた姉妹のようだった。
「試合に集中したらどうだ?」
その楽しそうで、見ていたらこちらの心まで温かくなるような会話に水を差すように声を掛けてきたのは眼鏡をかけたいかにも真面目そうな青年だった。その風貌はどの戦士よりも洗練されてみえる。
「あのリーダーの戦いを客観的に見ることができる機会なんてそうそうない。少しは真剣に見た方がいい。」
そう一見したら誤解されそうな言葉でも少しだけ悪態をつきながらも二人がちゃんと試合を見る姿を見ると彼が信頼されているのがわかる。後から聞いた話だが彼は副リーダーともいえる立場におり、その強さはユーリさんに敵わないなかでもそれに劣らないものらしい。
きっと僕のはるか遠くにいるのだろう。見た目、口調、そこから読み取れる通り、彼は本当にまじめであるようだった。その試合から何かを吸収し、自身をさらなる高見に持っていこうとする。彼の姿勢からはそのような覚悟が見て取れた。
僕も負けていられない。
たった一度の敗北で何を落ち込んでいるんだ。
挫折など数えきれないほど経験してきた。
それはこの先も変わらない。たとえ能力を得ようともそこは変わらない。
そう思い、闘技場に目を向ける。
そこには信じられない光景があった。
速い‥‥!
一級とも言える戦士同士の戦いはその規模、スピード感が全て別格だった。
あっちか、いやこっち?もうあんなところに…
目に負えない。
それほどのスピードで繰り出される攻撃。
今何回攻撃した?
わからない。分からなかった。
その能力の規模も桁違いだった。
ユーリさんの火、彼女の氷それが正面から衝突している。相性はユーリさんに軍配が上がっているようだが。さすがB級戦士ともいえるのかその相性を戦術で覆している。
これが一流。これが一級。これが鍛えられた者同士の戦い。
遥か高い。どれだけの鍛錬を積めばこの領域に達することが出来るのか。
遥か遠い。どれだけの修羅場をくぐればこれほどの戦いが、これほどの動きができるのか。
見えなかった。その高みまで至った自分の姿が。
浮き彫りになった。自分の弱さが。
まだまだだ。
そう思った。そしてそれはここにいるすべての者が感じているようだった。先ほどまでたわいのない会話を繰り広げていたユーリさんのパーティメンバー全員が口を閉じ、一点を見つめていた。
その先にはもちろんその二人の攻防が繰り広げられている。
一滴の汗が落ちる。
自身が戦っているわけではないのに、自身がそこに立っているわけではないのに、感じてしまう緊張感、プレッシャー。
速く終わってほしいのに、終わってほしくない。
永遠よりも永い一瞬がそこにはあるような気がした。




