3話 『きっとそれは試合でも変わらない』
上級戦士同士の戦い。
そのはずだった。
なのにどうして、なぜこうなった?
どうして僕が闘技場に、そして、あの青年と向かい合っているんだ?
騙された。完全に騙された。そうだよく考えれば分かることじゃないか。彼女の目的は僕の能力をフレア様に見せつけることだったじゃないか。それに戦闘なんて好都合じゃないか。どうして気が付かなかった。それはあの青年も同じであるようだった。
「あー!なんで俺がお前なんかとやらなきゃならねぇ?こんな雑魚と戦って何になる!」
かなり腹が立っているようで、その口調にいら立ちを隠せていない。
「くそがっ!まぁいいここでさっさとお前をぶっ倒してあいつとやってやるよ!」
あらー。切り替えが早いことで。
「少年!この闘技場は何があろうと崩れない!私の加護があるからね!健闘してくれたまえ!」
おいおいフレア様まで何を言ってるんですか。相手は聞いたところによるとB級らしいですよ?僕今さっき適性が発現したばかりなんですけど⁉
闘技場は円形の広い場所だった。そこには木も草も何もなかった。つまり地の利が使えない。ともなればあとは力と力の真っ向勝負。
「頑張れよー!」
「ぶったおせー!」
この闘技場には観客席が円形に広がるその淵に設けられていた。そこには多くの観客がいる。これは全員ユーリさんのパーティの候補生らしい。そのクエストによって相性、難易度によって編成を変える。それほどまでに大きく、人気のパーティであった。
その中でも選ばれた人材。それがいまから相手にする青年であった。
観客席からフレア様の声が聞こえる。戦闘開始の合図だ。
「これはあくまで試合だからな!互いにやりすぎることのないように!まぁいざというときは止めに入るからな!ユーリが!」
そう、これは試合。だから大丈夫。
「それでは試合を始める。」
「始め‼」
その合図と同時にその青年は僕の目の前まで来ていた。かと思うとすぐに物凄い衝撃が走った。気付くと僕は壁際まで飛ばされていた。
「おいおい、今のでそこまでいくか?」
呆れた口調でありながらもその顔は笑っていた。僕にはそれが悪魔のように感じられた。これは試合のはずだろう⁉
「どんどんいくぜ。」
そういい猛攻が続く。
適性が発現し、ボス級の戦いを経た僕でもその攻撃を受け流すのがやっとだった。
速い。全てが洗練されている。口調や行動は荒々しいが、その攻撃はひどく、残酷までに正確だった。適所に的確に攻撃が飛んでくる。そのおかげで予測はしやすいもののその威力はモンスターの比ではなかった。ボス級までとはいかないまでもそれに近い威力は確実にあった。
だが、その攻撃がピタリと止まる。
「おい、てめえなめてんのか。」
え?何を言っているんだこの人は。
「ここまでボコボコにしてそれなりに守ってるから何か隠してんのかと思ったら、一向に反撃してこねぇじゃねぇか。能力使って来いよ。」
なるほど。そういうことか。この人は僕が手を抜いているように見えたのか。
「安心しろよ。お前程度に俺の能力は使わねぇから。出し惜しみすんなよ。」
だが違う。
「ほら、はやく。」
使わないのではない。
「使えって言ってんだろうが!」
使えないのだ。
わからなかった。どうやってあの力を使えばいいのか。どうすればいいのか。僕の適性は「火」だった。だから。あの炎は僕の力であるのだろう。だが僕は神の恩恵をもらった記憶はない。おそらく彼女もそのことに気が付いている。だからこそぼくの能力をフレア様に見せたかったのだろう。
「使えないんです…。」
だからここで出来るのはそう告白することだけだった。
「あ?」
「使えないんです。能力が。前使ったときどうやったか分からなくて…。だから…」
「使えない?嘘だろ…?じゃあ俺は能力も使えないゴミの相手をさせられてたのか?それをフレア様が分かっていないわけねぇ。」
信じられないというように後ずさりする。それでもしょうがない。
「だから―」
試合を止めにしましょうと言おうとしたがその先は言えなかった。
「ふざけんじゃねぇ‼」
なっ。
「舐められたもんだな俺も!あの氷の姫だったか?許さねぇ。そうだなこいつ半殺しにすりゃ出てくるだろ。」
もしかしてこの人まだっ―
そう思ったときには遅かった。今までのものとは比べ物にならないほどの威力の蹴りが腹に直撃する。ガードも何もしていなかったからだ。
頭が回らない。
「立てよ雑魚。半殺しにしてやるからよ。」
そういい一歩ずつ僕に近づいてくる。なんで⁉こうなった!
その攻撃はやまない。少しずつガード出来てきているもののその攻撃は確実に決まっていた。本当に死ぬぞこれ⁉試合なんだろう⁉
くそっ!やばい!
蹴り、パンチ、その攻撃が止まることはない。ガードが間に合わない。
はっ、やばいっ!
間に合わなかった。その攻撃が完璧に入る。
「ぐはぁっ」
血が飛び散る、不思議なことに闘技場は全くと言っていいほど壊れていなかった。ボロボロなのは僕だけだった。
観客先が異様な様子を勘づいたのか盛り上がりとは違うざわめきを起こす。
うつろな目でフレア様の方に目線を向ける。しかし、その目はやはり鋭く、何かを見極めるような目をしていた。それは彼女も同じだった。シレーヌさんとユーリさんはとても心配したような目をしている。
どうやら助けにはこないらしい。
「どうやら止めにはこないらしいな。」
相手もそれに気が付いたみたいだ。
「それにしても」
あいてが苛立ちを隠せないというように口を開く。
「お前のそういうところもむかつくんだよ。」
え?
「たしかに最初はフレア様や、あいつにもむかついた。それはいまもむかついてる。だけどそれ以上に助けがきてくれる前提で戦っているお前にむかついてんだよ。」
っ。
「能力が使えるだとか使えないだとかそれ以前の問題だろお前。戦士の資格ねぇよ。」
そうだ。
「楽にしてやる。安心しろよ。殺しはしねぇ。」
そう言い放ち、向かってくる。
そうだ。なにも違わないじゃないか。適性が発現しようと、これが試合であろうと。
あの時と何が違う?何も違わないじゃないか。助けは来ない。相手ははるか格上。この状況で命を懸けなくていつ懸ける。今できなければ、これからもできない。その形式にこだわらず、いまできる最善を尽くすんだ。
そこだけは変わっちゃいけない。
立てっ!立ち上がれっ!
自身の身体を鼓舞する。ボロボロの身体を気合で動かす。そうだ、いつだって原動力は…。
『想いを燃やせ』
頭に響く一節。適性が発現した今が、戦士になれた今が、スタート地点だ。
相手の攻撃が入ろうとするその瞬間。誰もが入ったと確信したその瞬間。
その炎は出た。
僕を纏うその炎は相手の攻撃を通さなかった。明るく照らすその炎が僕を護った。
「はっ、なんだその炎…」
さすがに相手も信じられないと言った様子だった。
それはここにいる観客ほぼ全員が同じだった。ただ、シレーヌさんは反撃の開始だと言わんばかりに喜んでいた。そして彼女は変わらず見極めるような目を、かの神は、わからなかった。
「いいぜ…。やっとか…。かかってこいやぁ!」
僕に大切なことを思い出させてくれた戦士は、嬉しそうにしている。
油断はしない。この能力を僕がどれだけ使いこなせるか。それが勝負のカギだ。
「行きます…!」
そういい攻撃を繰り出した。




