2話 『火の神は冷たく微笑む』
ギルドを出た後、少し歩きついた先は一つの神殿だった。その大きさ、彫刻からその神殿が並々ならぬものであることが一目でわかる。材質はこれがはるか昔に建てられたものであることを物語っていたが、しっかりと、そこに存在していた。
神々しかった。
その存在に圧倒される。ギルドから僕の後を追ってきていたシレーヌさんも同様であるように思えた。
「まぁアポなしできたからな。いるかどうか…。」
だが彼女は違った。その神々しさを前にしても何一つ変わらなかった。
「ん?そこにいるのは氷の姫ではないか?」
そこへ聞き覚えのある声がした。その声は温かく、胸を熱くする。
「おおやはり!久しぶりだな!」
「お久しぶりです。フレア様。」
あの彼女でさえ敬語を使うその声の主はフレア様だった。
フレア様は懐かしく、珍しい客が来てくれたと言わんばかりに嬉しそうに歩み寄ってくる。
「どうだ?昔話にでも花を咲かせようじゃないか!そうだなぁあんなに小さかった子がなぁ…。」
その恐ろしいというまでに整った顔立ちをした神は空を仰ぐように、懐かしさを感じているように空を見上げた。
「いえ、結構です。」
それを容赦なくぶった切る。さすが、氷の姫は伊達じゃないな。
「まぁまぁそう言うな!中で菓子でも食べながらな!な!」
それでも食い下がらないフレア様。それにしてもこの二人僕たちを置いてきすぎじゃないですか?一応いるのに全く反応されない。まぁ懐かしい顔が見れたらそうもなるか。きっと僕も師匠に会えたらこうなるに違いない。
「フレア様。」
そう冷たく言い放たれる。
「私の性格をご存じでしょう?無駄なことはしたくないのでは私の話を聞いていただいてもよろしいですか。」
ふむ、この人は本当に凄いな。言葉自体は敬語なのにそこに敬意のようなものは一切感じられない。神様相手にここまでの態度をとれるのはこの人ぐらいだろう。
「そうだったな。君は良くも悪くも厳しすぎる子だった。」
「で、君の話というのは何だね!君のことだここに来るということはそれなりのことなのだろう!」
さっきの会話から感じていたがこの二人はどういう関係なのだろうか。彼女の能力は氷であり、フレア様は火を司る神だ。その能力は対極にありすぎる。
「この少年のことです。」
そういい彼女は僕の方に目線を向ける。そして、それと同時にフレア様もこちらに目線を向ける。心なしかその視線は彼女に向けるものよりも鋭いような気がした。
「……ほう。それでこの少年が?」
「分かりませんか?あなたの目をもってしても。神の目をもってしても分かりませんか?」
そう穏やかとは言えない口調で言い放つ。
僕は何が何だか分からない。シレーヌさんもそれは同様であるようだった。
「はぁ。そうですか。」
諦めか、呆れか、あるいはその両方が入り混じったようなため息をつき彼女はフレア様に向けていた言葉の剣を鞘にしまう。
そしてその矛先は僕に向いた。
「おい。」
「え?」
「ここで能力を見せろ。」
僕に言っているのだろうか。
「お前だ。百聞は一見に如かず、だ。見てもらう方が早い。この何かを隠してそれを決して口外しないようとしている神にな。」
えぇ。そんなこと言ったってあれ以来あの力は使っていないからどう使えばいいか分からない。それにもう神様相手に容赦ないなこの人。
「ちょっと待ちなさい。」
そう困っているともう一つの高く凛とした声が聞こえる。
「久しぶりに来たと思ったら、まだフレア様相手にそんな態度とっているの?いい加減治しなさい。」
彼女相手に説教のような、というかほぼ説教のような口を利ける相手はそうそういない。その数少ない一人がこのA級戦士のユーカ・フレデリカだ。
「お前に用はない。黙っていろ。」
この人も負けていない。もうこの人には神様だとかA級だとか関係ないのだろう。
「あ?氷の姫が来てんのか?」
「君は少し黙っていた方がいい。我々の気品に関わる。」
「あ?てめぇは黙ってろよ。」
「もう二人ともいい加減にしてよ!」
そういい。三人の戦士が歩み寄ってきた。三人ともそのオーラからかなりの手練れであることがわかる。もしかしてこの人たち‥‥
「お前たち…。」
そう呆れ気味にユーカさんはため息をつく。
「まぁいい。一応君たちに紹介しよう。これが私たちのパーティだ。そした私がこのパーティのリーダーのユーカ・フレデリカだ。」
シレーヌさんは目を見開いて驚いている。まぁ無理もないだろう。ここにいるのはA級のパーティだ。本来であれば駆け出しの戦士が拝めるような人たちではない。
「次は君たちの番だ。」
そう言い、バトンが僕らにわたる。ここは普通‥‥、ってそうですよね。なんとなく分かっていました。
「え、えっと僕はカルナ・シグルドです。」
「わ、私はシレーヌ・ヴァーグです…。」
一通り済ませ順調にいけば…のところで沈黙が起きる。
「あなたの番よ。」
一斉に全員の目線が一点に集まる。
「なぜ?」
「『なぜ?』」
「なぜ私がお前たちに名を名乗らなければならない?」
やっぱり。この人本当に名乗る気なかったよ。
「お前さっきから生意気じゃねぇか?あ?氷の姫だか何だか知らねぇけどよ。あんま調子のんなよ。」
そうつっかかってきたのはいかにもいかつそうな青年だった。身体は程よくついた筋肉にその腕には刺青が入っている。その立ち振る舞いは戦士というよりも獣そのものだった。
彼女はその青年にひどく冷めた、鋭い視線を送る。しかし彼は臆さなかった。それどころかより好戦的になった。
「あ?なんだその目は?いいぜ。やろうぜ?」
え?やるって何を?この人まさか…。
「安い挑発だな。だがいいだろう。その挑発に乗ってやろう。」
「おい、お前たち!」
ユーリさんが止めに入るも二人が止まる気配はない。
このやり取りをフレア様は我が子の成長を嬉しくような笑顔でうんうんと頷きながら見ている。いや止めてくださいよ!
「フレア様!」
ついにユーリさんがフレア様に助けを求める。それにフレア様は‥‥
「うん!いい!」
え?
「よし!やろう!試合だ!」
まじですか?
その心持はユーリさんも、そのパーティの人たちも、シレーヌさんも、つまりあの二人以外全員同じようであった。
「へっ許可も出たことだし暴れてやるか!」
いやいや暴れるの意味が分からないんですけど。でも少し楽しみな気持ちはあった。
彼女の、B級戦士の戦いが、見られる。
そこに対する楽しさは少なからずあった。ユーリさんはため息をついているが、シレーヌさんもほかのパーティメンバーもその心持でいるのか少し口角は上がっていた。




