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燎が世界を照らすとき  作者: コンパス定規
2章 『始動』
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1話 『ここがスタートだと確かに想った』

 あの激戦から数日。僕、カルナ・シグルドはギルドで戦士登録を行っていた。戦士登録を行うことによって戦士として正式に認められ、一人でクエストを受けたり、自発的にパーティを組むことが出来るようになる。


「では、まず適性の発現をチェックしますね。この紙に手を置いてください。」


 そう僕の大切な戦士登録に対応してくれているのはギルド職員のマリーさん。彼女には幾度となく助けられている。ボス級モンスターとの戦いが終わり、目が覚ました時に側にいてくれたのは僕の弟子であるシレーヌさんであるが、彼女も同様に心配してくれていた。

 仕事があったために側にいられなかったと悔しがっていたが、その分、後から過去で一番というほどこっぴどく叱られた。それだけ僕のことを思ってくれているのだろう。

 どれだけ僕のことを応援してくれているかはこの戦士登録の対応にも表れている。真っ先に僕に声を掛けてくれ、推薦してくれた。

 その期待に応えたい。きっと大丈夫…。

 そう思う反面、本当に大丈夫だろうか、そう不安になる自分もいた。

 あれ以来、戦闘は行っていない。怪我の治療が最優先とマリーさんがクエスト参加を許してくれなかったし、シレーヌさんも僕がモンスターを倒しに行くことを全力で止めていた。

 だから、その能力が本当に自分自身のものになっているのか、どこか疑ってしまっていた。

 額から一粒の汗が落ちてくる。特段暑いわけではない。それでも緊張していた。


「カルナさーん!」


 手を紙に置こうとしてその時後ろから声を掛けられた。びくっと身体が反応する。その声は幼くもあるが、美しい声だった。この声を僕は知っている。


「シレーヌさん。」


 声の主は綺麗な水色の髪をたなびかせながら、女神のような笑顔で手を振りながら僕に近づいてきた。マリーさんにもこんにちはと挨拶をしている。


「あれ、タイミングまずかったですか…?」


 シレーヌさんは控えめに、そして申し訳なさそうにつぶやく。

 確かに覚悟を決めてやろうとしたタイミングで呼ばれたためにその覚悟と緊張はどこかに言ってしまったが、むしろその方がいいのかもしれない。


「全然大丈夫ですよ。むしろ緊張がほぐれたというかなんというか…。」


 シレーヌさんは置かれた紙を見て事情を把握したのか、声を掛けてきた無邪気な笑顔とはまた違った安心感を与えてくれるような笑顔で僕に語り掛けてくる。


「大丈夫ですよ、カルナさんなら。あのモンスターを倒したのはカルナさんなんですから。そんなカルナさんが適性がないはずがないです。大丈夫です。」


 そうなのかもしれない。あのときあの場にいた彼女が言うんだ。きっと間違っていない。

 マリーさんとも目が合う。

 彼女は何も発しなかった。その代わりに聖母のような笑みを僕に向けてきた。大丈夫だよ、心配することは何もないよ、そんなことを言っているように。

 きっと大丈夫だ。この紙に手を置くことはそんなに勇気のいることじゃない。なるようになるだけだ。もとより失うものなんかない。なくてもともとだ。

 よし。

 そう決め、目をつぶりながら紙に手を置く。

 その瞬間紙が輝きを放つ。眩しいまでの光。目をつぶっていてもその光が今までの光とは違うことが分かるほどだった。


『適性 火』


 確かに刻まれていた。確かに書かれていた。何度も試しても「なし」のに文字以外は刻まれなかったその紙に確かに刻まれた「火」という適性。

 涙が止まらない。目からこぼれだして止まらない。

 やっと、やっと、やっと…!

 シレーヌさんや、マリーさんの一緒に喜んでくれている。それが嬉しかった。


「いつまでそうしている。」


 そんな感動の空気が冷めた一言によって一転した。

 その声の主は冷たい口調とは裏腹に、燃えていると思えるほど真っ赤な髪と瞳を持つ美女であった。その凛々しさと佇まいはその戦士の強さをはっきりと示している。


「はぁ。あなたは相変わらず空気が読めないわね。長年目指していた夢がやっとかなったのよ?その余韻に浸るのも悪くないと思うけど?」


 そう言い返すのはマリーさんだった。

 赤髪の戦士の冷めた言葉に涙は止まったが、それ以上にマリーさんの砕けた口調に涙なんか引っ込んでしまった。それは一緒に喜んでくれていたシレーヌさんも同じようだ。


「二人ともどうしたの?そんな驚いた顔をして。」

「いえ、外面はいいマリーさんがこんなにも砕けた口調で話していることに驚いて。しかもこれほどの人を相手に…。」


 シレーヌさんの無意識なのか、皮肉なのかわからない言葉が飛ぶ。うん、シレーヌさんなんかマリーさんに厳しくない?


「シレーヌさん、あなた私に厳しくないかしら?なんか対抗心燃やしているようだけど何かしたかしら?」


 シレーヌさん、マリーさん、どっちも一歩も引かない。

 あれー、さっきまで一緒に僕の適性発言を喜んでくれていたよね?なんで急にこんな空気になってるの。


「なぜ、お前たちが喧嘩をしている。」


 赤髪の戦士も呆れている。


「まぁまぁ、とりあえず二人とも落ち着きましょう?」

「そーね。少し大人げなかったかもしれないわ。ごめんなさいねシレーヌさん。」


 うん全然謝ってる感じはしない。


「それ謝ってるつもりですか?全然誠意が感じられないんですけど。」


 やっぱりこうなったか。どうすればいいの、ねぇこれどうやっても止まんなくない。


「くだらん。お前らは勝ってにやっていればいい。私の用はこっちの男にある。」


 そう言い、僕の方に視線を向ける。視線を向けるというより睨んでいるという風だった。

 え、僕?


「「「「「「えーーーーー!!!!」」」」」」


 信じられないのは僕だけではないようだ。シレーヌさん、マリーさんだけでなく、その発言を聞いたすべての人が驚きを隠せないでいた。


「おい、氷の姫があいつにだってよ。」

「おかしいだろなんであいつが。」

「まだ適性が発現しただけだろ。」


 そんな声が聞こえる。はは。やっぱりこうなるのか。まぁシレーヌさんやマリーさんと仲良くさせてもらっているだけでなくその人たちに劣らないほどの美形である彼女にまで用があると言われたのだ。そもそも認知されているだけでもすごいことである。


「なんだ。そんなにおかしいことか。」


 大分おかしいです。まぁそんなことはさておき彼女が僕に用があるとはどういうことだろう。彼女に視線を向けるとその鋭い視線と交差した。

 心臓が飛び跳ねそうになる。それは何もロマンティックなものではなく、恐らく動物の防衛本能の一種であろう。人のトラウマはそう簡単には消えない。あの日、自身の夢を否定され、心を折られたトラウマはなかなか消えない。それがたとえ適性が発現し、夢の第一歩を踏み出そうとしていたとしても。


「はぁ。そう怯えるな。まぁあのときのことはその……」


 え、なんて?最後の方全然聞こえなかったんだけど。


「すいません、最後の方が聞こえなくて…」

「あ?」


 ひっ。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。その目はモンスターに向けるものですよね?間違っても人に向けるようにものじゃないですよね。


「だからその…」

「え?」

「…‥」


 ん?とうとう何も聞こえなくなったぞ。心なしか顔が赤いような…。


「もういい。私の用事をさっさとすませる。」


 さっき見た気がしたような赤らめた表情は一切なく、凛とした表情だけがその美しい顔に張られていた。

 はい勘違いでした。そんなこと一切ありませんでした。まぁこの人が顔を赤らめるなんてことはないよな。それよりも用事ってなんだ?この人が僕に用事なんてあるのか?でも好都合かもしれない。僕もこの人に伝えなければならないことがある。


「はやくいくぞ。」


 そう言い彼女は歩き始める。

 彼女は強い。その強さをつくっているものこそ、この無駄のない行動力だろう。一分一秒たりとも無駄にしない。その行動一つ一つに意味がある。そんなことを考えさせられる立ち振る舞い。だからこそここで彼女の行動を引き留めるのは違う気がした。

 だから彼女の歩みを止めることなくその後に続いた。




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